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2週間の夏休み  作者: 蓮実 よる
8/16

行方不明者

今回は湯子ちゃん目線です‼︎

「殺」と言う単語が一部でて来ますが、「コロ」と書いています。ご了承ください。

「では今から、ムニエルと炊き込みご飯を作りましょう。」

「へーい」

まさかお腹が空いて今にも倒れそうな時間帯にハードなメニューの調理実習とは…… ははは、と私は苦笑いをしながら、炊き込みご飯のゴボウを切るために包丁の準備をした。

「わぁ〜‼︎ 本格的だね〜‼︎」

私の左の方から雨柄の声がした。真っ白なエプロンを着て、頭に黒い猫耳帽子をかぶった、アンバランスな服装。そして、食器などが置かれてるキッチンカウンターに座り、足を交互にゆらゆらと動かしている。誰も彼女に注意をしない。それどころか、目すらあわせようともしない。そして運がいいのか悪いのか…… 私達3人は同じグループに入れられていた。

「ちょっと雨柄、食器が割れるかもしれないから降りて。」

少々トゲのある言い方で雨柄をカウンターから追っ払った。しかし、彼女は全く気にせずヘラヘラと笑っている。今朝の事があってから、彼女は私と菊池にベッタリとくっついて来て離れない。メールの確認をする時も、ジーッと見張っている。まるで監獄のようだ。私は はぁ とため息をつき、トントントンとゴボウをリズミカルに切り始めた。

「あー‼︎ 湯子すごーい‼︎ 私もやってみていい?イギリスじゃ あんまり先生が使わせてくれなくてね〜」

そう言いながら、雨柄は包丁を持っている私の右手を左右に大きく揺らした。

「揺らすな、危ない‼︎」

私は彼女に大声で怒鳴りつけた。しかし、彼女は揺らすのをやめない。

「ねーねー、いいでしょ? 私も切ってみたい‼︎」

子供かっ!と言いたくなったが、あえてツッコまないようにした。代わりに違う人がツッコンでくれた。だが、私が期待していたセリフではなかった。

「2人共…… 料理しないで何やってんの?」

菊池…… そうじゃない。確かにそこも問題だけど、今はそっちじゃない‼︎ 包丁‼︎ 私今右手に包丁持ってんの‼︎ その右手がこいつによって左右に揺れてるの‼︎

「この木の根っこみたいなやつ切ってみたい‼︎」

「ダメ‼︎ 危ないからあんたはお皿を洗ってなさい‼︎ それとこれはゴボウ‼︎」

と、私は大声で叫び、解放された左手で流しを指差した。いやだ、とか言われるんだろうなぁ… などと思いながら、揺れがおさまってきた右手でゴボウを再び切り始めた。

「分かった‼︎」

目を子供のようにキラキラと輝かせて、彼女はお皿を洗いに行った。え、マジで今のでよかったの? 私は目を点にしながら、流しに向かう雨柄を呆然としてみていた。

「それだったら最初からその手口を使ってればよかった……」

はぁ、と私は本日2度目のため息をついた。

……

「いただきまーす‼︎」

雨柄のよく通る声が廊下にこだました。無事、料理は出来たが、出来るまでの道のりは絶望的だった。米を3合入れる簡単な作業を、どう間違えたかは不明だが、大鍋1つが米の山に埋もれていた。大鍋の中に米の山ができたのではない。外に出来ていたのだ。そして、その米の横に『サンゴ』 と書かれていた。雨柄にこれはなにかと聞くと、『サンゴ』だと胸を張って言ってきた。3号をサンゴと聞き間違えたらしい。ぶん殴ろうかと思ったぐらいだった。菊池におさえられていなかったら、今頃あいつの顔がボロボロになっていただろう。が、菊池は「その逆だ」とボソリと呟いた。

『サンゴ』を片付けた後、せめて何かさせろとうるさいので、米を洗ってもらおうと思い、釜を渡した。洗うだけなら害はないかと思ったが、それは大きな失敗だった。3号あったはずのお米が、気付けば1号に減ってしまったのだ。流しに落ちたお米がもったいなくみえた。せめて鳩の餌にと思い、雨柄に見つけた米を袋に片っ端から入れさせた。クラスのみんなが食べ終えた頃には、私達のご飯が出来上がったのだった。私は雨柄に気をとられていて、何も作ってなかったが、菊池が作ってくれていた。「パシリから料理人に昇格したね、菊池くん」、と爆笑している雨柄のジョークにより、私は口から水を吹いてしまった。料理の味は(ご飯以外)、味付けも上手く出来ていて、とても美味しかった。こうして、今日の調理実習での活動は終わった。

