イケメン達からの告白も辛辣な言葉で断る学園一の美少女に告白したらOKもらえるやつ
放課後の校舎裏の片隅。漫画でよくある告白スポットだけど、実際に来てみると校舎からは吹奏楽部の演奏が、少し離れた体育館からはバレー部だかバスケ部だかの足音が聞こえて割とうるさい。俺が女ならこんな場所で告白されても断るな。
ならそんな場所で俺が何をしているかと言えば、告白するために手紙で呼び出した女を待っているんだから笑えない。
事の発端は昼休み。仲間内でトランプで遊んでいた時のことだ。ラスト一戦は罰ゲームありにしようという提案があり、全員が了承したそのラスト一戦で俺が負けてしまった。その罰ゲームの内容は勝負の前から明かされていて、提案した奴が朝のうちに『氷薔薇姫』の異名を持つ学園一の美少女の下駄箱に入れておいた告白の呼び出し場所に行って告白するというものだった。
『氷薔薇姫』の異名の由来は表情や態度が冷たく言葉には棘があるから。爽やかイケメンなバスケ部キャプテンの先輩を始め、彼女の美貌に釣られて近付いた男は一人残らず棘のある言葉に刺され、告白した者は辛辣な言葉で引き裂かれたという。
そんな奴に罰ゲームで告白とか誰も得しないだろう。俺はもちろん巻き込まれて告白を断るために時間を無駄にさせられる氷薔薇姫も。そう言えば同じクラスなのに氷薔薇姫の本名を知らないな。高根の花というか別世界の住人すぎて逆に気にしたことなかった。
というか同じクラスだから明日から気まずいんじゃねーのか? 俺だけ罰ゲームの罰の重さが違わないか?
いや、そもそも俺みたいな背景モブ系一般人のことなんて分からないか。なら大丈夫……だとしたら俺の心の方が大丈夫じゃねーよ。悲しすぎるわ。
もういい余計なことは考えるな。あと五分もすれば氷薔薇姫が来て俺が嘘の告白をして辛辣な言葉で振られて終わるんだ。監視という名目で上の階から他の奴らが見ているけど気にするな。罰ゲーム自体はあと一〇分もしないうちに終わらせられる。早く終わらせて早く帰って飼い猫に癒されよう。
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………………
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……
そろそろ叫んでいいと思う。
「来ねえ!!」
もう日が暮れそうなんですけど!? 罰ゲームのネタとして呼び出しておいて言うのも何だけど放置は酷くね!? 辛辣な言葉どころか言葉を交わしに来ることなく放置はさすがに酷くね!?
俺の魂の叫びが届いたのか、上の階にいる奴らからラインが来た。
ただ一言『解散』とだけ書いてあった。
……早く帰って飼い猫に癒されよう。
ちなみにこのことを妹に愚痴ってみたら、棘のある正論を返された。
「そりゃ来るわけないじゃん。呼び出しの手紙を入れたのが朝、誰が行くか罰ゲームで決めたのが昼休みなら、それ差出人不明なんでしょ? そんな怪しい呼び出しに応じる方がおかしいって」
「いや、でもちゃんとした告白かもしれないんだから放置は失礼だろ」
「それ罰ゲームで呼び出した奴が言う?」
「んぐっ」
「逆に聞くけど、兄貴ならちゃんとした告白かもしれなければ呼び出しに応じるわけ?」
「そら応じるだろ?」
「もしそれがちゃんとした告白をするつもりの『紳士的ガチムチホモ野郎』からの呼び出しだったとしても?」
「無理に決まってんだろ恐ろしいこと言うなよ!?」
思わずケツを抑えちまったじゃねーか!
「自分はその氷薔薇姫さんにそういう感じの恐ろしいことを乗り越えて呼び出しに応じろって言ってたって理解できた?」
「あ……」
言われてみれば当たり前のことだ。差出人不明の怪しい呼び出しとか、罰ゲームに巻き込んで時間を取らせるなんてレベルじゃない、無駄に恐怖心を煽る嫌がらせも同然の行為じゃねーか。
……明日謝ろう。直接出したのが俺じゃないとしても、俺の気が済まない。
この謝罪がきっかけで氷薔薇姫と少しずつ少しずつ話すようになり、翌年本当に本気の告白をしてOKをもらうことになるのは、また別の話だ。
何やかんや言うても最後は結ばれるやつ。
ちなみに呼び出し云々の話の一部は某一八禁ゲームにあったネタです。
初めて見た時は目から鱗でした。