偽りの真実
今回は雨柄ちゃん目線です‼︎
「さて、行きますか。理事長室」
菊池くんと別れて私は理事長室へと向かった。自慢では無いが、私は方向音痴だ。じゃあどうやって理事長室に行くのかって?
チッチッチッ。勘だよ。カン。本当だったら菊池くんの中2の教室まで付いて行って、イジメてた他の子達とノンバイオレンスな『話し合い』をしようと思っていたけど、それだと不法侵入になってしまうからやめておいた。『許可証』と言うものを理事長からもらわないといけない。ちょうどその理事長が私が通ってた小学校の理事長でもあったから、運が良ければ話がスムーズに済むかもしれない。日本の中学校に来た事ないので、ワクワクしながら歩いていると、迷子になっていた。迷子になっても私は気にせず、理事長室を探した。今のところ、見つけた教室は、保健室、家庭科、コンピュータルーム、音楽室 である。
「理事長室、理事長室……あ」
私は理事長室の代わりに、職員室を見つけた。しかし、私が通っているイギリスの学校では、職員室は理事長室に繋がっているので、職員室=理事長室 と解釈している。普通だったら職員室に入るのをためらう私だけど、今は日本にいるのだから関係なし。日本の先生に怒られても、イギリスの学校にある私の成績や将来に全く影響が無いからだ。私は職員室のドアを大きな音を立てて中に入った。ガラガラと部屋中にドアの音が響く。
「失礼しまーす」
突然知らない中学生が職員室に入って来て、先生達は目を丸くした。あまりにも無様な先生達に、私は必死に笑いをこらえながら簡単に説明を始めた。その説明は、たったの2文で終わった。
「突然失礼します。とりあえず、要点だけをまとめますと、理事長室はこの部屋のどこにありますか?」
私の素晴らしく簡潔な説明を聞いた先生方の口は、アルファベットのOの字になっていた。何故だろう? 私が首を右に少々傾げ、先生方のボールペンを持った手はその場に止まり、顎が外れたような口になっていた。なんとも奇妙で滑稽な雰囲気になり、職員室は静寂に包まれた。
「一体どうしたのです?」
職員室の奥の方から理事長先生ご本人が出て来た。5年前とあまり変わってないので一目でわかった。すると、私の近くにいた女性の先生が口を開いた。
「理事長先生、突然あの子が理事長先生に会いたいと言って来たのですけど、彼女はうちの生徒ではありません。制服を着ていないのですから。もし転校生だとしたら保護者からのご連絡があるはずですし、もし連絡されてても、入学手続きを子供1人にやらせられません。」
私は心の中で軽く舌打ちをした。この先生の言い方に腹が立った。
制服を着ていないから生徒ではない? じゃあ、適当にインターネットで制服を買って着ればここの生徒になるの?ならないでしょ? 入学手続き?私は見学しに来ただけで、ここに入学するつもりはない。逆に私からお断り。
と、言い返してやろうと思ったがやめておいた。時間と労力の無駄だと解釈したからだった。この女性の先生を相手にするよりも理事長の方がいい。学校の権力はほとんど理事長が持っているのと同じらしいのだから。
「君、名前はなんだい? この学校に何かようかな?」
理事長先生は私に怒った口調で話し始めた。人に簡単に動かされやすい理事長は昔から嫌いだ。私が小学校の時、何を言っても理事長先生は先生達を信じた。
5年前
「天満先生…… 私いじめられてるんです…… 」
「それは雨柄さんにも非があるからですよ。それに、あなたはネガティブすぎるのよ。私の生徒達がイジメなんてするわけないの。分かる?全くもう、変な被害妄想で私の仕事を増やさないでちょうだい。」
「え……」
理事長室にて
「理事長先生、私…」
「雨柄さん、天満先生から聞きましたけど、あなたは被害妄想が激しいようですね。君がさっき言った菊池くん、佐藤くん、井上くんは友達がいない君のためにわざわざ声をかけてあげたそうなんだ。それをイジメと解釈した君はどうかしてる。ほら、帰りなさい。」
「で、でも……」
