正当防衛でオーバーキル?
今回は菊池くん目線です‼︎
「あのー…… 雨柄さん…… もしかして、いや、もしかしなくて俺たち…… 迷ったー、なんて…?」
「……」
「デ、デスヨネー……」
そう、俺たちはただいま、秋葉原の路上で絶賛迷子中だ。これ以上事態が悪化しないでくれと願っていたが、運悪く、俺をイジメている岡辺と偶然鉢合わせしてしまった。
「お、菊池くーん‼︎ ちょー偶然。昨日は、どうも」
笑顔で俺に岡辺は話してくるけど、怒りで今にも殴りかかりそうな雰囲気に、俺の顔が引きつった。すると岡辺は俺の隣にいる刹那を見て、昨日の少女だと気づいたようだった。
「お、昨日のイギリス少女。俺今すごく機嫌が悪いんだ。今日ここで会うなんてお前と菊池は運が悪い。俺の顔をケガさせておいて、生きて帰れるとでも思うなよ? ボコられる覚悟は出来てんだろう、なっ‼︎」
喋りながら岡辺は俺に向かって右の拳で殴り掛かってきた。
「ぅわぁぁ‼︎」
あまりに急な攻撃に俺は動く暇もなかった。代わりに情けなく叫んだ。
「右に避けて‼︎」
俺の左の方からリンとした少女の声が聞こえる。そして俺は彼女の命令に従って右に避けた。全てがスローモーションに見えた。俺の顔スレスレのところで岡辺の拳が空振りする。その一瞬を見逃さずに刹那が岡辺の腕を細く小さな腕で掴み、自分の肩に乗せた瞬間、
ドンっ‼︎
地面に何かが強く落ちる音がして、悲痛な叫び声が後に続いて響いた。
「ぐぇあっ‼︎ ぃい゛ってぇぇ‼︎」
なんと地面に岡辺が仰向けになって倒れていた。そして岡辺の右腕を今もまだ刹那が掴んでいた。刹那は彼女の体の2倍ものある巨体な岡辺を、一瞬で 背負い投げ したのだ。俺は顔から血の気が引き、今にも気絶してしまいそうだった。岡辺はこの区の中学校では名の知れた不良みたいなやつだ。どんな相手でも一瞬で血の海に沈めてしまうと言われているほどの危険人物。そんな彼が今、少女に負けたのだ。恐怖に怯えない訳がない。俺が動かないでいると刹那が大声で、
「今のうちに逃げるよ‼︎」
と叫んだ。俺は我に帰り、転げるようにしてその場から逃げ出した。駅でのデジャブのように、後ろから怒鳴り声が聞こえた。
「待てコラぁぁ‼︎」
捕まったらタダじゃ済まないと俺は察して、一層速く走り始めた。
「しつこい いじめっ子だね、本当。知り合い?」
刹那が呆れながら俺に聞いた。俺が全速力で息も途切れ途切れで走っているのに、刹那は余裕そうな表情を見せている。俺の運動神経はクラスで3番目に『いい方』だ。そうなると刹那は相当足が速いと言えるだろう。俺の考えは置いておいて、刹那の質問に頑張って答えた。
「……岡辺って言うやつで…… 俺をよく、イジメてて……」
「ふーん。うちの小学校の子?」
「いや……隣の…小、学校」
「それは残念だなぁ」
なぜ、『残念がる』のか、俺には分からない。だから刹那に勇気を出して聞いてみた。
「なん……で?」
「あー、うちの小学校の子だったら問答無用でノックアウトさせるつもりだったんだけど、隣の学校だとなぁ…… 残念」
残念がるものではない。違う学校に彼が通っていてよかった。今頃彼女にボコボコにされていてもおかしくない。
「ねぇ」
「?」
俺に何か聞きたいことがあったらしいが、刹那は喋るのをやめた。
「どう…した?」
まずい……そろそろ俺の足が限界を超えてきた。スピードがゆっくりと落ちて行く。頭がボーっとしてきた。そんな中、刹那が一言言った。
「正当防衛だって証明してくれるんだったら助けてあげる」
……はい?俺は耳を疑った。助けてくれる? どう言うこと?
