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明くる日のブラウン伯爵邸──
「パティ様を破滅させないためには、やっぱりアーネスト殿下を諦めさせるべきだと思うの」
大人しくクリスティアンとスザンナによる事情聴取を受けたコニーは、打って変わって、今後の対策について強気に発言する。
「婚約者放ったらかしてヒロインに心奪われる王子様はパティ様に勿体ないもの。とっとと忘れて、王子とヒロインのことも放っておくよう仕向けなきゃ」
「いや、普通はピスフルさんが身を引くべきでしょう?オニキス様が正統な婚約者なんだし」
「悪役令嬢がどんなに頑張っても、最後はヒロインが勝っちゃう不条理なものなのよ、乙女ゲームって」
スザンナの正論は、乙女ゲームでは通用しない。
冷静に客観的に考えると酷い話だ。乙女ゲームはヒロイン主観で夢を見るように楽しむものなんだな、とコニーは改めて思った。
「なんだかヤケになっているような気がするんだけど……何かあった?」
「……何もないです」
クリスティアンが心配そうだが、コニーはそう言うだけに留まった。
確かに、エリオットへの恋心と失恋を同時に自覚してヤケになっている節はあるが、パトリシアを助けたいと思う気持ちは本物だ。
「とにかく、お兄様とスーには、パティ様がヒロインと……出来れば、アーネスト殿下ともあまり接触しないように協力してほしいんです!」
ここはクリスティアンとスザンナにも協力してもらった方が上手くいくだろう。一人より二人。三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものだ。
不思議に思っている様子だったが、クリスティアンとスザンナは揉め事回避のためなら、とコニーの提案を引き受けてくれることになった。
「そうだ、コニー。殿下に頼まれたんだけど」
コニーの話が一段落したところで、クリスティアンが切り出した。
「……あ。エリオット様の方ね」
そっちの殿下、今は地雷ですぅ!とコニーは声に出したいのを堪え、心の中で叫んだ。
「近々にフィロメーナ様のためのお茶会を開かれるそうなんだ。見知らぬ土地でいきなり大人数の仰々しいものは王女も居心地悪いだろうから、まずは少人数で行うそうだ。コニーには是非来てほしいと……」
「お断りします!」
コニーの即断即決にクリスティアンは苦笑いを浮かべた。
「……家宛に招待状を送るそうだから、父上にも伝わると思うよ。多分、よほどの事情がなければ出席なさい、とおっしゃるだろうね」
おのれ、卑怯なり。
ある程度親しくしているクリスティアンやコニー個人宛ではなく、王子として家宛に送る招待状なんて強制の召喚状だ。
コニーはクリスティアンへの反論ができず、「ぐぬぬ……」と声を漏らした。
「スー……」
「王族の少数精鋭のお茶会に、子爵家は招待されないわ。されたとしても敷居が高くて行けないわよ……ま、頑張って」
「スー!」
縋る親友に対して無情すぎる。
強制参加させられる上、頼りになるスザンナが一緒に行けない。コニーはますます憂鬱な気分になるのだった。
「なんか元気がないよね、コニー様」
目まぐるしかった休み明けの登校日。放課後に定期連絡で落ち合ったノアは、心配そうにコニーの顔を覗いた。
「……そうかしら?」
失恋したり、避けていたはずの人と友達になったり、それに伴って色々考えたりしていたからね!と愚痴が出かかったが、ノアに言うことではないのでコニーはぐっと堪えた。
「具合が悪いの?」
「ちょっと疲れているだけだと思うわ」
実際、コニーは色々あって疲れている。授業中はうっかり居眠りしてしまいそうで、隣のアーヴィンに何度か起こしてもらっていた。
「そういえば、ノアも王宮のパーティー会場にいたわよね?」
「うん。臨時のお手伝いをしてたんだ」
話しかけはしなかったが、コニーはパーティー会場で、アリサと一緒にくるくると忙しく動き回るノアを見つけていた。
「昨日も会場の片付けで王宮に行ってたよ。やっぱり広いし、綺麗だよね。こんな機会でもないと王宮なんて行けないし、良い小遣い稼ぎになったし、楽しかったよ」
昨日も働いていたというノアは、ケロッとしていて元気そうだ。学問で奨学生の座を勝ち取るくらいなのでインドアに思えるが、意外と体力があるようだ。
「ピスフルさんと一緒よね?」
「そうなんだ。普段から家の手伝いで忙しそうだけど、王宮の手伝いはまた違うし、気晴らしになるかなと思って……」
商会の看板娘として店頭にも立つアリサは、恋愛イベントの時以外は勉強したり家の手伝いと大忙しだ。それでも笑顔で苦労を感じさせないのが、ヒロインたる所以だろう。
「最近、アリサも元気がないんだよね」
「ヒロ……ピスフルさんに元気がない?」
ノアが溜め息と共に溢した言葉に、コニーはピクッと反応した。
「普通に見えるんだけど、幼なじみだからわかるんだよね。何かあったのか聞いても、何でもないって言うし……」
アーネストとの恋愛が順調で幸せではないのか?
もしかして、他の攻略キャラからのちょっかいで心が揺れているとか?それとも、アーネストとの恋愛が進むに連れ、パトリシアに対する罪悪感でいたたまれなくなってきたとか?
またヘビーな乙女ゲームの展開が待っているのだろうか……?
先日から色々考えすぎたせいか、コニーは予想に集中出来なかった。妄想が調子よく出来ないのは前世を思い出してから初めてで、モヤモヤと気持ちが晴れないコニーだった。




