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交歓会とは、新入生を歓迎し、在校生と交流を深めるための会であり、毎年生徒会主催で行われる行事である。


「僕も生徒会だけど、一年生の今年は運営の方に回らなくていいみたい。参加が強制じゃないなら……コニー、一緒に欠席しない?」

「あらあら、ガーネット様。交歓会は学生だけとは言え、次期公爵が社交の場からお逃げになるのですか?」

「人聞きが悪い。必要があるものにはちゃんと出席しているし、義務は果たしている」

「私のような弱小な家門から言わせれば、何が必要となり、功を奏するかわかりませんから、社交の機会には幅広く参加していくべきだと思いますけど」

「それこそ立場や考え方によるだろ」

「まあ、その通りですけど……でも、欠席されるならお一人でどうぞ。コニーを巻き込まないでください」


アーヴィンとスザンナがコニーを挟んで言い合いになっている。

交歓会の内容が発表されて、みんながそわそわと落ち着かない中、コニーと同伴の誘いに来たスザンナに対し、アーヴィンが噛み付いたのだ。コニーのことなのに、口を挟む隙がない。




そして、やって来た交歓会当日──


この日ばかりは学生がドレスアップしても風紀委員会は口出しをしない。むしろ、皆が着飾っているので、学園標準服では浮いてしまう。ドレスコードは自由だが、入学の際にお祝いとして配られたブローチを着ける必要がある。これは学園の後援会から毎年全員に贈られるもので、学年毎に色や形が異なる。

コニー達の学年のブローチは、チューリップを象っており、色は黄色である。ちなみに、クリスティアン達の学年は紫のバラだったそうだ。

……乙女ゲームのイベントに使えそうなアイテムだ。

コニーは妄想スイッチが入りそうになるのをぐっと堪え、迎えに来てくれたアーヴィンの元に向かった。


そう、アーヴィンは最終的に行く決断をしたのだ。スザンナに色々言われて堪えたようで、加えてコニー自身が参加を表明したことで決心が付いたようだ。それでも、コニーと一緒に行く権利は勝ち取ったので勝負は引き分けだろう。スザンナとは会場で合流することとなる。

「コニー、すっごく綺麗だよ!ドレス、似合ってる!」

コニーがやって来ると、アーヴィンは笑顔で迎え入れた。抜かりなく誉め言葉をくれる彼に、コニーはそうやってアリサを褒めればいいのに、となかなか進展しない幼なじみとヒロインの恋模様を案じた。

そんなコニーは瞳の色と同じ空色のドレスを纏い、髪には小さな花の飾りを散らし、化粧も施されたので、自分でも化けたと自負している。クリスティアンからは妖精みたいだねと褒められた程だ。なので、アーヴィンの誉め言葉も嬉しいことは嬉しい。

一方のアーヴィンは赤茶色のジャケットに、白のラインが入った黒いパンツだ。アーヴィンの鮮やかな赤い髪に合ってよく似合っている。美少年が着飾るともはや芸術だ。

「……コニー。あんまりじろじろ見ないで?」

美少年の頬が紅潮すると一気に可愛らしさが増すなぁ……と恥ずかしがるアーヴィンを微笑ましく思いながら、コニーは馬車に乗り込んだ。




交歓会の会場となる学園の大ホールには、既に多くの生徒が集まっていた。

こういう時に攻略対象が婚約者を差し置いてヒロインと共に入場して、一悶着するのが定番だ。しかし、ヒロイン入学からまだ一月足らずの序盤で、そんなクライマックスな展開はまだ起こらないだろう、とコニーは楽観視していた。


ところがどっこい、パトリシアが一人で会場に現れた。学生だけとは言え、婚約者や恋人がいるならば同伴して入場するのが暗黙のルールだと聞いていたコニーは、てっきりアーネストと共にやって来ると思っていたので驚いた。

まさか、本当に婚約者を差し置いて、ヒロインと入場する気なのかと疑ったが、その後すぐにアーネストが生徒会の面子と入場して来た。そういえば生徒会は運営側だから一般の生徒達より先に会場入りしていたのだ。今も受付が終えた役員達が、見回りのアーネスト達と合流して会場に戻ってきたところだろう。ほっとしたコニーだが、その面々の中にアリサを見つけて吐いた息を飲んだ。……何故、あなたがそこにいる?

一年生は運営から免除のはずだ。まさか、またアーネストとのイベントが発生していたのだろうか?アーネストのルート確定なのか?

コニーがじーっとアーネスト達を見つめながら思考に耽っていると、ポンッと背中を叩かれた。驚いて振り向くと、スザンナが訝しげな表情で立っていた。

「何してるの、コニー?もう開会の挨拶が始まるわよ」

舞台の前に生徒達が集まり始めている。コニーがもう一度アーネスト達がいた場所を振り返ると、既にアーネストはおらず、アリサは一人で舞台の前へと歩いていた。アリサの向かう先にはノアがいて、彼女の方を見て手を振っていた。それを受けたアリサが小走りになる。別々に来たのか、一緒に来て途中で別れたのかはわからないが、ここからは幼なじみと合流するのだろう。

「コニー?行こう?」

隣にいたアーヴィンに手を引かれ、コニーも会場前方の舞台へ向かうことにした。

アーネスト、ノア、アーヴィン。それにヒューゴも会場にいるはずだ。攻略対象が一堂に会すと、何かが起こりそうでドキドキしてしまう。既に不穏な気配を察知しているコニーは、期待と不安を胸に交歓会に挑むのだった。


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