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2週間の夏休み  作者: 蓮実 よる
9/16

気づいたら…

今回は菊池くん目線です‼︎

今日は土曜日。祭りは明日の日曜日。それまでに俺たちは『理事長撃退』のために必要なものを買いにデパートに来た。しかし、行く途中、俺たちは学校の近くの公園でハトに餌をやるお婆さんに会った。ジーッと刹那が見ていると、お婆さんと目があったようだった。

「ハトは好き?」

優しい声でお婆さんは話しかけてくる。刹那の不気味な笑顔とは違い、暖かく微笑んでいる。

「はい‼︎ 大好きです‼︎」

元気よく刹那が答える。まるで昨日の事はなかったかのように、彼女は元気だった。お婆さんは、ほほほ と優しく笑い、俺たちに説明し始めた。

「この子達はすごく賢いんだよ。朝6:00にはちゃんとここに集まって、私が来るのを待っているんだよ。あまりに楽しすぎてお昼までいたこともあってね。人の言葉も理解出来るんだよ。昔は夜の8:00にエサを渡しに来てやれたんだけど、私をもう歳だから……」

そこで悲しそうにお婆さんが話を区切った。

「じゃあ、菊池くんがエサやりをしに夜 8:00行きます。そうすれば嬉しい? おばあちゃん」

それを聞き、おばあちゃんは楽しそうに笑い始めた。

「ほほほ、いいのかい? こんな老いぼれのために… 君たち3人はいい子だね」

目には薄っすらと涙が浮かび上がっていた。このように言われたら、断れる訳がなかった。俺はこれから、夜の8:00に 『ハトのエサやり』 という習慣をつけないといけなくなった。エサやりが何かの役にたつとは思わない。これぞ、骨折り損のくたびれ儲け というものかと、俺は苦笑いをしたのだった……

……

デパートにつき、刹那が早速、作戦に必要なメモを取り出した。昨日 捺末が渡したメモだった。作戦もまだ出来ていないのに、道具だけ買ってどうするんだと聞いたが、刹那は聞きやしない。5年ぶりの日本のデパートに はしゃいでる彼女に

「必要なものは分かってるの?」

と、捺末が冷たく刹那に質問した。

「大丈夫、大丈夫‼︎」

と、彼女は元気に答えた。刹那はこのミッションを企画した本人だからリーダーだと言って張り切っている。彼女はメモ係、命令係だそうで、捺末は地図係。ちなみに俺は荷物持ちとして連れて来られたそうだ。昨日パシリから料理人に昇格したのに再びパシリに戻ってしまった… 係は置いておいたとしても、メモに書かれている物の数が尋常ではない。金はどうするのかと聞いたら刹那は

「菊池くんが払うのに決まってるでしょ?」

……俺の意見もなしに決めつけてしまっていた。本当だったら言い返しているはずだが、俺は昨日見たユーザーネーム『MEG』が気になって仕方がなかった。どう見ても刹那が湯子に宛てて送ったメールだと言うのは間違いなかった。『ANUSTES』は逆から読んだら『SETSUNA』になる。間違いなく刹那のアカウントだ。なのに、なぜ『MEG』のアカウントを使ってやり取りをしているのだろう?『ANUSTES』のように『MEG』を逆から読んでみることにした。すると、『GEM』と出てきたのだった。意味は、宝石……? 宝石は人によって価値が変わるんだったよな…? つまり…… 雨柄に『価値のある宝物』……? ますます意味がわからない。俺が考え込んでいると横で2人の話し声がかすかに聞こえた。

「わぁ……すごい大人数」

「本当。今日は家族連れが多いわね…… 休日だから仕方ないか…」

おお、にんずう……? かぞ…く……?し、かた……ない?