「全く、●● もイジメられてると言われたら、何か企んでるように見えるよ。気味が悪い。帰りなさい。」
……あぁ、思い出したくない名前が出て来た。佐藤くん、井上くん、天満先生。この3人は出来れば会いたくない。……そうだ、辛い思い出に浸ってる場合じゃない。許可証だ。理事長から許可証をもらわないと……
「お久しぶりです、理事長先生。小学校以来ですよね」
私は愛想よく笑ったが、正直言って目が笑っていないということは自覚していた。私の前に立っていた理事長は私がだれかすぐに気づいた。そして、ガタガタと震え始めた。呼吸も荒くなり、汗がどっと溢れた。あぁ、怖がってる。まあ、それもそうだよね。日本にいないはずの子がいるんだから。
「……き、君は…」
理事長が震える手で私を指さした。そしてゆっくりと後ずさりし始めた。
このままでは逃げられる。
私はとっさに大声で理事長の質問に答えた。
「理事長先生、さっき私の名前を聞きましたよね? 雨柄 です。覚えてますか?」
『雨柄』と聞いた瞬間、理事長は悲鳴をあげて、後ろ向きに倒れた。腰でも抜かしたのか、立ち上がろうとしても立ち上がれず、床を赤ん坊のようにはった。それはなんとも言えないほど醜く、哀れに逃げようとする羽のないチョウに見えた。私は笑顔で一歩一歩ゆっくりと理事長の方に歩いた。
「ひっ……く、来るな‼︎ 来るな来るな来るな来るな来るな来るなぁぁ‼︎」
手足をバタバタと動かす理事長はチョウから仰向けになったコガネムシに見えた。理事長の前にたち、私は彼を見下すように睨んだ。
「争うつもりも害を加えるつもりはないよ。ただ、お話がしたいだけなの。」
「ひっ…… 頼む、許してくれ‼︎ 約束どおりあの学校の理事長はやめたぞ‼︎ だから帰れ‼︎帰れ‼︎」
「私は二度と、学校での仕事はするなって言って理事長先生と約束をしたんだけど… これ、どういう意味?」
「5年前の出来事はもう関係ない‼︎」
「ふーん。人の人生を踏み潰しておいてその言い方って教師としてどうかしてると思うよ。」
それを聞いた途端、理事長以外の先生の目が私の方から理事長の方へと変わった。自分のリーダーが不利になったら切り捨て、強い方に乗り換える卑怯な人達。私はその先生方も睨みつけて話を続けた。
「それで理事長、私この学校に入ってもいい許可証が欲しいんだけど…… いいよね?」
私の圧力と恐怖に負けた理事長は掠れた声で、
「……分かった……」
とだけ言った。これで私はこの学校に自由に出入り出来るようになった。少々手こずったけど、手に入ってよかった。しかし、理事長と先生達の恐怖の顔が拝めてスッキリ。当然の報いだよ。
……
「失礼しまーす」
本日2度目、教室のドアをガラガラと開けた。私が教室に入った途端、後ろの窓の近くの席に座っている人がガタッと音を立てた。菊池くんだった。口を魚のようにパクパクしながら私を見る。教室で授業をしていた先生は何が起こったのか理解出来ずに黒板にチョークを付けたまま固まっていた。教室にいる生徒達が一斉に私の方を向く。私はニヤリと笑って生徒達に自己紹介をした。
「知ってる人もいるかもしれないけど、自己紹介するね。苗字は 雨柄 だよ。思い出した人はいるかな?」
その瞬間、教室の中がざわめき始めた。
「なんでここにいる⁉︎」
など、
「出て行け‼︎」
とか、恐怖に怯えた生徒達がいた。私を知らない子たちは、クラスメイトの慌てぶりで私が危険人物だと察したのか、悲鳴をあげた。
「キャー‼︎」
「何が起こってるの⁉︎」
などと叫び始めた。
「皆さん落ち着いて下さい‼︎」
カオスになっていく教室を先生が大声で落ち着かせている。私はそれを優雅に眺めていた。紅茶を飲みながら眺められたらどれほどよかったであろう?そんな事を考えていると、だんだん教室が落ち着いてきた。もっとカオスになればよかったなと心の中では少し残念だったが、仕方がない。すると先生が私に向かって質問をして来た。
「雨柄さん、でしたっけ? 突然教室に入って来て生徒を怯えさせるとはどういう事ですか⁉︎ この子達があなたに何をしたというのですか⁉︎」
