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背後から男にぶつかられたアリサは、まだ状況が飲み込めていないようで、呆けて突っ立ったままだった。

「あの……お怪我はないですか?」

目の前に来ても反応がないのでコニーがおずおずと声をかけると、アリサはようやく気づいたようで、バチッと目が合った。状況を理解しようとしてアリサの視線は彷徨い、コニーの斜め後ろに控えたエリオットで止まる。

「……あなたは?」

アリサはエリオットを見つめながら問いかける。声をかけたコニーをガン無視だ。乙女ゲームのヒロインと攻略対象のイベント中にモブなんていないも同然なのだろうが、心配して声をかけている相手に対して失礼な話である。そういえば、中庭で会った時も彼女はコニーの方には声をかけてこなかった。クラスメイトであり、ノアと一緒にいる時に話しかけてきたりもしていたので、知らないわけでもないだろうに……。このヒロイン、なかなか良い根性している。そこは乙女ゲーム仕様なのかもしれないが。

「ただの通りすがりです。怪我はありませんか?」

明らかにアリサが自分を見ているので、エリオットは彼女の対応をするため一歩前に出てきて、コニーが訊ねたことを繰り返した。

もしかしたら、エリオットが真っ先に駆け寄って声をかけるのが本来のイベントだから、コニーはなかったことにされたのかもしれない。コニーはそう自分に言い聞かせて納得しようとする。

「大丈夫です……あの、どこかでお会いしませんでしたか?」

エリオットのお忍び姿は、以前学園にやって来た時と同じなので、やはりそこで遭遇するイベントがあったのだろう。コニーは大人しく後ろに下がり、二人の様子を見守ることにした。

「そうでしたっけ?」

「そう思ったんですけど……あっ!中庭の木に登っていましたよね!?」

「……バレましたか」

惚けるつもりだったらしいエリオットは、アリサが気づいたことで諦めて肩をすくめた。

「私は学園の卒業生なんです。あの日は恩師に会いに行ったのですが、あの木は学生時代にサボるのにちょうどいい場所だったので、つい登っていたところを見られたようですね」

つらつらとそれらしい言い訳が浮かぶエリオットは、さすが高度な駆け引きが必要な政の世界で生きるべく育った王族だ。恩師にバレたら怒られるので内緒にしといてくださいね、と口止めまで自然な流れで持っていった。その上、ニコリと爽やかだが、有無を言わせぬ笑顔を浮かべている。

この人、よく見るととても綺麗な顔をしている……なんてアリサは思ったのだろう。変装していても間近で見れば隠しきれない高貴な麗しさにアリサがボーッと見とれていると、街の喧騒とは違う、騒がしい大声が近づいてきた。

「放せ!くそっ!」

「お待たせしました」

クリスティアンがアリサにぶつかった男の腕を捻りあげて引き摺って来たのだ。男は後ろで腕を捕らえらているので、足をばたつかせて抵抗を試みるが、クリスティアンはびくともしない。

「これは貴女のものですね」

「……ああっ!?」

クリスティアンが男を掴む方とは反対の手に持っていた小さな赤色の巾着袋を差し出すと、アリサは飛び上がりそうな勢いで驚いていた。盗まれたことにまったく気づいていなかったのだ。

「私の財布!」

「すぐに捕らえたので中身は手をつけられていないと思いますが、一応確認してくださいね」

クリスティアンから巾着袋を受け取ったアリサは、それをぎゅっと抱き締めた。

「あの……ありがとうございます!取り返していただいたんですね!」

「いえ。財布もあなた自身もご無事で何よりです」

クリスティアンが笑顔を見せると、アリサはポッと顔を赤らめる。助けてもらって、優しい笑顔を向けられてドキドキしているのだろう。しかし、コニーはそんな優しそうな外見で、ひったくり犯の男の腕を捻りあげていることに戦慄した。

「いだだだ!!ごめんなさい!もうしません!!」

ついに男からは悲鳴が上がっている。優しいクリスティアンだが、武道の対戦相手には容赦しないので、きっとこの男は捕まる際に抵抗して、無謀にもクリスティアンに向かっていったんだろうな、とコニーは予想した。



程無くして、周囲の人の通報で駆けつけた警察が到着した。

犯人を引き渡すと、クリスティアン達は関係者として事情聴取を求められた。しかし、クリスティアンがその場で一番偉い警察官に小声で話をつけ、話を聞かれるのは被害者であるアリサだけとなった。

「こちらにいらっしゃるのはエリオット殿下です。本日はお忍びですので、事情聴取が必要でしたら、後日僕だけでお受けします」

というような説明をしたのだろう。警察官は恐縮しきった様子でエリオットとクリスティアンに頭を下げていた。


ここまでの間、コニーは極力存在感を消し、後ろに控えていた。アリサと別れる際には彼女と目も合わなかった。


「本当に、ありがとうございました!何かお礼をしたいのですが、お名前と連絡先は……?」

「お気になさらず。僕達はこれで失礼いたしますので」

「これからはもう少し気をつけて、お嬢さん」

アリサに聞かれた問いに答えず、クリスティアンとエリオットはやんわりと回避してその場を離れた。その際、二人してコニーの手を掴んで引っ張って行くので忘れられていなかったようで、コニーは安心した。



乙女ゲームのイベントを間近で見れたのはいいが、イベント進行のためかまるっきり無視されてコニーは少し残念だった。なんだかヒロインの性格キャラが嫌な感じに見える……。

とは言え、エリオットとクリスティアンがアリサとの進展があったのはいいことだ。また次のイベントを楽しみにしよう。


──コニーはそう思い直し、クリスティアン達に手を引かれるまま街の散策へ向かった。



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