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前世らしきものを思い出した二日後、コニーは十三歳の誕生日を迎えた。それに伴い、友人やその友人、その家族といったよく知らない人まで招いて誕生日会が開かれた。どちらかと言うと父の知り合いが多いので大人の交流会という感じだが、たくさんプレゼントを貰い、美味しいものを食べて、コニーとしては満足していた。


「コニー。ガーネット公爵がいらしたわ。ご挨拶なさい」


コニーが友人と一緒にビュッフェ形式の料理を選んでいるところへ、母であるブラウン伯爵夫人がやって来て声をかける。言われてコニーが入口付近に目を向けると、少し遅れてやって来た公爵一家をブラウン伯爵とクリスティアンが迎えていた。


「君のところのお嬢さんももう十三歳か。時が経つのは早いな」

「まったくだ。私達が通った学園に、娘達も来月から通い始めるとはな」


父と親しげに話すガーネット公爵、その傍らで優雅に頬笑む公爵夫人。そんな彼らの背に隠れるように立ち、俯く男の子──ガーネット公爵の長子アーヴィンだ。


彼を見た瞬間、コニーははっと気づいた。



アーヴィン・ガーネット──人形のように整った顔立ちで、ルビーのような鮮やかな赤色の髪、対照的に暗い灰色の瞳を持つ、ミステリアスな雰囲気の美少年。

父親同士交流があるので、小さい頃から何度か会っているが、彼はその特殊な容姿と、公爵家という家柄のため周囲から距離を置かれ、友人ができず、逆に不審者からは狙われ、人との交流が苦手な暗い性格に育ってしまった。

そんな彼は学園に入ってヒロインと出会う。明るく、優しいヒロインは初めての友達となり、アーヴィンは心を開いていく。そして自然に異性として惹かれ、彼女と接触する人物が誰であれ嫉妬してしまう程執着するようになってしまうのだ。


……みたいな展開になりそうー!


乙女ゲームによくあるヤンデレっぽい根暗キャラだ。



でも、実際は……。



「コニー!誕生日おめでとう!」


公爵へ挨拶に向かう途中で足を止めたコニーの存在に気づき、ふわりと笑みを浮かべて駆け寄る可愛らしい少年になっていた。



……あれ~?



「はい、これ。誕生日プレゼント」

「ありがとう、アーヴィン」


笑顔でコニーに小さな箱を渡してくれるアーヴィンは、確かに友達がいなくて、他人と関わるのを拒み、部屋に引きこもるような子どもだった。しかし、父に連れられてガーネット公爵邸に遊びに行ったコニーは、他に遊び相手がいなかったので、彼に構いまくった。

前世の記憶をまだ思い出していないながら、貴族令嬢にしてはお転婆な少女だったもので、かくれんぼや鬼ごっこ、縄跳びやボール遊びとアクティブに遊んでいた。その内に、気がつくとコニーとアーヴィンは仲良しな幼なじみになり、彼の性格も大分明るくなったのだ。

今の彼は警戒をするが普通に外出し、少ないながら他の友人もできたようだが、一番の友人はコニーだと公言しているらしい。



……良かった、貴族令嬢にしてはお転婆でも前世にしてみたら大人しい方で。虫とか蛙とか鷲掴みにする子だったら彼のトラウマになってたかも。


──じゃなくて……あれ~?

もしかして私、乙女ゲームのルートを一つ潰しちゃったのかしら~?



「……どうしたの、コニー?」

にこやかに応じながら、別のことを考えていたのに気づいたのか、アーヴィンが怪訝な表情を浮かべていた。


子ども同士の仲睦まじい様子に、ブラウン伯爵夫人は仕方ないと苦笑いして、先に公爵達の元へ向かっていた。公爵達もにこやかにこちらを見守っている。



乙女ゲームのルートと言えば、攻略キャラのトラウマを解決するというのが定番だ。

家族の仲が良く、友人ができた今のアーヴィンみたいなキャラであれば、まだ人との接触に苦手意識があるというのと、数少ない心許した人物が酷い目にあってますます他人と距離を置くようになるというものだろうか。



アーヴィンが心許す人物……私?


ううん、自意識過剰だ。やっぱり家族だろう。



どんな酷い目に合うかと言うと……。



乙女ゲーム的な展開を予想するので頭がいっぱいなコニーは、首を傾げるアーヴィンを無言で見つめ、そのまま彼の家族に目をやる。アーヴィンの家族だけあって美麗な両親だ。公爵夫人など、十三歳にもなる子どもがいるとは思えない程若々しい。



──はっ!


まさか、この美女を付け狙うストーカーが、自分のものにならないならと思い余って、彼女を襲撃するのでは!?

妻を失った公爵は憔悴して家庭を省みなくなり、アーヴィンはますます孤独と悲しみを抱えるようになるとか!?


ありえる!そういう展開、よく見た!


ほら、今まさに公爵夫人の後ろから歩み寄る男なんか、思い詰めた表情でポケットに手を突っ込んでいて、自分か誰かをどうにかする気満々に見える。



……今まさに、近づいてる?




「ガーネット夫人!後ろ!!」


「……え?」


コニーの上げた声でガーネット夫人が振り向くと、男がポケットから何かを取り出すところだった。

夫人と目が合ったことで男は驚き、一瞬躊躇した。しかし、すぐに動きを再開して、ポケットの中の物をそのまま彼女に突き出した。




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