色々言われたがとりあえず、この先生を相手にしても意味がない。私の相手は小学生の頃イジメをしていた子達なんだから。先生を無視して生徒達に向き直った。
「私の苗字を聞いて騒ぎ始めた数名はきっと『真実』を知っているんでしょ? 私を思い出して『出て行け』などと叫んだ人はきっと『真実』 を知らないんだね。」
私はそう吐き捨てて、生徒全員を睨みつけた。菊池くんの近くに座っている女子が目に涙を浮かべて叫び始めた。
「いや…いやいやいや… ごめんなさい‼︎ ごめんなさい‼︎ お願い許して‼︎」
その子は私をいじめてた女子グループのリーダーの子だった。コソコソと裏で何かをして、正面からは何もしない卑怯な女子。よく上履きの中に画鋲を入れられたり、汚されたり。教科書をマーカーで塗り潰されて読めなくした事、他にもたくさんされたが誰がしたという証拠がないという事で、先生に助けてもらえなかった。それをいい事に、彼女は私の目の前でベラベラと真実を喋り始めた。自分が女子に命令をしてさせたんだと。先生はそれも被害妄想で片付けた。その子が今、泣きながら私に謝っている。『真実』を知っていると言うのは見てすぐ分かった。私は冷たく彼女に
「ごめんで済むとでも思ってんの?」
と言ってやった。これを聞いた彼女は言い訳を言い始めた。
「ごめんって言ってるでしょ? それに生きてるんだから許してよ‼︎」
「生きてる? どういうこと?」
この子は何を言っているんだろう?私は疑問に思いながら聞いた。
「あんた、リ、リスカしようとしたんでしょ⁉︎ それを天満先生に見つかって、助けられたんだよね⁉︎ それで小学校から逃げたのに、今更私に八つ当たりしないでよ‼︎」
なるほど…
「……ふ、ふふ……あっはははは‼︎」
私は狂ったように笑い始めた。教室にいる全員が凍りついた。どうやらあの理事長と先生達は『本当の真実』を消したようだ。イカれた私はこの教室にいる人々に言い返してやった。
「あんた達がイジメをしなければ、あんなことにはならなかったんだよ。それに心から謝ってないと意味はない。謝ったから許してよ?バカじゃないの?どんな思いでイジメに耐えた人の気持ちも知らないくせに 謝ったから許せって 都合が良すぎるんだよ。警察に通報してもいいレベルのイジメをしたくせにさ」
私の反論を聞いたクラスは固まった。いじめっ子たちが恐れていた単語、それは『警察』そして『通報』。警察に逮捕されれば未来は明るくない。クラスが再び シン と静まりかえると、忘れていた先生が口を挟んだ。
「ちょっと待ちなさい。イジメなんて警察に通報することじゃないでしょ?」
「いいえ、イジメられている人が命の危険を感じたら、警察に通報してもいいのです。何かあったら遅いですので。それに先生… あなたは 私と、この生徒達との問題に全く無関係なので口を挟まないでください。」
先生は何か言いたげにしていたが、最終的には黙ってしまった。
「なるほど、だからあの時菊池くんが『言った』んだね」
それを聞いたクラスのみんなは菊池くんの方に目を向けた。菊池くんは慌ててうつむいた。
「…なるほど、理事長め…… そういう事か」
静かに呟き、私はニヤリと不気味に笑った。そして教室を後にした。今に見てろ、理事長。あんたを信じた私がバカだった。今日は帰って作戦を練ろう。これは私と理事長だけで解決できる問題じゃない。……そうだ。彼に、協力してもらおう。2週間も私の言う事を聞いてくれるんだから。私がチラッと菊池くんの方を見ると、彼がクシャミをした。アニメではよくこの後に変な事件に巻き込まれる前兆として使われている。ならば彼を巻き込もうではないか。『本当の真実』を理事長の口から吐かせるために。
まさか1日に2つ書けるとは… 自分でもすごくビックリです‼︎ 今回は雨柄ちゃんが狂ってしまいましたし、シリアスな場面が多くなってしまったので、次回は落ち着いて (?) 雨柄ちゃんの念願のクレープを食べに秋葉に行こうかなと思います。今回出番がなかった菊池くん目線で書きたいと思っています。