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交歓会は滞りなく終了した。

コニーが黙っていなくなったことで、アーヴィンとスザンナは心配してあちこち探し回ったそうだが、クリスティアンが言伝を頼んでいたのでそれもすぐに落ち着いたという。アーヴィンが目に見えて不機嫌になっていた、と言うのはスザンナの証言だ。

そして、予定通り留学生の受け入れが発表され、コニー達風紀委員は生徒会と一緒に毎日の見回りに精を出していた。アリサは、ヒューゴやアーヴィンとペアになって見回りをして、着実にイベントをこなしているようで、コニーは忙しくとも楽しい日々を送っていた。


そんな慌ただしい毎日にすっかり忘れてしまっていた頃だ。エリオットからの呼び出しが来たのは……。



「コニー?あなた、いつの間に王太子殿下とお近づきになったの?」

母であるブラウン伯爵夫人から怪訝な表情で問い詰められてコニーは考えてみるが、クリスティアンにエリオットが付いてきたとしか言いようがない。

学園に入学して以降、何故かクリスティアンに関わるとエリオットも一緒になることが多いのだ。これはもしかして、乙女ゲームが始まって、コニーがエリオットを巡るライバルキャラに昇格するということだろうか。もしかして、エリオットはコニーを婚約者候補にしようと?……いや、コニーは平凡な伯爵令嬢だ。エリオットが自分に恋をするとは考えられないし、自分を妃にするメリットもない。コニー自身、王太子の恋のお相手に名乗り出るような身の程知らずではない。仮にそうなる可能性があるなら辞退したい。

今回、王宮に招待されたのはコニーの乙女ゲーム展開予想を良いように解釈して、防犯に役立てられないかと思ったからだろう。

コニーは冷静に考えて、そう結論付けた。

「母上。心配しなくても、コニーは粗相なんてしてませんよ」

「あなたは優しいから評価も甘いのでしょうが、こんなぼんやりしたお馬鹿ちゃんが、王太子の目に止まるなんて、悪いことでしかないでしょう!」

母、娘に対して辛辣に言いたい放題だ。自分でもそう思うが、直球で人に言われて、コニーはちょっぴり泣きたくなった。

「コニーも外ではちゃんとしていますよ、普段であれば」

兄よ、それはフォローしているのか?コニーはじっとクリスティアンを見るが、彼はブラウン伯爵夫人の誤解を解こうとそちらを向いているので気づかない。

「でも……畏れ多くも学友であるクリスを招待するのはともかく、妹のコニーまで一緒なんて……」

「僕とコニー以外にも殿下と年頃の合う男女数名が招待されていますから」

そう、それがエリオットの対策だ。学園を卒業して大人の世界に入ったが、あまりにも年上とばかり接しているので、同年代やその下の世代とも交流の機会を設け、知見を広めたいと申し入れたのだ。どういう人選かは聞かされていないが、木を隠すなら森の中ということで、コニーは複数の中の一人として王宮に招かれるのだ。

「そうね……くれぐれも失礼のないようにね」

「……お母様の私に対するその信頼の無さは何でしょう?」

「公爵邸でご子息を連れ回したお転婆っぷり、お誕生日パーティーで犯人に向かって行こうとした無謀ぶり、先日の交歓会で王太子殿下に送っていただくという厚顔無恥……」

「……ごめんなさい」

王太子の送迎は不可抗力なのだが、心配させることばかりしているのは確かなので、コニーは素直に謝った。



「母上のあの……社交界から爪弾きにされることに対する強迫観念みたいなものは何だろうね?」

「昔、お友達がそういう目にあったらしいですよ。だから、娘の私にそうなってほしくなくて色々教えてくださいます」

母が主観混じりの貴族社会に関する知識を教えたことで、コニーの妄想……基、想像力に磨きがかかったのだ。

とは言え、コニーは母が心配するほどやらかしていない……はず。乙女ゲームを見たくて近づいたり、たまたま巻き込まれたりするが、大事にはなっていない。危険のボーダーラインは越えていない。それもこれも“分を弁える”、“権力には近づきすぎない”という母の教えの賜物だ。

だから、もう少し信頼してくれてもいいのに、とコニー溜め息を吐く。

そんな妹の様子に、母の心配もわかるクリスティアンは苦笑して、共に王宮へ向かうのだった。




王宮に到着したコニー達は、中庭に案内された。美しい庭木とおしゃれなテーブルセット、背後に見える芸術的な宮殿という光景に、降下していたコニーの気分は上昇した。この後エリオットからのどのような頼みをされるのかわからないが、王宮を見に来れたことは僥倖だ。

目を輝かせる少女の姿は、端から見れば夢見る少女が憧れの王宮にやって来て感動していると思われているだろうが、このコニーは、乙女ゲームの背景を見てるみたいだと感激しているのだ。人物だけではなく、景観も美しく描かれている作品の方がその世界に入り込めるので、コニーの前世らしき“ゆい”は好んで遊んでいた。その影響を強く受けているコニーは、この状況に興奮が抑えられない。


「待っていたよ、クリス。コニー」


さらに、そこへエリオットが現れたことで、コニーは興奮は最高潮に達した。



……お、乙女ゲームの画面だ!宮殿や中庭をバックに攻略対象が立ってる!!よく見るやつ!!

あ!お兄様と並んで立つなんて、そんな……画面が眩しい!美しいです!ごちそうさまです!ありがとうございます!!



「……コニーはどうかした?具合でも悪いの?」

「ちょっと重症かもしれません……」

完全に自分の世界に浸るコニーの様子に、エリオットは心配そうに兄であるクリスティアンへ問いかける。おそらく何か連想しているのだろうが、こちらへ熱い視線を向けるコニーを見る限り、平和な妄想をしているのだろうと推測し、クリスティアンは苦笑いを浮かべるのだった。


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