……

「では、第1回、会議を始めたいと思います。」

雨柄が自信満々で淡々と喋り始めた。放課後、私達は『永遠の迷宮』に集まった。

「はい、質問」

「却下」

「聞けよおい…」

菊池の質問を雨柄がズバッと却下したのを無視して、今度は私は質問した。

「それで、私達は何をすればいいの?」

本当は分かってはいたが、菊池のために質問をしておいた。私の質問を聞き、雨柄はニヤリと不敵に笑い、チョークをクルクル回しながら口を開いた。

「よく聞いてくれました」

彼女が黒板にカッカッカッと字を書いていく。そこには大きく、『理事長撃退方法』と書かれていた。

「これから2人には、理事長について知ってる事、この学校の事、全ての情報を洗いざらい吐いてもらう」

「何?理事長とケンカでもしたの?」

冗談で言ったつもりだったのだが、雨柄の顔をみて気づいた。理事長は彼女を相当怒らせたのだ、と。いつものよりも何十倍もの威圧感が違う三日月型の笑みを浮かべている。

「…ふ、ふふふ…… あの理事長……いや、あの小学校ごと潰してやろうかしら…」

などと物騒な事をぶつぶつと言い始めた。

「まあ、とりあえず、はい。メモとペン。今から私が知ってる情報言うからメモって。」

「うん、分かった」

雨柄はボールペンを右手に持ち、左手でメモ帳を持った。両手がふさがっているのでペンのキャップが外せないことに気づいた彼女は、口で外した。私のペンキャップには彼女の唾液が少々付いてしまった。

「ちょっと… 口で開けなくても……」

私はしどろもどろ言った。もしこれがイギリスの常識だったらどうしよう…? そう思っていた。雨柄は私をキョトンと首を少々傾げて見たあと、大爆笑し始めた。

「あはっ、あっはははは‼︎ ごめんごめん、つい癖が出ちゃった」

癖なら仕方がない……って

「なるかー‼ ダメでしょ⁉︎ 私のペンキャップあんたの唾液がついちゃったでしょ⁉︎ どうすんのさ、汚い‼︎︎」

「じゃあ、私のあげるよ。交換! いいでしょ?」

そう言って彼女は緑色のボールペンを私に渡した。ペンの所々には英語が書かれていた。英語が読めない私は、なんて書いてあるのかさっぱり分からない。

「ツ…トゥ……えーっと……」

私が顔をしかめながら読んでいると、

「あ、菊池くんにはこっちどうぞ」

そう言って水色のペンを取り出した。

「お、俺も貰っていいのかよ……?」

オロオロ、と言うかビクビクしながら彼は雨柄からペンを受け取った。きっと何か裏があるとでも思ったのだろう。チラチラと私の方を見てくる… このペンにも英語が書かれていた。私のには、

『To my ###』

菊池のには

『For my >>>>> one』

しかし2つとも、肝心なところが長い事使っていたせいか、目をよく凝らして見ないと分からなかった。

「さ、湯子、早く情報教えて」

雨柄が脱線した私達を本題に戻してくれた。

「分かった。理事長は私達の小学校で何度もイジメられてる生徒を無視し続けて来た。あんたもそのうちの1人だよ。他にも、ロリコンだったって言う噂もあるよ。だけど、もしそうだったら雨柄をイジメから助けてたはずだからそれはないと思う。他にもあったけど、1番重要なのはやっぱり『アレ』だよね……」

「……アレ?」

雨柄が冷たい目で私を睨む。言いたくはないが、私は早口で静かに言った。

「何人も行方不明になった生徒達について知っているけど、私達には引っ越したとかで話を終わらせてる事」

そう。私達の小学校ではよく生徒が行方不明になる事があった。引っ越したと言われても、その生徒の親はまだ家にいる。確かに警察が学校に来るのはよく見たが、すぐに帰って行くのだ。それを聞いた雨柄の瞳がキラリと光った。まるでその証言を待っていたかのように彼女は超特急でメモにまとめ始めた。私は彼女の執筆が終わるのを待った。そして再び口を開いた。それは情報を伝えるためではなく、彼女への質問だった。

