49
抵抗虚しく、迎えたお茶会当日……天候に恵まれ、過ごしやすい陽気とは対照的に、コニー自身はどんより曇り空な気分だった。
参加者は十人に満たなかった。主催となる王族からはエリオットとアーネスト。主賓のフィロメーナに、隣国の王子リュカ。公爵家のアーヴィン、侯爵家からはパトリシアを始めとする子女数名が出席している。
成年になるかならないかぐらいの年頃ばかりだが、錚々たる面子だ。この顔ぶれの中で、伯爵家のクリスティアンとコニーが一番家格が低いことになる。
ますます気が重いお茶会だ。
「学園では今、どのような勉強をされるのですか?」
「ゼルビアといえば、素晴らしい絹織物を産出されていますね。アニューラスでも大変人気がありますよ」
「イリヤ湖に行かれたことはありますか?エメラルドグリーンの美しい湖ですよ」
フィロメーナを中心に和気あいあいと会話が弾む中、コニーはアーヴィンとクリスティアンの間に座ってちみちみお茶を飲んでいた。
下手なことをすれば母に叱られるどころでは済まないというのもあるが、失恋直後にその対象とお相手とお茶会をしなければならない複雑な心境をぐっと抑え込んでいるのだ。
王族と伯爵家では端と端に位置しているが、人数が少ないため然程席は離れていない。なお、本来王族の隣になるはずのアーヴィンは、わざわざコニーの隣に移動して来ている。
そのため、声をかけられずとも、嫌でも二人の並んだ姿を目にしてしまう。
王族席はコニーから向かって、リュカ、エリオット、フィロメーナ、アーネストと並んでいる。
隣同士のフィロメーナとエリオットは時々笑みを交わしながら仲睦まじい様子だ。
ヒロインがエリオットルートを選ばなければ、彼はこのままフィロメーナと結婚するのだろう。
国同士の繋がりを盤石にするため。当人同士の仲も良好で、美男美女のお似合いのカップルだ。
……どう転んでも、コニーの恋が上手くいくはずなかったのだ。
もんもんとするコニーは現実逃避も兼ねて、他の攻略対象に目をやって妄想することにした。
──兄とは対照的に、アーネストは婚約者のパトリシアと並んで座っているのに会話がない。
パトリシアはチラチラとアーネストの様子を窺っているが、アーネストはエリオットの方を向いて話しているからか気づいていない。
アーネストは今一番ヒロインと仲が良いと思われるので、わざと悪役令嬢を避けているように見えてしまう。
……そういえば、この乙女ゲームのゴールはどこになるのだろう。
こういうファンタジーっちくな世界だと、やはり婚約や結婚といった明確な形で攻略対象と結ばれて、めでたしめでたしが定番だ。
しかし、ヒロインはまだコニーと同じ十三歳なので、結婚云々は早すぎる。
この国の成人は十六歳、つまり学園を卒業する年だ。
学園卒業まで乙女ゲームが続くなら三年……ゲームで三年も引きずるのは長過ぎるので、在学中には婚約とかでハッピーエンドを迎えるだろう。
とはいえ、この先も単純な学園生活というのもつまらない。
二年目に突入するなら劇的な変化がほしいところだ。
個人的にはヒロインが伝説級の魔法に目覚めるとかで冒険ファンタジーちっくになったら面白いと思うが、ヒロインが隣国の王女として正式に引き取られる辺りが妥当だろう。
妄想が乗ってきたコニーは、多分ヒロインの兄に目を向ける。
リュカの隣はアーヴィンが抜けたせいで別の侯爵家令嬢が詰めて座っている。
フェミニストなリュカは令嬢に気さくに声をかけ、楽しそうだ。
コニーの知る限り、これまでヒロインと目立った接触はないが……裏で色々調査している最中だろうか。先日のパーティーではアーネストのイベントが発生していたので、まだ近くでブローチを確認出来ていないだろうし、接触する機会を窺っているといったところか。
これで本当にヒロインが隣国の王女なら、アーネストとの身分差についての懸念はなくなる。後は、パトリシアと婚約を解消したアーネストがヒロインに求婚すればハッピーエンドまっしぐらだ。
『パトリシア・オニキス!お前がアリサに危害を加えようとしていたことはわかっている!』
『私はただ、その者に身の程をわからせようと……!』
『まだそのようなことを……お前との婚約は、今日をもって破棄させてもらう!!』
『そんな……!?』
普通に乙女ゲームが進むと、悪役令嬢はこういう展開を迎えるはずだ。
パトリシアの友人となったコニーとしては、それだけは何としても避けたい。
友人なので、彼女の恋を応援したい気持ちもあるが、今の状況から行けばアーネストのことを諦めて大人しく受け入れる方が彼女のダメージが少なく、全て丸く収まるはずだ。
……そう思うのに、本当にそれでいいのかという疑念が消えない。
どうしてだろう?
楽しい妄想のはずが、コニーは徐々に不安を感じてしまう。
そして、その不安の正体はすぐに気づくことになるのだった──




