表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

2:魔王残党軍

下界には大きな大陸が一つあり、その大陸の密林奥深くに外壁が朽ち果てている古代要塞がそびえ立つ。

山の一角をくり貫いて作られた古代要塞は外壁は既にボロボロであり、外側に描かれていた文字すらも解読不能になるほどであったが、内部は生物が暮らしていけるだけの環境が整えられた極めて珍しい遺跡の一つでもあった。

今ここに松明が灯されて奇襲に備えて約六千名の魔王残党軍が集結している。


魔族が生まれる遥か昔に建造されたとされているが、この要塞は初代魔王が禁足地きんそくちとして如何なる魔族、そして歴代魔王いえど立ち入ることを許さなかった場所である。

しかし、魔王を含めた魔王軍主力が決戦の場において勇者一行の放った恐るべき攻撃によって全滅し、魔王を失った軍は指揮系統がバラバラになり、各個撃破された。

唯一後方支援要員として待機していた第九軍のみが指揮系統を維持したまま戦場からの脱出に成功し、現在魔王残党軍を連ねて要塞に籠っている。


第九軍こと、魔王残党軍の多くは下級から良くて中級程度の魔物モンスターであり、魔王軍の中でも弱い分類に振り分けられている者たちであった。

スライム、ゴブリン、リザードマン、獣人ゾアン………。

六千名の残党軍のうち実に九割以上を彼らが担っている。

見張りの魔物たちは、残された仲間や家族の為に密林の奥深くに作られたこの要塞に避難して、勇者一行に備えているのだ。


「残存兵力は我が第九軍の他には…辛うじて包囲網を突破できた一部の兵士のみか…」


第九軍総指揮官で狼の顔をしているウェアウルフ族で獣人の女性リーダー、ナル・ルクセベルグは要塞の出入口前に建設された監視塔から下を見つめている。

視線の先には大勢の魔物たちが最後の希望を持ってこの要塞に避難してきている。

種族問わず、その数は一万…大半は女性や戦闘適正年齢にも満たぬ子ども達だ。

彼らの中で戦闘に適している者を数えても千名程度だろう。


「獣人、リザードマンの中からそれぞれ志願兵を募っておりますが…練度は低いです」


ナルの副官であるリザードマンのカママ・べ・トルーマはナルに要塞防衛の為の兵士志願者を避難民の中から採用したが、その大半は剣すら持ったことがない非戦闘員であると伝えた。

魔物いえど全員が兵士になるわけではない、勇者一行など魔物と敵対関係にある連合軍との戦争では多くの剣や鎧が必要となる。

そのため、非戦闘員の多くはそうした武器・防具の製造の為に鍛冶仕事をしてきた者が大半で、戦争や戦闘などは殆ど経験したことがない者たちばかりなのだ。


「これでもいるだけマシと思うしかないな、勇者一行もそして彼らの連合軍も決戦で少なからぬ損害を負っているはずだ。カママ、志願兵の割り振りを決めると同時に要塞周辺の警備を一段と強化せよ。いいな?」


「はっ、お任せください」


カママはナルに礼を行うと監視塔を後にして志願兵を各部隊に割り振る。

ナルは暖かい紅茶をマグカップ一杯分を飲んでから己がやるべき事を最優先に行う。

それは戦死した魔王の復活の儀式であった。


………◇………


魔王は決戦で戦死した。

それは紛れもない事実だ。

だが、魔王を復活できる方法はあるらしい。

この要塞内でそれらしい復活の儀式が行える物を発見したと魔術師キャスターから報告があったのだ。

ナルが儀式装置を見つけた要塞内の場所に到着すると、そこは要塞の一部がくり貫かれて月明かりが綺麗で夜空が一望できる所であった。

月夜の下に黒い影が一つ。

赤い瞳を放ちながらゆっくりとナルに近づいてくる。


「お待ちしておりましたナル様、すぐにでも復活の儀式が行えるように手筈を整えてまいりました」


そう畏まってナルを出迎えたのは元魔王の側近の一人で魔術師であり、吸血鬼ヴァンパイアの頭領チスイだ。

チスイは色白い肌に黒の幾何学模様が描かれた刺青を施しており、これによって魔術が使えるようになったのだという。

魔術師としては優秀な人物なのだが、太陽の光を浴びると皮膚が焼けてしまうので夜間でしか行動できない等、行動の制約が多い彼にとって魔王の側近でもあまり役に立たない存在、良く言っても影の薄い人物であった。

階級は側近の中でも一番低く禁足地である要塞周辺の守備を任されていたので、決戦には参加しなかった。

故に、彼の部下と守備隊は被害を免れたのであった。


「チスイ殿、本当に魔王様復活の儀式が行えるのでしょうか…要塞の内部の隅々まで探しましたが、それらしい本や魔術陣などはありませんでしたよ…?」


ナルが要塞に到着した際に、要塞に張られていた結界魔法を解いてから内部を三日かけて捜索したが、それらしい本や魔術陣などは確認されなかった。

だが、チスイは儀式に必要な装置を見つけたと主張しているのだ。


「いえいえナル様、この月夜の間こそが儀式に必要な場所なのです。そして私は先程発見したのです!!!この装置こそが魔王様復活の為に役立つのです!!!」


チスイはナルに黒い箱状の装置を見せる。

装置には古代文字で記号表記されているので、ナルはなんと読めばいいのかわからなかった。

だが、古代文字をある程度解読できるチスイは魔王を復活することができる装置であると断言した。


「この装置には所々文字が削れてしまっていますが、「魔」「空」「降下」「着陸」と書かれた部分が確認できます。これらから推測するに、魔王様の魂が空に漂っている間はこの場所に降下して着陸してくるという意味に違いないのです!!!」


「本当にそれで合っているのでしょうか…少々疑問ですがやるだけやったほうがよさそうですね…チスイ殿、私は何をすればよろしいでしょうか?」


「ええ、ナル様は魔王様が復活した際にもしもの事態に備えて待機していてほしいのです。魔王様が復活した際に不完全な状態だった場合、こちらに襲ってくるかもしれません。そうならないように魔王軍でも腕っぷしの強い貴女にお任せしたいと思っております」


早い話が、魔王の復活が中途半端だと魔王が牙を向いて襲い掛かってくる可能性があるという事だ。

説得力に些か欠けている上に、そんな危険な賭けをしなければならないのかとナルはため息をつきたくなったが、魔王の復活が魔族の未来を繋ぐ唯一の希望である以上、復活は完遂しなければならない。


「わかりました、では復活の儀式を始めてください」


復活の儀式を行うため、チスイは部下を呼び出してから装置を起動させた。

ブゥゥーンと装置が音を立てると共に、チスイは部下と共に復活の呪文を唱え始めた。

念仏のように魔術を装置へと流し込む、彼らが行っているのは微弱な電流を装置に送って装置を完全に起動させようとしているのだ。

五分ほどで装置が起動し、空に向けて赤い光が放たれる。


「おおお!!これはまさしく魔王様が復活なされるぞ!!!さぁ!!もっと呪文を唱えるのです!!!」


チスイは部下と共に懸命に呪文を唱える。

次第にピコーンという音が装置からなり始める。

どんどん音は大きくなり、呪文を唱えていると空が明るくなるように感じたチスイは夜空を見上げる。

すると、オレンジ色の炎を身に纏った()()()こちらに目掛けて落ちてくる。


「あれはもしや魔王さ………」


チスイが魔王様といい終える前に、その物体は月夜の間に轟音と衝撃ともたらして着弾したのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