「……ねぇ、もしかして行方不明になった生徒達って理事長に関係ある……んだよね…?」

「ええ、それは間違いなさそうね」

雨柄は落ち着いたトーンで私の質問に答えてからメモを読み返し始めた。質問している時も答えている時も、一切目を彼女はあわせようとはしなかった。

「それで? 他に情報はないの?」

彼女はうつむく私に向かって話し始めた。

「…えっと……」

正直に言ったら、私が知っている情報はそれぐらいだった。正直に「それ以上は分からない」と言えればよかったが、私は言わずにもう一度考えた。他に…他にあったっけ…… すると私は ふと 思い出した事があった。


5年前


「ねぇ、小6のマイコちゃん、いなくなっちゃった。もう5日も来てないんだよ。」

「ほっときなよ 若葉。あの子どうせ学校に来ても雑用押し付けられるだけだしさ。それに、あんなウザい子、いなくなってくれて私は嬉しいよ。」

「あっはははは。だよねー。6年生だからって調子に乗りすぎー」

「まあ、うちら小3だから仕方ないかー?」

「ってか小3で湯子みたいに口悪い子いないっしょ?」

「それな」



数ヶ月後


「ねぇ、1週間ぐらい小4のヒロくん 来てないよねー。何があったんだろー?」

「あんな根暗なやつ知るかよ。ってか誰それって感じー!ぎゃっははは‼︎」

「うーわー、いくら本当でも言ったらマズイよ湯子〜」

「ってか 若葉 も私も小3だから小4のヒロの事あんまり知らないでしょ」

「確かにそうだけどー」



雨柄がイギリスに行く日


「やったね湯子‼︎ あんたの1番嫌いな刹那がイギリスに行くんだって聞いたよ!あんたこれで敵無しじゃん‼︎」

「ま〜ね〜。あー、清々した〜」


よくよく考えてみると、いなくなった生徒って……ほとんどがイジメられてた子だった。誰からも相手にされていない子達ばっかりだ。

「ねえ雨柄、これは私の仮説なんだけど…… 今まで行方不明になった子達って…… イジメられてた子達だけ……だったりしない…?」

お願い…… 嘘であってほしい……

私はギュッと目をつぶり、雨柄の返事を待った。

「……よく、分かったね」

雨柄の目は大きく見開き、私を見つめていた。そん、な…… 私は絶望しそになった。しかし、

「だけど、少し違うかな?」

……え?私は耳を疑った。どう言う、事…?

「ど、どうして⁉︎」

私は ガタンっと席から立ち上がった。雨柄は落ち着いて私に説明した。

「確かにイジメられてた子が主にいなくなってたけど、一般の子も行方不明になってたよ。……特に、理事長のお気に入りの子が」

私は頭が真っ白になった。何が一体どうなってるんだ……?

「多分、私の推測が正しければの話なんだけど……」

雨柄が話し始め、私は ゴクリ と唾を飲み込んだ。

「まずは菊池くんの情報も聞かないと」

ゴッ‼︎ 私は頭を強く机に打ち付けた。痛い……

「…うわ……湯子何やってんの?」

「あんたのせいよ‼︎」

そう言って、私は雨柄の頭をゲンコツしようとした……が、意図も簡単に避けられてしまった…… 私は渋々、菊池と席を代わった。

「じゃあ菊池くん。知ってる事全部吐いて」

笑顔で菊池に話をしてはいるが、目が笑ってない。おまけに彼女の後ろから出る禍々しいオーラに菊池は震え上がっていた。まるでライオンの檻の中に置かれたハムスターのようだった。

「え……えっと…… 俺、1回理事長の部屋に呼ばれた事あるんだけど……」

「え⁉︎」

私と雨柄は同時に菊池に叫んでしまった。

「ごごごごっ、ごめんなさい⁈⁉︎⁈」

今にも泣き出しそうな哀れな声で菊池は謝った。

「続けて‼︎ そのあとどうなったの⁉︎」

食い入るように雨柄は彼を見つめた。そして菊池が喋るのを急かした。

「え…えっと……よく覚えてないけど…… お茶を勧められた。」

お茶……? え…嘘でしょ? お茶って、あの お茶⁉︎

「なるほど…続けて。」

雨柄はペンを顎に当てながら話を聞いた。

「えっと…… けど俺、猫舌で… 熱いお茶は飲めなかったんだ。そしたら今度は、理事長の手作りクッキーを勧められたんだ。」

お茶の次にクッキー…… なぜ理事長は菊池に飲食して貰いたいのだろう……?

