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翌朝、コニーの妄想は早速実現することになった。
「それでは班に分かれて仕事に当たってください。新入生は俺か副委員長の班に付いて、どこを確認し、どういう指導をするのか見ていてください」
ヒューゴの指示でコニーは彼に付き従って服装及び荷物の抜き打ち検査に向かった。
ゆいの世界と同様、この学園でも学園規則が存在する。
エンダー学園には標準服と言われるブレザーに似た服がある。生徒は指定される日以外は標準と私服どちらを着用しても良いことになっている。ただし、華美なものは認められず、風紀を乱すと判断される服装は指導、罰則の対象となる。また、持ち物についても学業に必要ではないものは原則持ち込み禁止、とゆいの世界の学校とほとんど変わらない。
ゆいの記憶があるからか、コニーはすんなりとこの規則を受け入れられるが、お金持ちで甘やかされて育った貴族の子女はどうだろう?
「私のドレスの何がいけないって言うの!?」
コニーの懸念通り、規則を受け入れられない生徒はそれなりにいるようで、今も風紀委員の指導に反発している。コニーが風紀委員会に入ると報告した際、兄のクリスティアンは心配していたが、なるほど、なかなか骨を折りそうな仕事だ。
「あなたは学園に何をしに来ているんですか?」
キーキー喚く令嬢に対し、ヒューゴは臆することなく指導する。
「派手なドレスで存在を主張したいのかもしれませんが、勉強をしに来ているのにそんなことをする必要はありませんよね?体育の授業等で着替えることがあるというのに、一人で時間内に脱ぎ着できるんですか?あなたが遅れて和を乱すことで周りがどれだけ迷惑を被ると思いますか?」
クールな風紀委員長からブリザードのように吹き荒れる指導に、令嬢は涙目だ。
「保健室で標準服の貸出があるので、ご案内しますね」
ヒューゴの指示で、風紀委員の女性が大人しくなった令嬢を誘導して保健室へ連れていく。コニーは圧倒されながらも、学生名簿の中から令嬢の名前にチェックしておいた。指導された学生の記録だ。仕事を疎かにすれば、あのブリザードがコニーに向けられるかもしれない。コニーは身震いして背筋を伸ばした。
「現委員長と前の委員長のお陰で、今の二、三年生の違反者は激減したんだよ。用事がなければほとんど標準服で登校して来るし」
同じ班の先輩がこそっとコニーに教えてくれた。風紀委員会の活動中は、もちろん学生のお手本として規定通りの標準服を着用しているが、明日からの普通の日も標準服を着ておこうとコニーは心に決めた。……というか、お兄様はいったいどういう指導をしていたの!?
「さすが、氷の風紀委員だな」
コニーの思考が別に飛んでいたところへ、ヒューゴに声がかけられた。はっと気づいたコニーが目をやると、そこにはこの国の王子にして現生徒会長のアーネストがいた。その隣には何故かアリサがいる。アーネストと並んで登校してきたようだ。
コニーはこの後起こる乙女ゲーム的展開を予感し、胸をときめかせた。
「おはようございます。殿下は標準服を着用されるのは結構ですが、ネクタイが本来の物と異なり、少々派手なようですね」
「まあまあ。これくらいいいだろう?」
「殿下はまだ許容範囲ですが……貴女、その髪飾りは?」
ヒューゴの目がアリサに向けられる。──ヒロインとの初対面だ。
アリサの髪には花を象った飾りが着けられていた。その中央には青い宝石が輝いている。
「俺からのプレゼントだ」
「殿下……高価な宝石類の持ち込みは禁止されています」
「持ち込んでいない。ほら、アリサの髪に着いている」
ヒューゴがアーネストに向けていた目を再びアリサに向けると、彼女はビクリと肩を震わせた。表情は硬く、怯えているようだ。
「……高価なアクセサリーも禁止です」
「固いこと言うなよ」
贈り物を指導され、アーネストも苛立った様子だ。アーネストとヒューゴの間に火花が散っている。
「ここは学園です。学生は規則を遵守する義務があります。賢明な殿下も正しくご理解いただけると信じております」
「……はいはい、わかったよ」
アーネストはヒューゴの鋭い視線を払い除けるような動作をして、アリサに向き直る。そして、彼女の髪から問題の飾りをするりと抜き取った。
「ごめんね、アリサ。これは一旦仕舞って、従者に預けておくからまた放課後に改めて渡すよ」
「そんな……アーネスト様!恐れ多いです!やっぱり受け取れません!」
アリサは恐縮して固辞しようとしているが、アーネストは笑顔でそれを受け流した。
「遠慮しなくていいから。……先輩もそれならいいだろ?」
アーネストに不敵な笑みを向けられ、ヒューゴは深く息を吐いた。ヒューゴはそれ以上は何も言わず、コニーを促して次の生徒の確認へ移った。
予想通りの展開だったが、入学して間もないのにもう贈り物を貰うなんて……生徒会で何があったのか、アーヴィンに聞いてみよう。
コニーはヒューゴの後を追いながらそう決意し、風紀委員会の活動を続けるのだった。




