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リュカがディアラ王室の秘密を語る──
「そもそもがディアラの習性の問題でもあるんだけど……我が国では昔から占いが頼りにされてて、国の行事も占いで決めることがある」
ゆいの世界の歴史でもよくある話だ。結婚を占いで良き日にする等、一般人にも浸透している。
「十四年前、母の妊娠と同時期に妊娠が発覚した侍女がいた。未婚だったけど、父……当時の王太子の目に留まって手を出されたらしい」
好色不倫王、最低!
身分が低く、身寄りのない侍女は妃になることを望まず、極秘に出産して一人で育てることを望んだ。
しかし、侍女と友人でもあった王太子妃は生まれた子を引き取り、自身が双子を産んだものとして育てると申し出た。望まぬ相手をして妊娠してしまった友人のため、生まれてくる子どもに王の子として当然得られる権利を享受させるために。
このことは王太子妃の周辺の一部の者のみが知っていて、そのまま内密に収まるはずだった。
ところが、とある占い師が、まもなく生まれる王太子の子は一方がもう一方への災いとなる、と占い結果を出してしまった。
占い師は口止めされたが、問題は占いの内容だ。妊娠の真実を知る大人達は、当然、非嫡出子となる侍女が産む子を処分しようと考えた。
正当な王の子の災いとなる子どもを見過ごせない、と──
「だから母は、侍女を逃した。用意出来るだけのお金と、親愛の証としてブローチを侍女に与えて……その後、一度だけ侍女から母に連絡があったそうだよ。女の子を産んで、今は頼りになる人と幸せに暮らしている、と」
その侍女は無事に逃げのびて女の子を出産し、商人と結婚してアニューラスに移住したアリサの母、ということか。
「……アリサ・ピスフルが毒を飲まされたのは、もしかしたら、ディアラの王族を狙ったものかもしれない。私が彼女を調べていたから……?ディアラのもう一人の王女について、どこからか漏れて、狙われたとしたら……」
「リュカ、落ち着け」
「お願いだ、エリオット!彼女を……妹を守ってくれ」
リュカはエリオットに深々と頭を下げた。リュカももう気づいているのだ。直感でも調査結果でも、彼女がディアラの現国王と侍女の娘……自分の妹であることに間違いない、と。
その妹が命の危機に瀕している。どうにか救いたいと必死なのだ。
リュカの話を聞いて、コニーは色々妄想していたことがようやくスッキリした。
──やっぱりヒロインはなかなかハードな出生の秘密を持つのが定番よね……。
さて、隣国の王女であることがわかったヒロインの扱いはどうなるかしら?
公表すれば、身分的にはアーネストとの結婚は問題ない。その他の問題は置いておいて。その問題も順番に解決していけば二人は幸せになれるだろう。
でも、今回アリサが毒に倒れることになった原因はきっと……。
──それを考えたコニーは、この先の展開を阻止したいと思った。
あの人のためにも、他の皆のためにも……。
「ティナ……ごめんね、変な話を聞かせて」
エリオットはひとまず、お茶会参加者達を解散させるために退室し、部屋に残ったリュカが、同じく残留しているコニーに困り顔で声をかけてきた。
「いえ……むしろ、聞いてしまってすみません」
「エリオットが残したんだから聞かざるを得ない状況でしょ?それに、ティナを見ていたら落ち着いてきたし、いてもらって良かった」
そうして優しい笑みを向けてくるリュカは、本当にコニーに親しみを向けてくれているようだ。ただ、コニーにはその理由がわからない。ナンパな性格……もとい、誰にでも友好的なリュカだが、出会った時からコニーに対して特に気安い気がする。
「妹を捜すのも、ティナを可愛く思うのも妹への憧れ?願望……かな?」
コニーが不思議に思って見ていたことに気づいたのか、リュカは少し考えてから理由を話し出した。
「お母様が同時期に産んだ子も女の子だったんだよ。すっごく可愛くて、初めての下の兄妹で本当に嬉しかった」
リュカにヒロイン以外の妹がいたとはコニーは初耳だった。第二王子ということなので兄がいることはわかっていたが、コニーについて『こんな妹が欲しかった』と言っていたので、現状では妹がいないということだと思っていた。
「でも、あの子は死んでしまった。生まれつき体が弱くて……まだ四歳だった」
コニーははっと息を呑む。生まれる前から数奇な運命に巻き込まれた王女が、たったの四歳で人生を終えることになるなんて、無情としか言いようがない。
「私も六歳の子どもで、とても受け入れられなくて、塞ぎ込んでいたんだけど、私以上に辛いはずのお母様が教えてくれたんだ。私には“もう一人妹がいる。その子は遠い場所で元気に暮らしている”って。いつかその子に会えた時、死んだ妹の分までめいっぱい可愛がるって決めてたんだ」
リュカは泣きそうな顔で力強く語った。
だからもう一人の妹を捜していたのだ。そして、自分と同じ瞳の色──王族に遺伝している瞳を持ち、侍女への親愛の証のブローチを持つアリサと出会った。
「ブローチはお母様がお祖母様の王太后から受け継いだもので、王太后の肖像画にも描かれているからよく覚えているよ。でも、確証が持てなかったから調べていたんだ。まさかこんなことになるなんて……」
「大丈夫です!お医者様が診てくれてますし、運び込まれたのはピスフルさんの幼馴染みの薬屋でしょうし、きっとすぐ解毒してくれてるはずですよ!」
何より、ヒロインがこんなところで死ぬはずがない。だから、きっと、大丈夫!
コニーはリュカを励ましながら、自分にそう言い聞かせていた。
それにしても、こういう話を聞いて攻略対象を励ますのってヒロインの役割じゃないのだろうか?
見て見ぬ振りをするのが忍びなくて、イベントを阻止しちゃったり、悪役令嬢の友人になったり……。
益々自分の立ち位置がわからなくなるコニーだった。




