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コニーには、パトリシアの涙が自分の涙でもあるように感じられた。



自覚したのはつい先程のことだが、コニーはエリオットのことをもっと前から好きだったのだと思う。


期待していなかったとも思ったが、多分、自覚していない恋心のどこかで期待していた。エリオットもコニーに好意を寄せてくれているのではないか、と。

そのせいで、裏切られたような気持ちでモヤモヤしていたようだ。……勘違いしていた自分が恥ずかしい。

でも、親友の妹だからっていきなり距離を詰めて親しげにしたり、安物とはいえプレゼントを贈るなんて思わせ振りな態度を取るエリオットが悪い。


──そう考えると、今度はエリオットが腹立たしく思えてきて、今、同じように王子に振り回されているパトリシアのことは、他人事ではなかった。



「パトリシア様!傲慢で自分勝手な王子に振り回されて、人生を棒に振ることありません!」


自分自身の失恋の痛みもあって、コニーはパトリシアを全力で擁護することにした。

もう、悪役令嬢とか乙女ゲームとか関係ない。今のパトリシアは、婚約者に裏切られて悲しむ、ただの女の子だ。

厄介事に巻き込まれるかもしれないが、彼女の助けになりたいと思ったのだ。


「殿下に必要以上に近づくピスフルさんもどうかと思いますが……許せないのは、アーネスト殿下です!」


一方的に想いを寄せたコニーと違い、結婚を前提に付き合ってきたパトリシアに対し、あまりに理不尽だ。いくら乙女ゲームとはいえ、誰だって婚約者を奪われたら悲しすぎる。怨み辛みで悪魔にもなるかもしれない。

それで嫌がらせをしたら、悪役令嬢だけが悪者になるなんてやってられない。


「美人で、侯爵家のご令嬢で、教養もある。パトリシア様なら他にいくらでも素敵な男性が寄ってくるんですから、パトリシア様を省みない殿下なんて見限っちゃえばいいんです!」

パトリシアはコニーの勢いに目をパチクリさせていたが、やがてコニーの言葉を理解したのか俯いて、噛み締めるように呟く。

「アーネスト様を……見限る……」

「私も失恋というか、向こうには決まった相手がいるのに勘違いさせられたというか……とにかく、勝手な殿方なんて、こんな一途なパトリシア様にふさわしくないんです!」

「アーネスト様が、私に……ふさわしくない……」

パトリシアの肩が震えている。俯いているので、表情は読めないが、泣いているのだろうか?

コニーが心配で覗き込もうとすると、パトリシアはばっと顔を上げた。


「あっ……ははははは!」


パトリシアは声を上げて笑い出した。

「なるほどね!確かに、アーネスト様は私にふさわしくないかもしれませんわ!……でもね」

パトリシアはふぅっと息を吐くと、コニーに笑顔を向ける。

「でも……私はアーネスト様をお慕いしているの」

その笑みは穏やかだったが、コニーには悲しそうに見えた。


アーネストが誠実ではないのはわかっているが、彼を慕い、それ故に暴走する気持ちは抑えきれない。そういうことだろう。

健気だが、狂気も孕んだパトリシアの様子が不穏に感じて、コニーは彼女の破滅を阻止する術はないかと考えるのだった。










今日のところはパトリシアも落ち着いたようなので、コニーは一緒に会場へ戻ることにした。

乙女ゲームを楽しみたかったコニーだが、パトリシアが悲しんでいるのを横目にアーネスト達を追う気になれなかった。パトリシアが暴走するのを防ぐためにも、大人しく会場に戻るべきだと思ったのだ。


「コンスタンティン様。私もコニー様とお呼びしていいかしら?ガーネット様やマキュリ様と仲良くされている姿が実は羨ましかったの」

「はい、もちろん!どうぞ敬称も必要ありません。お友達としてお話しやすい話し方をしてください」

「ありがとう。私のこともパティと呼んでね」

嬉しそうに笑うパトリシアはとても美しかった。間近で見たコニーは目が眩みそうだった。


こんな美少女と自分がお友達になっても大丈夫だろうかと不安になる。それでも、彼女が悪役令嬢として破滅しないようにするには、やはり近くにいた方がいいので、コニーはパトリシアのお友達というポジションに納まることにした。

攻略対象の妹で、幼なじみで、悪役令嬢の友人……モブとしてはなかなか豪華な称号のラインナップだ。




パトリシアと穏やかに会話をしながら会場に入ると、クリスティアンが駆け寄って来た。親の所へ行くように言った妹がいなかったので、心配して捜していたのだ。

「こんばんは、パトリシア嬢。妹の相手をしてくださったのですね。ありがとうございます」

コニーと一緒にいるパトリシアを見て、クリスティアンは冷静に判断して挨拶した。出来る兄だ。

「ご機嫌よう、クリスティアン様。こちらこそコニーに相手をしてもらって感謝しておりますわ。今後ともよろしくお願いいたします」

にこやかなパトリシアの言葉に、クリスティアンは僅かに目を見張った。

「……妹をよろしくお願いします、パトリシア嬢」

ちらっとコニーに目をやるクリスティアンは表面上は冷静を装っている。しかし、妹であるコニーには彼の戸惑っている様子がわかり、後でお小言と共に根掘り葉掘り聴取されるだろうなと予感していた。


「ところで、コニー。アーヴィンとスザンナがお前を捜していたよ」

「……そうだ、スー!」

コニーはその名前を聞いて閃いた。

同じクラスであるスザンナにパトリシアと仲良くなってもらい、彼女が暴走しないように抑えてもらおう。もちろんコニー自身もパトリシアを止めるが、クラスが違うと目の届かないところがある。

「パティ様!私の友人を紹介しますね!」

コニーはパトリシアの手を引き、意気揚々とスザンナの元へ向かった。



──そうしてスザンナに突撃したコニーは、クリスティアンの時のデジャヴを感じることになり、後に二人分のお小言と聴取、加えてアーヴィンの恨み言を延々と受ける羽目になるのだった。


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