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「コニー様。アリサが嫌がらせを受けたって聞いたんだけど、どういうことですか?」

アリサの姿が見えて、コニーは曲がり角の壁に張り付いた。

「嫌がらせって言うほどじゃないわよ」

彼女の進行方向は生徒会室であることに間違いない。本当にアーヴィン抜きで生徒会の仕事なのだろうか?

「……アリサ、泣いたりしてませんでした?」

「私が見た限り、泣いてる様子は……あ、入った」

アリサが扉をノックして入ったのはやはり生徒会室だった。ということは、またアーネストと進展があるのだろう。なかなかのハイペースだ。

「中の様子を見ることは出来ないかしら……?」

「コニー様もアリサの様子が気になりますよね!?」

コニーの後をずっと付いてきていたノアが、ついに前に回って詰め寄ってきた。幼なじみのために熱心なことだ。

「ええっと……ごめんなさい。ピスフルさんは、体育の後、更衣室のロッカーに貼り紙をされていたのよ」

「貼り紙?」

「生徒会長に近づきすぎるなという警告文よ」

「そんなの……アリサだけのせいじゃない。第二王子の方からもアリサに近づいているのに!」

「そうよね、王子の方からも……も?」

コニーはノアの発言に引っ掛かった。まるでアーネストだけではなく、アリサからも意図的に近づいているかのような言い回しだ。

「ねえ、ノア。それって……」


「こんな所で何をしているんですか?」


質問しようとノアしか見ていない時に背後から声をかけられ、コニーは飛び上がりそうになった。

「……アクア先輩!」

「ここら辺はいつから溜まり場になったんですかね」

コニーが振り返ると、そこには呆れた様子で溜め息を吐くヒューゴがいた。

「今日も見回りの日でしたっけ?」

コニーは今日が委員会活動がある日とは聞いていなかった。

「いいえ。委員会のことで生徒会長に用があって、生徒会室へ向かうところです」

そう言ったヒューゴの腕には資料が挟んでいるのであろうファイルが抱えられていた。みんなでやること以外にも細々と仕事がある委員長は大変だ。

「さっきも一年生に注意して帰らせたところです。そうしたら、あなたを見かけたので声をかけてみました。何をしているんですか?」

「ええっと……」

「コニー様と俺はたまたまここで話していただけですよ」

クラスメイトを尾行していたとは言いづらいコニーの背中から、ノアがひょっこり顔を出す。

「君は……」

「一年二組のノアです」

「たしか奨学生ですよね。コンスタンティン嬢は彼と親しいのですか?」

平民と知り合うはずのなかった貴族令嬢が、入学から僅かの間に平民と一緒に行動する程親密になるなどそうあることではないだろう。ヒューゴも驚いた様子だ。

「親しいと言うか……まあ、顔見知りです」

「コニー様、冷たい!」

事実を言ったコニーに対し、ノアはショックを受けたようだ。少なくとも友人になったわけでもないので、顔見知りが妥当と思ったコニーは首を傾げた。

「……やっぱりクリス先輩の妹さんですね」

そう言ったヒューゴは、フッと笑みを浮かべていて、コニーはそのことに衝撃を受けた。氷の風紀委員長が笑った!

「なんか、失礼なこと考えてますよね」

一瞬でスンッと笑みを消したヒューゴから冷気が漂う。コニーは慌てて背筋を伸ばした。

「と……ところで!さっき言ってた一年生は何をしていたんですか?」

コニーはヒューゴの意識を逸らせようと、話題を変えることにした。

「……さあ?反対側の角で食い入るように生徒会室の出入口を見ているので、誰かを待っているのか訊ねたら慌てた様子でした。用がないなら帰るように言ったら、すぐに行ってしまいましたけど」

ヒューゴの意識を逸らすことには成功したが、今度はコニーが彼の話に気をとられることになる。

「わざわざ回り込んでコニー様のところに来たんですか?」

「ちょうど他の一年生が生徒会室に入るところだったので、鉢合わせするのも面倒でしたから……ああ、俺が注意した一年生は、出入口ではなく、彼女を見ていたのかもしれませんね」

「……なるほど。悪役令嬢がヒロインを監視しているのね。となると……」



警告したにも関わらず、ヒロインがまたしてもアーネストに接近していることに怒りを燃やす悪役令嬢が次なる仕掛けをするだろう。

しかし、それは逆効果で、悪役令嬢が嫌がらせをすればするほど、アーネストとの新密度が上がるという悪循環に……。



「……今頃、部屋の中で親密な感じになっているでしょうね」

「おーい、コニー様?」

妄想を繰り広げていたコニーは、ノアの呼び掛けではっと意識を引き戻した。怪訝な様子のノアとヒューゴを見て、うっかり何か口走った気がするコニーはサーッと血の気が引くのを感じた。

「……そんなに中が気になるなら、一緒に行きますか?」

てっきり言及されるのかと思いきや、ヒューゴから出たのは思いもよらぬ提案だった。

「え……一緒に?」

「はい。貴女も風紀委員なので、俺の補佐で同行するのは自然ですし、生徒会長も断る理由はないでしょう」

「え~?コニー様だけずるいなぁ……」

「君は風紀委員じゃないだろ」

ノアがシュンッと項垂れる姿は可哀想になってくるが、ヒューゴには効果はなく、ズバッと一刀両断された。

「本当にいいんですか?」

ヒューゴが何故そんな提案をしてくれたかわからないが、コニーにとっては棚からぼた餅──アーネストや、もしかしたら今から行くヒューゴも起こるかもしれないイベントを見るチャンスだ。

「では、これを持ってください」

コニーはヒューゴが持っていたファイルを渡された。ヒューゴが持つよりコニーが持つ方が補佐っぽい。

コニーは納得し、しょんぼりしながら見送るノアを背に、意気揚々と生徒会室へ向かった。


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