俺はハッとして『MEG』を心当たりのあるものに当てはめてみようとした。しかし……

「…思い、出せない……」

絶望的な声で俺は呟いた。そう、いつも刹那と一緒にいたあの子。名前は…確か…… 俺は必死に頭を回転させた。えーっと、えーっと…… 丁度その時、宣伝が流れた。


「2人の少女が1人の少年を手に入れようと、熱いバトルを繰り広げられる青春ラブストーリー‼︎ 〈ツンデレ外国人のジェムニ〉と 〈癒し系アイドル めぐみ〉 が 〈謎の転校生 レオン〉の心を巡る、学園物語‼︎ 1-3巻、絶賛好評発売中‼︎ 今すぐ めぐめ書店にGO‼︎」


…………ジェムニ…………めぐみ…………巡る……………めぐめ…? ……余計こんがらがってきた……

このアホな宣伝のせいで、俺は思い出しそうだった名前を思い出せなくなってしまった。はぁ と大きなため息をついた俺は、近くにあったベンチに座って2人が買い物から帰ってくるのを待った。サイフは捺末に渡してあるから大丈夫のはずだ。そう思って辺りを見渡していると、近くに電気屋さんがあった。なぜかは分からないが、俺は吸い込まれるようにその店の中に入って行った。この電気屋は近いうちに閉店するそうだった。せめて何か買って行こうかな、そう思って俺は機械を見て回った。

「機械は好きかい、にいちゃん?」

突然俺の後ろでしわがれた男性の声が聞こえて恐怖のあまり固まった。そして恐る恐る、後ろを振り返った。そこには70代後半のようなお爺さんが立っていた。ここの店長だったのだろうか?俺はそう思いながらおじいさんの質問に出来るだけ丁寧に答えた。

「えーっと、はい。」

それを聞いたおじいさんは、

「ちょっと待ってな。」

そう言って店の奥の方に歩いて行った。そして再び出てきた時には、小さな機械を握っていた。

「これは代々受け継がれてきた録音機なんじゃ。ワシももう歳じゃし、次の後継者に渡さねばと思っていてな。じゃから」

そう言いながら、おじいさんは俺の手に録音機を置いた。

「お前さんに使ってもらったら、きっとこいつも喜ぶと思うんじゃ。お代は結構だから貰ってやってくれ。」

俺はおじいさんにお礼を言い、今まで大切にされてきた録音機をそっと撫でた。なんだかこの録音機がこれから何かの役に立つような気がして仕方がなかったからだ。

集合場所に戻ると、そこには少女2人が俺の金でアイスクリームを食べながら待っていた。

「どこ行ってたの、菊池くん?」

「早くしないとアイス溶けるぞー」

捺末からアイスを受け取りながら俺は軽く笑った。

「何かいいことあった?」

刹那が首を少し傾げながら俺の目をみた。目をそらそうとしたが、遅すぎた。俺たちの目は バッチリ と会ってしまった。そして俺は、彼女がすごく綺麗だと思い、まじまじと見てしまったのだ。今までうつむいたり目を逸らしたりしていたから気づかなかったけど、こうしてみるとお人形のように可愛かった。怒ると鋭く光る目は、子供の遊び心を忘れていない瞳だった。不気味な笑顔を浮かべる口は、アイスで少々テカっている。夏の暑さのせいか、頰は淡いピンク色になっていた。数秒間見つめあっただけなのに、俺にとっては時が止まっているように思えた。

「菊池くん?」

苗字を呼ばれただけなのに、俺の顔は急にカーッと暑くなった。そして急いで目をそらしてしまった。意識してはダメだと言うのは分かってるはずなのに、ついつい彼女を目で追ってしまう。昨日、あの様なことがあったのに俺は何をやってるんだと自問自答した。しかし、どうやっても、気付けば雨柄の事ばかりを考えていた。理事長の事も、イジメの事も、あの謎のユーザーネームの事も…… 全部全部、刹那に絡んでいる…… けど、それだけだ。他意はない。そう自分に言い聞かせた。しかし、もしこんな事にならなくても、俺は刹那の事を考えていただろう……


今思えば、俺は彼女に初めて出会った時から…… もしかしたら………………

もしかしたら……恋に落ちていたのかもしれない。

今回はあの臆病な菊池くんが雨柄ちゃんへの『恋』について気づきましたー‼︎

次回は雨柄ちゃん目線で書きたいと思います‼︎

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