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ちょっと落ち着いて状況を整理してみましょうか。



──ここは、多分乙女ゲームの世界。おそらく、きっと……。


そして、ヒロインはアリサ・ピスフル。



恋愛攻略対象となるイケメン達──アニューラス王国第二王子のアーネスト、王太子のエリオット、公爵子息のアーヴィン・ガーネット、伯爵子息クリスティアン・ブラウン。



更に、二学年上のヒューゴ・アクア。氷の風紀委員長の異名を持つ、表情の乏しい堅物キャラだ。

今のところヒロインとの接点は少ないが、ヒロインの母親の形見という重要アイテムに触れるというイベントが発生しているので、意外と新密度は高いかもしれない。



続いて、ヒロインの幼馴染みポジションのノア。ヒロインを心配する健気な少年だ。天才奨学生であり、医学と薬学も勉強する頑張り屋でもある。

ヒロインを心配するあまり、貴族にも物怖じせず声をかけるという行動力があるが、怖いもの知らずでノアのことも心配になる。……コニーならいけると思われたのだろうか?それならば、なかなかの洞察力だ。



そして、恋愛ではないかもしれないが攻略対象であろうリュカ。隣国ディアラの王子で、実はヒロインの兄かもしれない人物だ。

とても気さくで、特にコニーやその他女子に親切なので、ナンパキャラかと思われるが、その真意はわからない。

ヒロインを見た時の反応から、何かしらの関わりがあるのは間違いない。今後のストーリーのキーパーソンとなるだろう。



現段階で一番発生イベントが多く、進展していると思われるのはアーネストだ。

そのアーネストルートで悪役……ライバルキャラとして立ちはだかるのは、パトリシア・オニキス。


先日の王宮での出来事がきっかけで、パトリシアが本格的にヒロインを潰しにかかるようになるだろうとコニーは予想している。

これについては、一部クリスティアンに相談しているが、学園内のことで、ヒロインやパトリシアの被害が無視できないものであれば、コニーが阻止してみようと思っている。コニーに出来ることは限られているだろうが、アリサやパトリシアが傷つくとわかっていて見て見ぬふりは出来ない。


他にもアーヴィンの母親の体調や、優しいクリスティアンが騙されるんじゃないかと不穏な要素はあるが、これらはコニーが注意していれば大丈夫だろう。


何よりも心配なのは、エリオットの暗殺。コニーの考えすぎなら良いが、乙女ゲームの展開で王子兄弟の対立で派閥争いはよくあるなと思ってしまったのだ。

これについても、クリスティアンに相談しているので大丈夫だと信じたいが、まだ不安が残るコニーだった。



……それもこれも、これからの展開次第よね!まだ攻略ルートが確定したわけじゃなさそうだし、どうなるかわからないわ!

それよりも、これからあの人と起こりそうなイベントは……。



状況を整理していて暗い思考になっていたコニーは、気持ちを切り替えて、今後の明るく楽しいイベントを妄想するのだった。



















「上からの指示で張り込みをしていたが……」


深夜の路地裏で、一仕事終えた男が感嘆して呟いた。

「まさかこんなことになるとはな」

男の視線の先には、縄で縛られ転がされた複数の人物。それを取り押さえ、連行しようとしている男の仲間達。物陰で怯える少年少女に寄り添っているのも男の仲間だ。

「ですよね!まさか、若者を外国へ拉致する組織の犯行現場に居合わせるとは思いもしませんでした!」

仲間の一人が大捕物の興奮冷めやらぬ様子で、男に賛同した。

男達は警察で、今まさに犯罪者達を逮捕したところであった。

「情報を得たのは長官のせがれだったか」

「クリスティアン君ですよね。今日は非番ですけど、お手柄ですね!」

「殿下の護衛強化を訴えていたのもその坊やだったな」

「坊やだなんて、長官のご子息に失礼ですよ、先輩!」

苦い顔で首を傾げる男は、キャンキャン吠える仲間を無視して呟いた。

「……ちょっと調べてみるか」

「何をですか?」

「いいからお前はサボってないで、向こうを手伝え!」

「それ、先輩が言いますか!?……ああ、もう!わかりました、行きますよ!」

男に足で押し出され、仲間は現場の処理に戻った。


「……クリスティアン・ブラウン。何を隠しているのやら……」


男が溜め息と共に吐き出した呟きは、取り締まりの喧騒に掻き消されるのだった。










「そういえば、昨夜、犯罪組織の誘拐現場に居合わせ、犯人達を確保したと報告があったぞ」

ブラウン伯爵が家族との食事中、ふとクリスティアンに向かってそう告げた。何のことかわからないコニーは父と兄を見比べるが、母であるブラウン伯爵夫人に「キョロキョロするんじゃありません」と窘められる。コニーは目線だけをクリスティアンに向けて、食事を続けることにした。

「それは良かったです」

「お前の推測通りだったな。よくやった」

「いえ。たまたま研修の一環で過去の調査書類を捲っていて、近年の行方不明者の増加率上昇と傾向から、誘拐であると想定して犯人や今後の犯行を推測しただけです」

うちのお兄様、優秀すぎる!

二人の会話を聞いていたコニーは驚きと尊敬の眼差しをクリスティアンに向けた。すると、クリスティアンもコニーと視線を合わせ、ニコリと笑みを浮かべた。

それが何かの合図だと思ったコニーは、はっと気づいた。今回の犯罪組織逮捕は、コニーが誘拐が起こるかもしれないと相談したことを受けて、クリスティアンが警戒して調べてわかったのだ。

悪役令嬢が犯罪組織に依頼し、ヒロインを誘拐して外国に売り払おうとする。それを攻略対象が救出する、乙女ゲームのイベントだ。

しかし、クリスティアンが組織を逮捕したということは、このイベントが起こることはない。まだ他の手で悪役令嬢がヒロインに危害を加えようとするだろうが、実際に起こるのは危険で見過ごせないなものは、引き続き事前に手を回して潰した方がいい。コニーは乙女ゲームを楽しみたいが、出来れば穏便に済ませたいのだ。

コニーは感謝と共に、今後も兄を頼ろうと決意して、クリスティアンに満面の笑みを向けるのだった。




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