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1:追放

”彼女はとても気の毒だ…”

”可哀そうに…まだ若いんだろう?”

”どうして彼女が…なぜ…”



下界より遥か上空…人類が数世紀もの月日をかけて建造した全ての生命の安息の地「天空界」に住んでいる住民たちは皆、この天空界から追放されようとしている一人の元天使に同情の眼差しを向けていた。

彼女の両手足には逃走防止の為の鎖が巻かれており、透き通るような白い肌に黒い長髪、そして誰もが羨むような美しい身体の至る所には、深い切り傷や紫色に変色した痛々しい拷問の痕が見受けられる。

着ている服も天使が着る白色のキトンではなく、ボロボロで所々穴が空いているワンピースで、女性である彼女にとっては最大の辱しめであった。


なにより、天使の特徴である背中に生えている筈の白い翼は中途半端に切断されている。

翼からは血が滲み出ており、僅かに生えている翼ではもう飛べることはないだろう。

彼女の両脇を屈強な男たちに抱えられて移動している。

人々の視線を少しでも避けるために、彼女は下を向いたまま動こうとしない。


「…。」


彼女の名前はエリィ・ミリテル、天空界の政教を統治する理想機関「アルテミス」において反乱を企てた罪で逮捕され、この度エリィは天空界から下界への追放が言い渡された。

下界への追放は事実上の死刑判決に等しいものだ。

下界は文明が著しく衰退し、現在では戦争が絶えない地獄と化していたからだ。

天空界という温室で育ったエリィが着の身着のままの状態で下界に追放されれば三日と持たないだろう。


「エリィ・ミリテル…追放場に到着するぞ。追放場でも動かないようなら強引に()()()からな」


「…はい」


屈強な男に両脇を抱えられて到着したのは追放場と呼ばれている場所だ。

かつては下界から天空界へやってくるために使われた星々を行き交う船が停泊する場所として長らく使われていた。

現在では船が行き交うこともなくなり、天空界で追放される者たちが、ここから小型の船で下界へと堕ちていく。

地獄への片道切符というわけだ。


「エリィ姉さん!!!待って!!!」


大勢の人々が見守る中、群衆から飛び出してきたのはエリィの義理の妹リルであった。

すぐに他の屈強な男たちによって取り押さえられるが、リルはその男たちに世話になった姉に最後の別れの挨拶をしたいと泣きながら懇願した。


「お願いです…姉さんに…姉さんにせめて…別れの挨拶がしたいんです…お願いします…!」


もう二度と会えない。

男たちはリルの境遇を不遇と思ってか、1分だけエリィとの別れの挨拶をする時間を与えることにした。

リルは鎖で繋がれたエリィに抱き着いて泣いた。


「姉さん…私は…私は…」


「…いいのよリル、貴女は悪くないわ…何も…何も…」


「姉さん…!!!」


リルはエリィに口付けを交わす。

もう二度と会えないリルはエリィに最後に永遠の別れの口付けを交わして、姉がせめて下界に堕ちても苦しまないようにキスをしてリルは姉に告白した。


「私は…姉さんの事が好きだったのよ…元気で………姉さん…」


1分が過ぎたので男たちによってリルとエリィは引き離され、姉妹の最後のひと時が過ぎたので、エリィの天空界追放の刑が執行される。

下界へは一人乗りの船に乗って向かう。

エリィが船に乗ると手足を拘束具で固定され、下界に落下して到着すると同時に拘束具は外される仕組みになっている。

拘束具で手足を固定し、船の扉を閉めるのを確認した黒い喪服を着た執行人が追放の合図を叫ぶ。


「ただいまより、天空界を揺るがした反乱事件の首謀者…元アルテミス幹部、エリィ・ミリテルの下界追放の刑を執行する!!!」


執行人が船の側面に取り付けられている赤いボタンを片手で押すと、船が動き出してゆっくりと浮かび上がる。

それと同時に船は追放場から発進し、下界へと降下していく。

エリィは船に取り付けられている窓からリルが必死に呼び掛けているのを見つめる。

やがて視界が滲んでいき、追放場で見たリルの姿も天空界も涙で覆われて目の奥に映ることはない。


「ごめんねリル…ごめんね………リルッ…ごめん………うううっ………!!!」


手を伸ばしても、もう戻ることはない天空界。

天空界が遠ざかると同時に、エリィは次第に意識を失っていく。

戻らぬことへの絶望感とリルと永遠の別れになった事への喪失感、そして拷問を受けていた時の肉体のダメージが合わさって意識を失った。

こうしてエリィ・ミリテルの刑は無事に執行された。

天空界ではエリィ・ミリテルは反乱者として追放処分された扱いとなり、公式記録でも罪人として下界へ流刑されたとしてそれ以上語られることは無かった。

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