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開会の挨拶は、生徒会長であるアーネストが行った。


「新入生の皆さん。改めて、ようこそ、エンダー学園へ──」


さすが、王子は人前で発言することに慣れているようで、すらすらと流れるように言葉を紡いでいる。

コニーはそんなアーネストを見ながら思った。



──王家と侯爵家の間で交わされた婚約の相手である、パトリシア。

彼女との関係はぎこちなく、親密とは言えないが、それで良かった。両家や国のため、互いに義務を果たしていけばいい、と。

だが、彼女に出会ってしまった。こんなに心動かされる女性は初めてで、戸惑うが、傍に置きたい。

この気持ちは何だろう……?



……なんてことを考えているのではないだろうか。

先程も入場しようとするアリサを捕まえたのか捕まったのか、パトリシアは一人で入場させておきながら、うっかり連れ立ってやって来たのはそういう心情もあったのではないかとコニーは推測していた。一応他の生徒会の面々に紛れていたので気づかれていないかもしれないが、もしパトリシアに知られたらまた何らかの行動を起こしそうだ。


「──さて、今日は特別ゲストを招いています。前生徒会長にして、アニューラス国第一王子。我が兄・エリオットです!」

アーネストの紹介でエリオットが登場すると、黄色い悲鳴と大きな拍手が上がった。アーネストも熱視線を浴びていたが、こちらはアイドルのコンサートのような盛り上がりだ。滅多にお目にかかれないから尚更だろう。コニーは兄のお陰でこの短い期間で度々お目にかかっているが……。

そんな兄・クリスティアンはエリオットの傍の警護の中にいた。そういえば、今回のドレスの試着には立ち会って誉めてくれたが、今日は朝早くから出掛けたようで、クリスティアンを見かけなかったなとコニーは思い返した。


そんなことより重要なのは、今のところ把握している攻略対象勢揃いしていることだ。序盤でこんな盛り上がりそうな展開になるとは……!

コニーはワクワクと胸踊らせながら妄想に入った。




会話や料理で盛り上がる会場に、楽団の音楽が響く。ダンスの時間が始まった合図だ。会場の中央に男女のペアで出て社交ダンスを披露するのだ。最初は自己紹介的な意味もあって、新入生だけで踊る。婚約者がいる場合は上級生をペアにすることも可能だ。次に歓迎する上級生達が躍り、その後は学年入り乱れて希望する者で踊るというシステムだ。

ヒロインは今の今まで誰と踊るか約束していなかったが、てっきり平民同士幼馴染みと踊るのだと思っていた。

しかし、思わぬ人物から手を差し出された。

『……会長が……生徒会一年同士で踊れって言うから……』

アーヴィンが渋々といった様子で誘ってきたのだ。

ヒロインが驚いて返事が遅れている間に、アーヴィンは彼女の手を掴んで引っ張って行った。

流されるまま踊り始めるが、アーヴィンは素人相手でもリードが上手く、ヒロインはスムーズに踊ることができた。

それにしても、間近で見るとやっぱり整った顔立ちをしていて、あまり表情を変えることがなく真顔でいることが多いから本当に精巧なお人形さんみたいだな……とヒロインはアーヴィンを見つめながら思った。



その後、一度目は流石に婚約者と踊ったアーネストに誘われたり、『俺とも踊ってよ』と拗ねるノアと踊ったり、疲れて休憩しているところでヒューゴと遭遇してドレスを褒められたり……『そんな構えなくてもいいですよ。今日は高価なドレスや装飾品も許される日ですから。お母上のブローチも……とても似合っていますよ』とか、これまでのイベントを思い出すようなクーデレな発言をしそうだ。それから、外の空気を吸いに中庭まで出ると、エリオットとクリスティアンに鉢合わせしたりして、漏れ聞こえる音楽に合わせて『せっかくですから踊りましょう』とエリオットに手を引かれ、青空の下踊っちゃったり、クリスティアンに会場までエスコートされたりしそうだ。



追うのが大変そうだが、全部見たい!楽しすぎる!



コニーの妄想のような予想は今日も絶好調だったが、アーヴィンの件は願望が強い。本当に、やる気がない幼馴染みだ。それでも、乙女ゲームの攻略対象か?


「コニー……ごめん。最初のダンスは、生徒会同士で踊れって会長に言われてて……」

「ああ、うん(知ってたー)。行ってらっしゃい」

コニーの妄想通り、アーヴィンはアリサを誘いに行った。さて、自分は誰と踊ろう?と考えていると、トントンと肩を叩かれる。

「こんにちは、コニー」

「エリオット殿下!?」

コニーが振り返ると、クリスティアンを引き連れたエリオットが目の前にいた。彼が笑顔で話しかけるので、コニーに突き刺さる周りの視線、特に女性のものが痛い。

「ごめんね、どうしても話したくて。クリスに聞いていたけど、今日のコニーは一段と綺麗だよ」

「……あ……りがとう、ございます」

キラキラ王子に誉められて、コニーは赤面した。お世辞だとわかっていても、舞い上がってしまう。

「せっかくだから、私と一緒に踊っていただけますか?」

そう言ってエリオットが手を差し出してくる。コニーは不躾ながら、その手とエリオットの顔を見比べてしまう。

「え……その……」

どういう意図で誘われているのかわからず、コニーは兄に助けを求めた。おろおろと見てくる妹の様子に、クリスティアンはクスリと笑みをこぼす。

「殿下は学生との交流のために一曲目は新入生、二曲目は上級生と踊ることになっているんだよ」

「強制じゃないけどね。でも、コニーと話したいし、せっかくだからと思って」

そう言ってエリオットは、差し出していた手で、コニーの手を取った。

「もう一度言うよ?私と踊っていただけますか?」

「は……はひっ!」

キラキラ王子の魅力に、コニーは逆らう術がなかった。


こうしてコニーは最大級の緊張の中ダンスホールに連れ出され、アリサの様子を観察する余裕のないまま踊ることになるのだった。


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