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「なんであの人と一緒にいるのよ!?お兄様ってば……!」


街中で馬車を降りたコニーは、目標に向かって早足で向かった。


今日も賑わう街の人々の間をすり抜け、露店や街路樹の影で目標を見失わないよう視野を広くして進んでいると、またしても気になる人物を見つけてしまった。

それは、ダークグレーのジャケットとパンツを崩して着こなす、ワイルドに見える大人の男性だった。肩より少し長い黒髪を無造作に後ろで縛り、難しい顔でクリスティアンを見つめながら一定の距離を保っている。コニーと同じくクリスティアンを追っているようだ。


そんな男は見られていることにすぐに気づいたのか、ばっと振り返ってコニーと目が合った。

驚いて立ち止まるコニーだが、男は慌てた様子もなく、立てた指を口元に持っていき、静かにするように合図をしてきた。そして、コニーに自分のところへ来るよう手招きする。

動揺しているコニーは、男の指示通りに動いて、彼の元へ向かう。そして、近くに来た途端、ガシッと腕を掴まれ、物陰に連れ込まれた。


「知らない人について行っちゃダメだろ、お嬢さん」


腕を掴んでいる方とは反対の手で口を塞がれ、コニーは声を上げることができなかった。このまま誘拐でもされるのかとヒヤリとするが、男はすぐに腕を放した。

「口も放すけど、大声を出さないでくれよ。別に取って食いはしないから」

コニーがこくこく頷くと、男は宣言通り口を塞いでいた手をどかした。

「驚かせて悪かったな。騒がれたら困るからな……お嬢さん、ブラウン伯爵の娘だろ」

「私のことを知っているんですか?あなた誰ですか?なんで兄を尾行しているんですか?」

コニーは大声を出さない代わりに矢継ぎ早に質問した。男にコニーを害する様子がないので、悪人ではないと判断して恐怖は消え去った。コニーに残ったのは怖い思いをさせられた怒りで、八つ当たりを兼ねて男に対して遠慮をしない。

「まあ、まず落ち着け。ぐずぐずしてたら見失うから、後を追いながら説明するよ」

男はそう言って、コニーの肩に脱いだジャケットをかけた。

「そんな目立つ格好だと尾行しづらい。これを着ておけ」

コニーの今日の服装は幼馴染みとはいえ貴族の邸に訪ねるため、令嬢らしい高価なドレスだった。何せ唐突だったので、街中の尾行に不向きなことは確かだ。コニーはお言葉に甘えてジャケットに袖を通した。それに、こんな格好で飛び出したのはそもそもクリスティアンを追うためなので、男の言うことに異論はない。

コニーは男の後に続いて、クリスティアンを尾行することにした。



「まず自己紹介すると、俺はダントン。お嬢さんの父君の部下だ」

どうにかクリスティアンに追い付いたところで男ことダントンがようやく素性を明かした。まさかのクリスティアンの同僚で、かっちりした真面目な職業のイメージと異なる、不良っぽい警察官だ。

つまり、現状としては警察が警察を追っていることになる。そんな状況になっているとは、まさかもう既に自分が予想した悪い事態になっているのだろうかとコニーの不安は募る。

「あの……何故、兄の尾行を?」

「ちょっとお兄さんに何かあるんじゃないかと疑っていてな」

「何か、とは?」

「まあ、長官のご子息に限ってまさかとは思うが、最近色々進言することがあまりにも的を得ているから、もしや裏で怪しい奴等と通じて情報を得ている、とか?」

何てことだ。コニーが予想したことを回避すべく動いていたクリスティアンが悪いことをしているのではと疑われてしまった。コニーはショックを受けつつ、確かに唐突にこういうことが起こるかもしれないと言い出してそれが的中したら、怪しむ人が出てくるだろうと納得していた。

その人がこんな不真面目そうな人だったのは意外というか、ありがちというか……。


もしかして、この人はクリスティアンルートに出てくる脇役なのでは?

事件捜査でやって来る、ガサツだけど優秀な刑事さん。キャラクターとして充分あり得る。

なかなかのイケメンなので、追加ディスクとかでエピソードが描かれたり、続編で攻略対象に昇格したりもありそうだ。


コニーは乙女ゲームの登場人物としてのダントンの立ち位置を考察して、なかなかの美味しいキャラだと認識した。

「あー……お兄さんを疑って気を悪くしたか?」

妄想に入って黙りこんだコニーが不機嫌だと思ったダントンは、ばつが悪そうに声をかける。

「奴自身に自覚がないというのもあり得るぞ。悪いお友達に騙されたとかな。現に……」

コニーにクリスティアンのフォローをしてくれる意外に優しいダントンは、物陰から僅かに顔を出し、先を歩くクリスティアンに目を向ける。

「あんまり良くない“お友達”と一緒にいるしな」


クリスティアンとは一定の距離を保っているので、話し声は聞こえないが、一緒にいる人物は見える。


「──出たな、トーマス」


コニーは馴れ馴れしくクリスティアンの肩を叩く彼の学友を睨み、忌々しい思いを込めてぼそりと呟いた。


──それはかつて、クリスティアンの人の良さに付け入り、金をせびっていたトーマスだった。



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