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「──さて。せっかく早く来てもらったから、中を案内するよ」


コニーがようやく落ち着いたところで、エリオットが提案した。


本来のお茶会まで、まだ大分時間があるのだ。


他の人達より早く来てもらい、空いた時間潰しの案内と称して王宮内を連れ回す。そこでコニーが色々見て、何か思ったことがあればエリオット達に伝えてもらう。──というのが、エリオットが考えた対策をした提案だった。


「お兄様、私はただただ乙女ゲームの展開を予想しているだけで、王宮内の陰謀を暴いたり、外敵襲来を予見したりはできないんですからね」

……それが乙女ゲームのイベントなら考えられるが。

「大丈夫だよ、コニー。お前は思ったことをそのまま教えてくれたらいいだけだから」

不安がるコニーはクリスティアンに宥められ、共に王宮の廊下を進む。廊下までもシチュエーションとして有りそうで、コニーの心は揺らいでいた。エリオットの頼みに戸惑いと不安はあるが、王宮内を堂々と見て回れることに心踊らずにはいられない。複雑な心境だ。

そんな状況でエリオットに案内されていると、前方から見知った人物がやって来た。


「──殿下。この度はお招きいただき、ありがとうございます」


立ち止まって優雅にお辞儀するのは、パトリシアだ。彼女もエリオットの招待を受けたのだ。

「ようこそ、パトリシア嬢。せっかく来てもらったが、茶会の時間までまだ大分ある。それまで手持ちぶさたにさせるのは忍びないのだが……」

茶会の前の時間をコニー達と過ごすつもりのエリオットにとって、パトリシアの扱いは困るものであった。コニーが気兼ねなく予想するには、パトリシアと行動を共にするわけにはいかない。彼女には一度帰ってもらうのが最良であろう。

「お気遣いなく。ご招待いただいてせっかく王宮へ参りますので、アーネスト様にご挨拶するべく、早めに参上いたしました」

エリオットが提案するより先に、パトリシアがきっぱりと告げた。

それを聞いたコニーはハッと気づいた。



……これはもしや、ヒロインと悪役令嬢が邂逅する場面では!?




アーネストはヒロインを王宮に招待し、庭等を案内していた。そうとは知らず、パトリシアはアーネストに会いに来たところ、ヒロインと遭遇してしまう。

『……どなた?』

パトリシアは怪訝な様子でヒロインを見た。既にヒロインのことは認識しているはずであるが、きちんと会うのは初めてだ。

『あ……えっと……』

『パトリシア?何故、君がここに?』

『お茶会にご招待はいただき、王宮まで参りましたので、婚約者であるアーネスト様にご挨拶するべく、お捜ししておりました』

『婚約者……?』

ヒロインはアーネストに婚約者がいることに驚いた。高貴な身分の方だから、いてもおかしくないのに、何故今まで気にしていなかったかのか。

『アーネスト様。そちらにいらっしゃる方はどなたかしら?記憶にないのだけれど、お会いしたことがあったかしら?どちらのお家の方?』

『君も見かけたことくらいあるだろう。君と同じ一年のアリサ・ピスフル嬢だ』

『まあ。奨学生の?何でアーネスト様と一緒にいらっしゃるのかしら?何で王宮にいらしてるの?』

パトリシアは微笑みを浮かべたまま詰め寄ってくるが、目が笑っていない。ヒロインはその様子に恐怖を感じて、思わず半歩程後ずさってしまう。そんな彼女を庇って、アーネストが前に出る。

『よさないか。俺が招待したんだ』

『そう……そうですか』

パトリシアはアーネストの言葉を受けて俯いた。そして、すぐ顔を上げると、アーネストに向けて優雅な笑みを見せた。

『お邪魔いたしましたね。私はこれで失礼いたします』

そうして綺麗にお辞儀をすると、パトリシアは足早に立ち去る。


ヒロインは不穏なものを感じるが、その後もアーネストにエスコートされて過ごすうちにすっかり忘れてしまう。

婚約者を差し置いてヒロインを招待したことで、更にパトリシアの嫉妬心を燻らせることとなり、後にあの手この手の攻撃として帰ってくるとは思いもよらないのだった。



……こわっ!何だか不穏な感じになってしまった。


コニーは怒りを堪えて不敵に笑うパトリシアを想像して、ゾクリと悪寒を覚えた。コニーなどが侯爵令嬢を敵に回した日には、社交界追放は当然のことながら、他にもどんな目に合うか考えただけでも恐ろしい。世の乙女ゲームのヒロイン達は、よくぞ悪役令嬢に立ち向かえるものだ。


だが、コニーはふっと考える。

好きな人が自分を差し置いて、別の女の人と楽しそうに一緒にいるところを見たら、どう思う?嫌に決まっている。ましてやそれが、恋人や婚約者であれば……。


コニーの脳裏に、今にも泣きそうなパトリシアの顔が浮かぶ。


「ここのところアーネスト様とゆっくり話す機会がございませんでしたから……」

今まさに目の前にある彼女の表情にもその様子が伺えた。本当は、婚約者に蔑ろにされて悲しいはずだ。それを堪えて、平静を装っている。

「それでは、殿下。また後程」

「ああ……」

「あの!オニキス様!」

パトリシアが行ってしまいそうになって、コニーは思わず引き留めてしまう。

「よ……よろしければ、私や兄と一緒に、殿下に王宮を案内していただきませんか?」

「コニー?」

クリスティアンが怪訝な様子で名前を呼ぶ。ここで別れる流れだったので、エリオットとパトリシアも何故引き留められたのかと不思議そうだ。

「ほら!えっと……殿下とお兄様はご友人同士仲睦まじくされて、私だけ蚊帳の外なんですもの!同性の同行者がほしいわ!」

コニーは引き留める理由を絞り出した。これではどちらが我が儘な悪役令嬢かわからない。


しかし、コニーはパトリシアを苦しませるのが忍びなかった。

この選択が、後々自分にどのような影響を与えるのかはわからない。それでも、彼女が傷つくことがわかっているのならは避けてあげたい。コニーはそう思ってしまったのだ。



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