「早く答えないと捕まるよ」
その言葉に俺はハッとした。そうだ、このままだと俺は岡辺にボコられる。今回は超絶機嫌が悪いそうだから、何をされるかたまったもんじゃない。俺は答えた。
「証明…する!」
「OK」
綺麗なイギリス英語で彼女は返事をし、走るのを止めて後ろを振り向いた。気のせいか、彼女の目が鋭くなり キラッと 光ったように見えた。後ろからは凄まじい形相で走って来る岡辺の姿が見えた。
「待ちやがれコラァぁ゛‼︎」
待てと鬼のような形相で言われて待つ奴がいるかと俺も刹那の横に止まって思ったが、いました。あぁ、女子に、しかも昔イジメていた子に1日に2回も助けられるのは男としてどうなのか、と俺は自問自答していたら、岡辺が追いついてきた。
「ガキぃ、お前さっきは、よくも…」
肩で荒く息をしている岡辺が刹那に向かって怒鳴りつけた。しかし、彼女は彼を無視し、軽くジャンプした。そして体をねじらせたと思ったら、彼女の細く、白い脚が見事に岡辺の右顔に的中した。ゴキっ と言う音も聞こえたりなかったり……
「がはっ‼︎」
岡辺は白目を向いてよろけた。刹那は地面に着地すると容赦なく岡辺の腹に横蹴りをくらわせた。
「ゴホッ‼︎」
彼の体が前のめりになった瞬間、刹那は最後の蹴り技を顎に決めた。岡辺の体が後ろに仰向けになってドサッと倒れた。……今回ばかりは彼が申し訳ないと思った。
「ふぅ、こんなもんかな?」
刹那は腕で顎に落ちてきた汗を拭うと俺の方に振り向いた。
「大丈夫、菊池くん?」
俺は無言でコクコクと頷いた。怖すぎる…… 気付けば岡辺と俺たちを囲んで野次馬が出来ていた。これ以上ここにいたら面倒なことになりそうだったので、俺たちはそそくさと事件現場(?) から離れていった。そして、人気のなさそうなお店の中に入ると、俺は安堵の息をついた。あのまま現場にいたらどうなったのだろう? そう考えたが、ロクな事じゃないと思い再び安堵の息をついた。
「そういえば雨柄、お前すごいな。空手でも習ってたのか?」
俺は彼女に話のタネとして質問してみた。しかし彼女の答えは俺の予想していたのとは全く違った。
「ん? あぁ、あれ? 空手じゃないよ。イギリスにいる友達のお父さんがアラスカでグリズリーを拳で倒したそうで、護身術のために教えてもらったんだ。」
と、平然として言うが、俺は化け物に思えた。グリズリーは体重450Kgにも達する巨体を持っており、とても凶暴で容赦のない性格の持ち主。本気を出せば、非常に早く走れる身体能力を持っており、時速は56Kgにも達すると言う。不意打ちをされたら、人間なんて簡単にやられてしまう。それを拳で倒した刹那の友達のお父さんは俺の、『世界一危険な人物オブ・ザ・イヤー』に堂々と1位になってもおかしくはない。しかし、その人から教わった不気味な笑顔で戦う刹那の方が紛れもなく1位だと俺は確信していた。
……
「今日は楽しかった〜!」
刹那は本日3つ目のクレープを頬張りながら嬉しそうに言った。もちろん、クレープ代は俺が払いました。いや、払わせられました。
「タダで助けてもらえるなんて思ってたの? 私はそんなに安くありませーん。お、反抗するつもり?いいよ、二度と立ち上がれないようにするだけだけど?」
と、最後の方は冗談だと俺は願いながら彼女は笑顔で言った。これは脅しだと彼女に言うと、刹那は笑いながら、
「違うよ、それを言うなら ブラックメール でしょ?」
「言い方が違うだけで意味は同じだよ‼︎」
「じゃあ、クレープ買って来て」
…俺のツッコミは華麗にスルーされた。それに『じゃあ』の使い方おかしくないか……と心の中で思ったが、黙ってイチゴとバニラのチョコクレープを買ってきた。気付けば俺のサイフはもぬけの殻となっていた。家に帰った頃には門限7:30を過ぎており、俺が就寝した頃には、夜の11:00だった。だが、刹那と Lime を交換したせいで、朝の5:00には爆発的なスタンプによってを起こされた。ブロックしようとしたが、彼女がブロックしたら岡辺に俺を売ると脅迫…… ブラックメールをしてきたので、仕方がなく放置しないでおいた。そして学校に行こうと玄関を開けたら、そこには刹那がニコニコしながら立っていた。
「おはよう、菊池くん」
「……おはよう」
あぁ、早く2週間経って欲しい…… 今日は3日目、あと 11日。気が遠くなりそうな気がしたのは彼女に会ってから何回目だろう…?出来れば昨日以上に厄介な事が起こりませんように… 俺は神頼みする以外、方法がなかった。
今回は雨柄ちゃんのカッコいい戦いが書けて私は嬉しいです‼︎ 一方的にやられた岡辺くんが可哀想だけど… 理由がなんであろうとイジメをする方が一番悪いと私は思います。『先に手を出したら負け』と言う教えがありますけど、雨柄ちゃん達に最初に手を挙げたのは岡辺くんなので、いちよう正当防衛だと思います…w
次回は雨柄ちゃん目線で書きたいと思います‼︎