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週末の昼下がり、コニーは簡素なワンピースを着て街へ出かけた。


エリオットがブラウン伯爵の屋敷にやって来て、コニーを外出に誘ったのだ。単なる社交辞令かと思っていた先日の発言は本気だったようだ。

クリスティアンと気の置けない男二人で気ままな町ブラするはずが、妹が混ざってしまっていいのだろうか?

「うちには女兄弟がいないから、コニーみたいなかわいい妹とのお出かけに憧れてたんだ」

エリオットがご機嫌で言うので、コニーは遠慮なく一緒に行かせてもらうことにした。

個人的に、コニーは街へ出かけることに問題はない。むしろ大歓迎だった。


何故なら、街といえば、普段学校では見れない、会えない攻略対象とのイベントに最適な場所なのだ。今日こそは乙女ゲームのイベントを近くで鑑賞しよう!


そうして、コニーは意気揚々と街へやって来たのだ。



「……やっぱりお兄様のインパクトがまだ弱いのよね。街で絡まれたり、泥棒とかトラブルに巻き込まれた時に、持ち前の武術で助けるのが王道よね」

「何をブツブツ言ってるの、コニー?」

普段よりラフな格好のクリスティアンが、考え事に没頭して色々と口走りそうになる妹を心配そうに声をかけて呼び止める。こんな街中で、しかもエリオットがいる前で妄想を呟くのは良くないだろう。コニーは慌てて取り繕った。

「何でもありません!……それで、リオ様。まずはどちらへ向かわれますか?」

ブラウンの屋敷でお忍び姿へと着替えたエリオットはその麗しい容姿を上手く隠して、街中でも目立つことなく、しっかり馴染んでいた。彼は王子でありながら、普段から度々街へ下りて市勢調査しているそうだ。今日もそんな彼の意向を汲んで、馬車からは途中で降りて、徒歩で街を見て回るのだ。

前世庶民のコニーだが、一般的な貴族子女と同様、買い物に出ても贔屓にしている店まで馬車で乗り付けるので、平民に混じって街を歩いたことなどなかった。そういうわけで、自分より断然街中に詳しいだろうエリオットに、コニーは行き先を訊ねたのだ。

「とりあえず、この辺りを一周してみようかな。その後、休憩がてらどこかで昼食にしよう」

そうやって向かった先で彼かクリスティアン、はたまた二人同時にアリサに遭遇するのだろうなと予想しながら、コニーはエリオットに賛同して頷いた。




そして、その結果──



「……二人同時かぁ」


クリスティアン、エリオットと並んで歩くコニーは、前から向かってくるアリサを発見してポツリと呟いた。王城のある首都の街なのでそれなりに広い街だというのに、都合よく遭遇するとは、さすが乙女ゲームだ。


舞台となったのは、食材や日用品を売る店が並ぶ賑やかな市場だ。こんな人の流れがあるような街中でのトラブルは、やはりひったくりか、ぶつかって絡まれるかだろう。ただ、こういうトラブルはアリサが怪我をしてしまう可能性がある。

「お兄様」

「どうしたの、コニー?」

「あそこにいる子なんですけど……」

トラブルを未然に回避するか、すぐに助けられた方がいいと思ったコニーは、クリスティアンにアリサを見るよう促す。コニーが指差した先へクリスティアン、ついでにエリオットが目をやったまさにその時──


「きゃあっ!?」


アリサの背後からやって来た男が、追い抜き様彼女にぶつかった。目深に帽子を被っているので顔はあまり見えず年頃は判断しかねるが、成人男性が年端のいかない少女にぶつかれば少女が負けるのは明らかだ。

衝撃で倒れそうになったアリサだが、すぐに反応したクリスティアンが両肩を掴んで支える。

「大丈夫ですか?」

「は……はい」

「少々ここで待っていてください」

呆然としているアリサを置いて、クリスティアンが駆け出した。

「コニー、リオは彼女といてください」

そう言い置いてクリスティアンが向かったのは、アリサにぶつかった男が行った方だ。男を追いかけるのだ。

男はアリサにぶつかった後、足早にその場を去っていた。

「……ということは、ひったくりかしら?」

「コニー?」

「いえ、何でもないです!えーと……大丈夫ですかー?」

エリオットに怪訝な様子で呼ばれたコニーは、慌てて取り繕ってから気づいた。アリサに声をかけてしまったが、これってイベントを妨害してしまったのではないか?ここはエリオットに任せて、コニーは後ろに控えて背景モブになっておくべきだったのでは?そうすれば、エリオットが被害にあったヒロインを慰め、クリスティアンが犯人を捕らえるという一度で二度美味しいシーンになったはずだ。だが、お忍びとは言え、エリオットは王子なので、見ず知らずの者の元へ先に近づかせるわけにはいかない。被害にあった女性に声をかけるということを考えても、同性のコニーが声をかけるので正解だろう。

乙女ゲームのイベントには、これから修正していけばいい。コニーは徐々に後ろに下がり、エリオットを前面に押し出していこう。

コニーはそう思い直し、エリオットと共にアリサの元へ駆け寄った。



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