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「……オニキス様。僕からもお願いしてもよろしいでしょうか?どうか、妹の話し相手になってください」

コニーの必死な様子に何かを察したクリスティアンが加勢した。そこでエリオットも気づき、援護する。

「パトリシア。一緒に来てもらえないか?」

王太子に言われれば、パトリシアは承諾するしかなかった。

「畏まりました。僭越ながら、殿下のご友人の話し相手を務めさせていただきます」

内心不服だろうが、それを表に出さず返事をするパトリシアは、さすが上流貴族のご令嬢だ。

コニーの方こそ僭越ながら侯爵令嬢にお相手をお願いするので、内心悲鳴を上げて恐れおののいていた。表面上は無邪気な笑顔を浮かべているはずだ。



“……だから言ったでしょう。あなたはもっとちゃんと考えてから動きなさいって。私かクリスティアン様に事前に相談しなさいよ”


脳裏にぷりぷりと小言を言う親友が浮かび、コニーは縋りつきたくなった。

ごめんね、スー。あなたの忠告を聞かずにやらかしちゃったかも。




そんなコニーの心配は杞憂だったのか、パトリシアとは穏やかな散策が進んだ。

「この絵画は祖父が隣国へ行った際に一目惚れして、隣国国王から譲り受けたものだ」

「美しい風景ですね」

「パトリシア様は海に行かれたことがありますか?」

「いいえ。でも、このような美しい所なら、行ってみたいわ」

エリオットの頼みだからだろうが、コニーが声をかけるとしっかり受け答えし、逆に話を振ってきたりする。きっと、彼女は高慢な悪役令嬢ではあるが、根は真面目なのだろう。

名前で呼ぶ許可までもらい、コニーはパトリシアと良好な関係を築きつつあった。パトリシアのアリサ達との遭遇も回避出来て、後はこのまま害のない人間認定されれば万々歳だ。

どうか、間違ってもヒロインと一緒に攻撃されませんように……。

コニーはそう願いながら、パトリシアと並んで歩いていた。



「王宮の敷地は、ざっくりと政が執り行われる区画、王族が居住する区画に分けられている。ここから先が各省庁の執務室だ」

エリオットの案内でコニー達は広い廊下を進む。左右にあるいくつかの扉が各省庁の部屋に繋がっている。一つ一つが重厚な佇まいだ。コニーは国政の中枢にやって来たのだと思うと、緊張して居住まいを正した。

「ここはパトリシアの父君であるオニキス侯爵が務める財務省。国の予算のとりまとめを行う機関だ」

パトリシアの父は財務省のトップである財務大臣だ。乙女ゲームでよくあるパターンとしては、悪役令嬢の父親が業務上横領で、悪役令嬢断罪と同時に失墜するというものがある。パトリシアの父親もそれに当てはまるのだろうか?コニーは頭を捻ってみるが、実際にオニキス侯爵と会っていないせいか、イメージが浮かばなかった。

「ちなみに、クリスとコニーの父君、ブラウン伯爵の警察庁については、事務方の一部はここにも執務室があるが、王宮の外に本館を構えている」

もしや、自分の父親の身に何か……?攻略対象のクリスティアンの父でもあるので、有り得なくはないなとコニーは思案する。

「こっちは外務省。諸外国との交流をとりまとめる機関だ」

外国と言えば、近々やって来る留学生とは、どんな人物だろう。途中参入して来て、ライバルもしくは攻略対象となる留学生。よくある展開だ──乙女ゲームにおいてだが。




王宮の中庭を散策していたヒロインは、ふっと目をやった先に気になる人物を見つけた。

その人はヒロインと目が合うと、ふわりと笑みを浮かべて何か呟いた。


『やっと見つけた。私の……』


少しして、その人は連れと思われる人と一緒にどこかへ去ってしまい、ヒロインもアーネストに呼ばれてその場を離れた。


その出来事が妙に印象に残ったヒロインは、後にその人物と大きな関わりを持つことになるのだった。




……はいはい。攻略対象がずっと捜していた人物イコール、ヒロイン。あるある。ありそうな展開。



コニーは自分の妄想に対し、心の中で深く頷いた。一応、今はエリオットとパトリシアがいるのだと意識していたお陰で、表には出さずに済んだ。

「……コニー?考え事?」

そう思ったが、妄想に集中し過ぎたようで、コニーはエリオットに顔を覗き込まれた。歩みも疎かになり、いつの間にか外務省の扉の前で立ち止まってしまっていた。

「この部屋に何か?」

「あ、いえ。この部屋自体に関係は……というか、何でもありません」

クリスティアンも心配そうにコニーと扉を交互に見るが、コニーはパタパタと手を振って、何もないことをアピールした。今のところ、気にかけるようなことは起こらないと思ったからだ。

「……あれ?」

コニーはふと気がついて、首を傾げた。

アリサはまさに今、王宮に来ているはずだ。そして、アーネストに庭を案内されている。一方、留学生はもうそろそろ学園に転入してくるので、もうこの国に到着していてもおかしくない。

ということは、先程コニーが予想した展開は今日起こることではないだろうか?そして、場所はこの王宮で、コニーもいる場所だ。


ものすごく見に行きたい!乙女ゲームの画面からだったら伺い知ることができないが、攻略対象のその後の表情とか行動とか見てみたい!


「コンスタンティン様。どうしたの?」

急にそわそわし出したコニーに、パトリシアも戸惑いながら声をかけてくる。コニーは新キャラ登場の予感に駆け出したい衝動を必死に抑えていた。

「ちょっと……御手洗いをお借りしたいのですが……」

落ち着かないのはそのせいかと納得したエリオットに御手洗いの場所を聞き、コニーはゆっくりとその場を離れた。そして、廊下の角を曲がり、エリオット達の目の触れない場所に来たところで、ドレスの裾を少し引き上げ、中庭へと急ぐのだった。




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