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「……それは、恋愛的な意味……ですよね?」


アリサの確認に、コニーは無言で頷いた。


この際なので、コニーは今後の展開に関わるアリサの気持ちを聞いておきたかった。アリサが本当にアーネストを好きならば更に過酷な試練イベントが待っているだろう。それによって、コニーの大切な人達が巻き込まれることになる。いくつもの可能性を考えるより、的を絞った方がより良い対策を取れると思ったのだ。




「……好き、になりそうだったと思います」



しばらく考えこんでいた様子のアリサがゆっくりと口を開いた。


「貴族のマナーを知らない私はきっと無礼なことをたくさんしていたはずなのに、アーネスト殿下は優しくしてくれたんです。他の貴族……特に女子からは冷たくされていたから、余計に嬉しくて……。この人が望んでくれるなら、お付き合いして、いずれは王子妃になっちゃったりして?……なんて、高望みもしていました」


本当に身の程知らずですよね、とアリサは苦笑交じりに言った。




ノアは言っていた。彼女は父親の商売を盛り上げるため、出来ることをしている、と。玉の輿も狙っているのだと。



連れ子の自分を大事にしてくれる父親を助けたい。ここまでは健気で、まさに乙女ゲームのヒロインにふさわしい思考だ。

玉の輿は……強かさがないとヒロインもやってられないかもしれない。昨今の物語のヒロインは王子様がいらないくらい強いから。




「だけど、婚約者がいると知って、ダメだと思いました。そんなつもりじゃなかったんです。婚約者の方を傷つけるつもりはありませんでした。本当です」


アリサの真剣な様子で、コニーはその主張が真実だと思えた。

色々誤解されるような行動をしていたが、確かに彼女がわざとパトリシアを煽るようなことをしたという決定的な証拠はないし、今思えば悩んでいる様子であった。



となると、今はアーネストの片想いかぁ……。



コニーはここからどう展開していくのか、妄想したい衝動をぐっと堪える。今はまだアリサと話しているので我慢するが、ソワソワと落ち着かない。


二人の会話が聞こえているかもしれないアーヴィンとノアは何を思うのか。想いが一方通行だと知ったアーネストはヒロインにどうアプローチするのか……婚約者のパトリシアとどう向き合うのか。


考えだしたら切りが無い。


「……わかりました。とにかく、今のあなたは危険な状況なのだから、今日のところは帰りましょう。警備の方も困るでしょうし」

「そうですね……」

コニーが貴族令嬢らしく、キリッとそれらしいことを言って解散を宣言すると、アリサはしゅんっと表情を曇らせながらも了承した。

二人揃って待っている幼馴染みの元へ歩き始める。

「……あの、ブラウン様……明日もまたお話させていただいてもいいですか?」

歩きながら、アリサがおずおずとコニーに問いかけてきた。

遠慮気味だが、切実さを感じる。入学して半年以上、クラスメイトでまともに話せる人がいないというのは、とても辛い状況だっただろう。きっかけがあれば、自分も藁にもすがる思いで話し相手を手に入れようとするだろうとコニーは思った。

「コニーと呼んでくださいね」

「!……私も、どうぞアリサと呼んでください!」

数多の攻略対象が陥落する、この花が咲いたような笑顔ヒロインスマイルにコニーも白旗を振った。アリサが思った以上に良い子だから仕方がない。



……ええ。こうなったら、堂々と護りますよ。ヒロインも、悪役令嬢も!



コニーはアリサとも友達になった。

自分に何が出来るかわからない。だけど、友達を護るため、見てみぬふりはもう止めようと決意するのだった。




「それでは失礼します、コニー様」

「コニー様、本当にありがとうございました」

アリサは合流したノアと一緒に、改めてコニーに頭を下げる。

可愛らしい二人が並んでニコニコと親しみを向けて来られたら、コニーの心は鷲掴みだ。つい先程まで避けていたことは棚に上げ、コニーはアリサとノアの頭を撫でたい衝動を抑える。


「コンスタンティン嬢」


すると、そこへやって来たヒューゴに声をかけられた。

「アクア先輩、どうされたんですか?」

「委員会の連絡事項です」

ヒューゴはそう言ってコニーに顔を近づける。

「直接声をかけると、余計に狙われるかもしれないと」

ヒューゴがコニーだけ聞こえるように説明した。

チラッとヒューゴが視線をやった向こうの柱の影から、オレンジの髪が見えている。


なるほど。妹が心配なリュカに様子を見てくるよう言いつけられたのか。


「ピスフルさん」

コニーから離れたヒューゴは、アリサへ向き直る。

「アクア先輩、こんにちは」

「体調はどうですか?」

「お陰様ですっかり元気です!その節は本当にありがとうございました!」

嬉しそうにヒューゴへ笑顔を向けるアリサの言葉に、コニーは引っかかる。

「……その節、とは?」

「アリサが倒れていたのを見つけて運んでくれたのは、この先輩なんだ」

コニーの問いにノアが答える。

アリサは恩人に好意的に接し、ヒューゴも心なしか優しい表情を向けている。


……なんだか、良い雰囲気じゃない?




ヒューゴはノーマークだった!


……いや、攻略対象の一人だとは思っていたけど、接触している様子がなく、その後の進展がなさそうで、アーヴィンの次くらいに彼のルートへ行くことはないと思っていた。




だが、ヒューゴルートに行くならアーネストルートよりもハードルは低いだろう。問題は、どのルートでも大小違いはあれど危険が伴う試練があるだろうこと。恋に試練は付き物だから。




コニーの妄想スイッチが入る。







路上に倒れ、薄れゆく意識の中、こちらへ駆け寄る見覚えのある人物。


『おい!しっかりしろ!』


抱き起こし、必死に呼びかけてくれるが、ヒロインは答えることができない。

『……すぐに医者に診せる。死ぬんじゃないぞ!頑張るんだ!!』

抱き上げて運びながら、ヒューゴはヒロインを励まし続ける。


このまま自分は死ぬのかと絶望する中、暗闇を照らす光のように、ヒューゴの声はヒロインを奮い立たせた。


そうだ、このまま死にたくない。負けたくない!


やがて毒に打ち勝ったヒロインはヒューゴに会って感謝を伝えたいと思い続けた。

あの日、自分を励まし、必死に助けようとしてくれた恩人。彼のことを考え、見ているうちに彼の良いところにどんどん気づいて惹かれていく。


一方のヒューゴも、リュカに頼まれヒロインを護るために傍にいるようになり、彼女に惹かれていく。

しかし、彼女は本来、隣国の皇女。護るべき尊い人ではあるが、恋心を抱くなど貧乏男爵家の三男坊が身の程知らずだ。


ヒューゴが想いを封じて任務を全うしようとする中、またヒロインの命が狙われてしまう。

僅かに目を離した隙に拐われたヒロイン。愛する人の危機に形振り構っていられない。ヒューゴはヒロインを救うため走り出す──






「アクア先輩!」


唐突に声を上げたコニーをヒューゴとアリサがきょとんと見てくる。


「……絶対、アリサさんから目を離さないでくださいね!」


これから起こる良くないことを防ぐ。

その決意の勢いで色々口走りそうなコニーだったが、それまで成り行きを見守っていたアーヴィンが痺れを切らして引きずるように連れ出して、戸惑うアリサ達を置いて帰路につくのだった。


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