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4:浮かばぬ空へ

アルベに案内された先の個室は、幹部専用の宿泊室であった。

清潔なベッドに暖かい毛布などが置かれているが、今はこの女性の手当が先だ。

アルベはゆっくりとナルに女性をベッドで寝かせるように指示を出すと、女性の体に巻かれている鎖を外し、怪我をしている場所を見た後で呼吸や心臓の音を聴診して異常がないか探っていた。


「呼吸は異常なし…心臓のほうも大丈夫そうね…怪我のほうも命に関わるほどのものではない…おそらく一時的に気を失っているだけかと思います」


「…よかった、ひとまず安心ってとこね」


「でもこれは酷いですよ…背中の両翼は半分以上斬り落とされています…身体の怪我の具合からして何か拷問のようなものを受けていた可能性が極めて高いです…この鎖だってこの御方を縛り付けるように巻かれていたのですから…」


痛々しい翼の傷はアルベですら顔をしかめたほどだ。

傷口が広がらないように消毒をしてからアルベは縫合ほうごう手術を行った。

それぞれ両翼の傷口部分を縫い合わせ、化膿している部分を切除しながら慎重に、残された翼を傷めつけないように縫い合わせた。

縫合を終えて、アルベの指示でモルルが作った栄養剤をむせないように女性の口の中に流し込むと、枕を高くして毛布をかけて体を温める。


「拷問か………でも、この御方は魔王様のご血筋ではないのか?背中に翼を生やしているのはドラゴンやグリフォン以外の魔物で、人型に近いのは歴代の魔王様やそのご家族だけだと聞いたが………」


「その通りです。今はまだ何とも言えませんが………私が魔王様や奥方様の診察をした際にはこの御方と同じような翼を持っていたと断言できます、魔王様の一族は生まれつき背中に翼を持つ有翼種であり、古代からその血筋を受け継いでいるのですから………ところで、この御方はどこからやって来たのでしょうか?」


「空だ、空から降って来たんだ…轟音と共に月夜の間に落ちてきた…チスイが魔王様の復活の儀式で使う装置を使ったらやってきたのさ」


そんなバカなとアルベは思った。

魔王は一族を含めて決戦で全滅した。

有翼種は死んだのだ、それに魔王の隠し子がいたという話も聞いた事がない。

もしいたとしても魔王の子供を語る不届き者がいれば内密に処理してしまうだろう。

一体彼女は何者なのか…アルベもナルもモルルの三人は仮に魔王の「血筋」であったことを考えて行動しなければいけないと感じ取った。


「では、私はこの部屋で待機している。この御方が起きたら改めて先生にお知らせするが、それで構わないか?」


「ええ、問題ありません。では、その時が来たらまたお知らせください。ほら、モルルも行きますよ」


「はい…えっと、ナル様、あまりご無理なさらずに…」


「ありがとうモルル、私なら大丈夫さ…先生やモルルも時間があれば休憩したほうがいい。働きっぱなしだと身体が持たなくなるよ」


「ええ、お気遣いありがとうございます。ですが御心配なく、特製の蜂蜜と果汁を使った栄養ドリンクを飲んでおりますのでまだまだ大丈夫ですよ。ナル様も一本いかがですか?」


「そうだな…では、一本貰うか」


「かしこまりました、モルル、冷蔵室から一本持ってきて頂戴」


アルベとモルルが一旦部屋から出て数分後にモルルが戻ってきた。

キンキンに冷えた紫色の瓶に入っているのは濃厚の蜂蜜とレモンを混ぜ合わせた栄養ドリンクで、且つて魔王城では魔王の誕生日に種族や軍階級なく一本ずつ振る舞われたナルにとって懐かしい飲み物であった。

最後に飲んだのは2年前だ。

決戦で戦死した兄と一緒に飲んだ時の事を思い出す。

甘い蜂蜜がやけに染みる。

身体にも心にも。

栄養ドリンクを飲みながら彼女が目覚めるのを待つ。


「貴女が例え魔王様でなくても………私はもうこれ以上犠牲者は出したくない………必ず貴女を守ります」

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