「けど俺、ちょうどその日はクッキーよりも ドーナッツが食べたい気分だったから断ったんだ。」

「つまり、理事長がすすめた食べ物は一切口にしなかったんだね?」

雨柄がゆっくりと聞いた。菊池は少し考え込み、再び口を開いた。

「……いや、確かあの後俺、1口だけクッキーをかじった」

「そ、それで⁉︎」

私と雨柄が机を強く叩き、まるで刑事が犯人の取り調べをしているように話をさせた。

「えっと…… そのあと、急に眠くなってきたんだ」

「睡眠薬…か」

雨柄はボソリと呟いた。睡眠薬? けど……

「一体何のために⁉︎ 」

私は雨柄に大声で怒鳴った。怒鳴るつもりはなかったが、ついつい大声が出てしまった。

「湯子、落ち着いて。」

「落ち着いてられないよ⁉︎」

「菊池くん、続けて」

「聞け雨柄‼︎」

私はすかさず雨柄にツッコミを入れた。その間、菊池は黙って見ていた。ようやく落ち着いた私達は菊池に話を戻した。

「えっと、けど俺はその場で寝るほどの睡魔には襲われなかったんだ。だから俺はそのまま家に帰って寝たんだ。」

つまり理事長は一体何をしようとしたんだろう…?

「……ブラックマーケット…」

雨柄がポツリと言った。

「え…?」

私と菊池は耳を疑った。どう言う事……?

「ブラックマーケット、もしくは、臓器を違法で売ったり。子供の臓器は高く売れるらしいよ」

菊池の顔からサッと血の気が引いた。

「つ……つまり…俺……い、今頃… 売られて……」

カタカタと恐怖に震える彼を雨柄は追い討ちをかけるように

「そう言うことになるね」

とだけ言った。彼の気まぐれのおかげで菊池は生き延びたのだった。私もびっくりしすぎて声も出ない。

「湯子の証言と菊池くんの証言を照らし合わせると…………」

菊池は何度も瞬きをした。私は 頰から汗が一滴流れた。そして雨柄が喋り始めるのを待った。

「……理事長は菊池くんみたいな子供達を、コロしたのかもしれない」

『コロした』

その一言で私は地面にへたり込み、今にも泣き出しそうになった。菊池はその横であんぐりと口を開けていた。普通だったら恐怖で覚えていたり、怖がったりしているはずなのに雨柄だけは笑っていた。不気味に、狂気に満ちた笑みを浮かべて…… まるでこの恐怖がゲームの1つのイベントのように楽しんでいる。しかし、雨柄は、『イジメられてる子』がどうなったかは言わなかった。彼女は『行方不明になった一般の子供達』しかし言わなかった。私は不気味に思えてきた。耐えきれなくなった菊池が話を変えようと急いで喋り始めた。しかし、失敗した。

「ど、どんな事書いたの?」

菊池が身を乗り出してメモ帳を覗き込む。

「う、わぁ…… これは酷い…」

ますます顔色が悪くなっていった。

「確かに。人間のド底辺だね。」

だが、雨柄は嬉しそうにしているが、鋭い目を光らせて念密に読みかえしていた。

「雨柄、俺もメモ帳1人で読んでもいいか?」

「ダメ」

即答だった。そして彼女はイスを部屋の隅の方に持って行き、再び読み始めた。菊池は悲しそうにうつむき、黙った。私は彼女の知られたくない過去を知っている。しかし、あまり詳しくは知らない。今ここで菊池に教えてあげても良かったが、言うと雨柄が警察に通報されると知っていたので黙って窓の外を見た。知ってしまったからにはもう…後には戻れない……

……

雨柄が帰ろうと声をかけたのは7:00過ぎだった。私は立ち上がってカバンを掴むと、重い話題を変えるのにちょうどいい事を思いついた。

「そう言えば雨柄、赤と緑の浴衣があるんだけど、どっちがいい?」

「うーん。じゃあ、赤にする」

「じゃあ、明日の放課後、私の家においで。貸してあげるから。」

「本当⁉︎ やったー‼︎」

そこは ありがとう、でしょと言いたくなったが彼女はただいまご機嫌斜めだ。さっきまで楽しそうにしてたが、今は目が笑ってないし、喜んでもいない。代わりにメモ帳が入ったカバンを強く握りしめていた。唇を強く噛み締めていたからか、細い一筋の血が口から垂れて、床に落ちていった。

「…許さない……」

雨柄がそう呟く声が聞こえたような気がした。


とりあえず雨柄ちゃん、『米』ゲットしました。いつ使うかはまだ内緒ですw

次回は菊池くん目線で書きたいと思います‼︎

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