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ある日の放課後──コニーはアーヴィン、スザンナと共に街へ出かけることになった。
「コニーが最近構ってくれない」
いじけたアーヴィンが、コニーの腕にしがみついて涙目で訴えて来たので、予定が合う時に遊びに行こうと約束したのだ。
それに、何故スザンナが乗っかっているかと言うと……。
「最近コニーといられなくて寂しいわ」
放課後にコニーとアーヴィンがちょうど寄り道して帰ろうとなった時に、教室にやって来たスザンナが頬を膨らませて訴えたのだ。
二人とは移動や昼休みに一緒にいることが多かったコニーだが、最近は風紀委員の活動で忙しく、同じ委員であるスザンナや生徒会のアーヴィンも同様で、行動を共にすることが少なくなってしまっていた。
そんな中、コニーとアーヴィンが出かけようとした時に、スザンナの予定も合うということだったので、三人でのお出かけとなったのだ。
乙女ゲームを楽しむ余裕もなかったコニーとしても、アーヴィンの攻略状況やスザンナの情報を得る機会が出来て有り難い。何より、大切な幼馴染みや親友とお出かけ出来るのが純粋に嬉しく、コニーは意気揚々と車に乗り込んだ。
「ピスフルさんが、アーネスト殿下に王宮へ招待されたそうね」
学園ではしづらい込み入った話も、三人だけの空間に入ったら気にせず出来る。スザンナは三人で同じ馬車に乗り込み、出発した瞬間に早速切り出してきた。
「今日も何人かのご令嬢に囲まれて質問されていたわよ」
「え……まさか、いじめ?」
「そこまで不穏な感じじゃなかったわ。まあ、王子に近づかないよう口頭注意はされていたけど」
……あ。もしかして、スザンナはそういう場面をちょくちょく目撃してヒロインと接触するはずだったのではないだろうか?
情報通のスザンナはヒロインと仲良くなって、サポートキャラとしてヒロインを助けるはずだったのでは……?
今のスザンナにその気はなさそうなので現実的ではないが、乙女ゲーム的には有りそうな展開だ。
「王子と言えば!」
妄想に入ってしまっていたコニーの隣で、アーヴィンも不満そうに声を上げる。
「コニーったら、ディアラの王子に気に入られたんだよ!」
「まあ……」
スザンナが正面に座るコニーへ何か言いたげな視線を向けてくる。また妙なことに首を突っ込んだのかと後で事情聴取とお叱りを受けそうだ。取っ掛かりは巻き込まれたものでも、コニーも勝手に色々行動してしまったので言い訳できない。スザンナに敢えて黙っていたが、バレてしまった。コニーに逃げ場はない。
「……でも、あの王子は女性みんなに優しい感じですよね」
「でも、ティナなんて呼ばれちゃってるんだよ!コニーみたいな妹が欲しいとか言って、エスコートしたり……ほんと、馴れ馴れしい王子だ!」
「コニー、また何かやらかしたの?」
「何でまず私がやらかしたって疑われるの?」
自身の母といい、親友といい、信用の無さにコニーは悲しくなった。
「リュカ王子殿下が親近感を持って接してくださるのは事実だけど、何故かは私にもわからないの!」
先日の登校時の出迎えの際、ヒューゴやアーネストの前でエスコートされそうになったコニーは戦々恐々した。ヒューゴが庇ってくれたので普通に並んで歩くだけになったが、リュカは相変わらずにこやかに話しかけてくるし、隣国の王子と親しげな令嬢をアーネストは興味深そうに見てくるしで、コニーは不満を声を大にして叫びたかった。何故このポジションにいるのがヒロインではないのだ!
「私のことは置いといて、アーヴィンはどこに行きたいの?」
「母上への贈り物を一緒に選んでほしいんだ」
そう言えば、コニーはなんだかんだでガーネット公爵邸を訪ねる約束が果たせていないことを思い出した。
「公爵夫人はまだお加減が……?」
「……うん。まだちょっと、ね」
アーヴィンは困ったような笑みを浮かべた。公爵夫人は思ったより良くない状態らしい。
「任せて!夫人の元気が出るような贈り物を一緒に探すわ!」
「微力ながらお手伝いさせてください」
コニーとスザンナが引き受けると、アーヴィンの笑顔は嬉しそうなものに変わる。
それにしても、これまた乙女ゲームのイベントにありそうな展開だ。
なかなか進まないアーヴィンルートだが、今コニーとスザンナがいるポジションにヒロインを置けば、恋愛関係が発展しそうなのに……。
もしくは、出かけた街でヒロインと遭遇し、一緒に過ごすことになって好感度が上がるイベントではないだろうか。しかし、それもコニー達と一緒なら起こらなそうだ。
「……話を戻すけど、アーヴィンから見て、ピスフルさんってどう?」
コニーは思い切って、気になっていたことをアーヴィンに投げかけてみることにした。
「どうって?」
唐突な質問に、アーヴィンは怪訝そうな表情でコニーを見た。
「ほら。可愛らしい方でしょう?男の子から見て、どんな印象かなぁとか……生徒会長と親しげにしてることとか、思うところがあるかもしれないけど」
「興味ない」
コニーの質問を、アーヴィンはズバッと切って捨てた。
そもそも同じクラスで隣の席だというのに、アーヴィンはアリサとほとんど話すことがない。案の定、もう一方の隣の席であるコニーとばかり話している。
アリサもアリサで、アーヴィンが自分と仲良くする気がないことを察して、進んで接触することがなかった。同じ生徒会所属でもあるので、必要があれば話すし、一緒に行動するという状態で落ち着いている。
──何故美味しいポジションにいるのに活かさないの!?
コニーはヒロインへの興味を持たない幼なじみを残念に思いながら、街へ向かうのだった。




