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翌朝、登校の最中にコニーは玄関前でアーヴィンに迫られた。



「コニー!一緒に生徒会に入らない?」



「何、突然……?」

アーヴィンは玄関前で待っていたようで、コニーを見つけた途端駆け寄って来た。そういえば昨日は話せずじまいだったなと思いながら、コニーがまず挨拶をしようとしたが、それより先に切り出されたのはまさかの勧誘だった。

「昨日の呼び出しで生徒会に入るよう言われたんだけど、僕の推薦で一人連れてきていいって」

「それで私を?」

「僕一人であんなところ行きたくない」

一体どんなところだ。学校の生徒会じゃないのか?首を傾げるコニーに、アーヴィンはなおも詰め寄る。

「だから、お願い。一緒に生徒会に入って!」

「ダメよ。コニーは私と一緒に風紀委員会に入るんだから」

いつの間にか背後に忍び寄ったスザンナが、コニーの腕に抱きついた。

「出たな、マキュリ」

アーヴィンがキッとスザンナを睨む。

スザンナとアーヴィンはなぜかコニーを巡るライバルだ。何かとコニーを自分の方へ引き込もうとして張り合っている。

人見知りなアーヴィンも、礼儀を重んじるスザンナも、お互いに対しては遠慮がない。二人共、幼なじみで親友なのに……。


そこでコニーは思った。



きっと、ヒロインにも幼なじみがいる。

それが新たな攻略対象だろう。


幼い頃からヒロインを慕う彼は、彼女と一緒にいたいがために努力し、同じ学園に入学した。王族や上流貴族に囲まれるようになったヒロインに寂しさと戸惑いを覚えつつ、今まで通りに接する健気な少年。だが、なんだかんだでヒロインがピンチに陥り、色々なしがらみで動けない貴族達に業を煮やし、単独でヒロインを助けに向かう。そして、なんやかんや追い詰められた状況で、開き直ってヒロインに告白するのだ。



……うん。やっぱりいいなぁ、こういうの。



コニーはまた乙女ゲーム的な展開を妄想して、にやけそうになるのを我慢した。口の端がピクピクとひきつっている。

「生徒会なんて雑用ばかりでしょう?風紀委員会の方が色々な情報が入ってきそうで楽しそうだわ。同じ委員会の方が監視しやすいし」

現実では、まだスザンナとアーヴィンの戦いが続いていた。アーヴィンに張り合うスザンナは最後の方だけボソリと呟いたので、何を言ったのかコニーには聞き取れなかったが、風紀委員会に入る気満々のようだ。

この学園では生徒会を含め何かしらの委員会に加入しなければならない。せっかくならコニーも友人と一緒の委員会に入りたいと思っていたが、それが何故か生徒会と風紀の二択になってしまった。

「僕だって入りたくないよ。でも、殿下直々に勧誘されたら断れないだろ」

「まあ、嫌なものとわかっていてコニーを引き込むつもり?」

「そういうわけじゃ……」



これは……もしや分岐点なのでは?


乙女ゲームの行動はいくつかの選択肢から選ぶものだ。大体三つか四つくらいの中からしか選べない。

この場合、“生徒会”と“風紀委員会”、“その他”といったところだろうか。

生徒会を選べばアーネストとアーヴィン、風紀委員会やその他を選べば別のキャラクターとの物語が進むのだろう。

風紀委員会ってまさか、オーバーシュトルツ先生が!?と一瞬思ったが、あの人は違うだろうから、新たな攻略対象か、エリオットかクリスティアンが関わってきそうだ。


モブの会話から、ヒロインはどの委員会に入るか考える。



女生徒A『ねえねえ、あなたはどの委員会に入る?』

女生徒B『生徒会なんて憧れるけど、私には無理よね』

女生徒A『風紀委員会は多めに人を募集しているみたいよ』

女生徒C『私は図書委員会がいいなぁ』


『……委員会かぁ』


1.生徒会って私でも入れるかしら?

2.風紀委員、やってみようかな?

3.他にはどんな委員会があるんだろう?



──ゲームの画面であれば、こんな表示がされているだろう。


この中からヒロインが選ぶのは……。



「あの……よろしければ、私が生徒会に入ってもいいでしょうか?」


朝から賑やかなコニー達に声をかけてきたのは、ヒロインことアリサだった。

コニーは予想通りだったので驚かないが、アーヴィンとスザンナは知り合いでもない人物が突然話しかけてきたことに怪訝な顔をしている。クラスメイトのアーヴィンも情報通のスザンナも彼女のことは知っているが、正式に名乗り合ったわけではない。

「……どちら様?」

「あ……唐突に失礼しました。アリサ・ピスフルと申します」

スザンナの問いに、アリサは慌てて名乗った。

「皆さんのお話を聞いてしまって……もし、誰かを生徒会に入れなければいけないのなら、私ではダメでしょうか?」

端に寄ったとはいえ、玄関前で立ち話をしていれば気になるだろう。アリサは立ち聞きしたことを申し訳なさそうにしながら提案した。

「あなたは生徒会に入りたいのですか?」

「はい。何やら揉めてお困りのようでしたし……それに、私は特待生なので、生徒会に入れば内申が良くなるかなって下心もあります」

「ちょうどいいじゃありませんか、ガーネット様」

「いや、僕はコニーと……」

これは、アーヴィンとヒロインが仲良くなるチャンスだ!乙女ゲームを間近に見れて、それが幼なじみの恋愛なら応援しない手はない。

縋るように見てくるアーヴィンにコニーは深く頷いて見せた。

「私はスザンナと一緒に風紀委員に入るから、気にしないでね!」

コニーの言葉にスザンナは飛び上がって喜び、アーヴィンはがっくりと肩を落としたのだった。



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