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乙女ゲーム開始から半年近く経って行われるこの宴──何か起こらないはずがない。


学園物の乙女ゲームは、一年ないし学園期間いっぱいの周期で一つの区切りを迎える。

ちょうど中間に当たるこの時期に行われるイベントは云わば中間発表だ。



王族主催の宴に平民が出席出来るはずがないのだが、そこはヒロインマジックで出席することになる。

……攻略対象の誰かが同伴するとか、なんやかんやで給仕のアルバイトをすることになったとかがセオリーだ。同じく平民のノアの好感度が高い場合は、一緒にアルバイトすることになるのだろう。

そこでそれぞれのイベントが発生するのだ。





アーネストの場合──


エスコートは婚約者と決まっており、国の重鎮や外国からの招待客の相手もあるので、流石にヒロインを誘うことは控えたアーネスト。

しかし、給仕のアルバイトをしているヒロインを見つけ、思わず、こっそり会場から連れ出してしまう。


そして二人きりになって気持ちを確かめあったり?更に関係が発展しちゃったりするのだ。




クリスティアンの場合──


ブラウン伯爵令息として今回の宴に出席するクリスティアンは、トーマスとのトラブルを相談していて好意が芽生えたヒロインを同伴者に誘う。

宴の最中、トーマスやその父親のディーチ子爵と会って不穏な様子が垣間見えたりしそうだ。


……まあ、これはトーマスとの関係を続けていた場合に起こりそうな出来事なので、現状からは起こる可能性は低い。実際はエリオットから早めに来るよう言われているのもあって、コニーを伴って王宮へ向かっているわけだし。




ヒューゴの場合──


宴にあまり出席しないヒューゴだが、学園で一緒にいるうちに何だかんだ仲良くなったリュカから出席を促された。

そして、必ずしも同伴者を連れていく必要はなかったが、たまたまヒロインと話していた際に宴の話となり、興味津々の彼女を誘ってみることにした。誘ってから気づくが、彼女は平民で着ていくドレスがないだろう。だが、自分は貧しい男爵家の末端。ドレスを買い与える余裕なんてない。

しかし、ヒロインは平民ながらそこそこ裕福な商家の娘のため、ドレス等は自分で用意できた。そのことにヒューゴは申し訳なさを感じるが、“気にしないでほしい、誘ってくれて嬉しい”と無邪気に笑うヒロインにヒューゴはますます惹かれることになる。




ノアの場合──


ノアは、母の知り合いから王宮の人手が足りないとアルバイトを頼まれる。

それを知ったヒロインは、王宮のパーティーを見てみたいという下心もあり、自分も手伝うと申し出る。

しかし現実は、優雅に歓談する貴族達を横目に忙しなく動き回り、ヒロインは虚しさを感じてしまう。そんなヒロインの様子に気づいたノアは、こっそり彼女を連れ出し、王宮の中庭でダンスに誘う。

二人共、貴族のダンスを知らない。そのため、漏れ聞こえる音楽と合っていないちぐはぐなダンスだったが、二人は幼い子どもの頃のようにはしゃぐのだった。




リュカの場合──


まだヒロインとの距離を測りかねているリュカは会場で給仕をするヒロインを発見する。

リュカは平静を装い、他の女性と同じように気さくに声をかける。

学園でも見たことのある隣国の王子に唐突に声をかけられ、ヒロインは動揺し、慌ててその場を立ち去ろうとしてブローチを落としてしまう。

ヒロインは大事な母親の形見をすぐに拾うが、リュカははっきりと目にした。──隣国の意匠のそのブローチ。それは、リュカが探していたものでもある。

意を決したリュカはヒロインを引き留めた。

どうしても確かめたいこもがある。後日二人きりで会いたい、と訴える。

リュカの真剣な様子に、ヒロインは戸惑いながらも頷くのだった。




アーヴィンの場合──


……ごめん、思いつかない。

攻略対象なのに、これだけヒロインの相手をしなさそうな子になるとは……お姉さん、びっくり。







「コニー。エリオット様の場合は?どんな展開になりそう?」


つらつらと各攻略対象のイベントの詳細を話すコニーに、クリスティアンは飛ばされた人物を指摘する。


予想は出来ているが、考えたくなくて意図的にコニーは飛ばしてしまっていた。







エリオットの場合──


それは、どの攻略対象とのイベントが発生していても展開される、共通のストーリー。

主催側としてはこの宴のメインイベント。


──エリオットの結婚発表だ。




国内の高位な令嬢とはアーネストが婚約しているので、エリオットの婚約者は外国の王女もしくはそれに近い位のご令嬢となるだろう。

エリオットが学園を卒業し、本格的に公務を始めて半年。頃合いだろうと婚約者を迎え入れ、本格的に結婚に向けて準備をするのだろう。王族の結婚となると準備に時間がかかるので、おそらく更に半年後くらいに挙式となる。


──苛烈な悪役令嬢のアーネストの婚約者とは対照的に、エリオットの婚約者は貞淑な姫君。

才色兼備で完璧なライバルだが、ヒロインの愛が全てに打ち勝つ。勉強もスポーツも、美しさも人望もほとんどのもので負けるが、唯一勝った愛でライバルを打ち負かすのだ。

……愛、どんだけチートなんだ。必ず最後に愛は勝つとは言うけれど、他にも大事なものがあるのでは?と大人になったらみんな気付くだろう。でも、夢見る乙女のための恋愛シュミレーションゲームなのだから仕方がない。愛さえあれば何でも乗り越えられてしまうのだ。魔女の呪い然り、荒れ狂うドラゴン然り、天変地異だって愛が奇跡を起こすのだ。


他の攻略対象と恋愛が進んでいる場合は、良きライバルであり、お手本という立場になるだろう。





──そんな妄想をして、コニーは悲しい気持ちになったのだ。


エリオットの隣に誰かがいるのが嫌だ。そう思ってしまう。


それで、コニーはようやく気づいた。




……エリオットが好きなのだと。




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