エピローグ
『全てのものに終わりはある』
この言葉は自明の理であろう。生命の終わりや地球の終わり、好きな子に告白しようと意気込んだ修学旅行やその子との交際期間にだって終わりはくる。
いつもの【日常】だって例外ではない。
莵動勇仁郎は、公立の高校に通う2年の生徒だ。
2年3組、帰宅部。成績は150人(男:78人、女:72人)中69位、スポーツテストは39位。男子顔ランキングでは33位にランクインしている。
身長172cm、体重64kg。黒髪で、[前髪が目にかかってはならない]という校則をきちんと守っている、どこにでもいそうな男子生徒だ。
そんな勇仁郎には、小学3年生から父と続けている日課があった。
[平日の朝、必ず3kmランニングをする]
そんな健康を気にするお爺ちゃんのような日課だ。
小学生の頃は、陸上選手である父に憧れて一緒に走っていた。しかし、5年前に父を亡くしてからは、[父との数少ない思い出の一つだから]という理由だけで続けていた。
彼は、その日も朝5時に起き、走りに出かけた。いつもの道を、いつものスピードで、いつも出会う人たちに挨拶をしながら走っていた。
その日、唯一違っていたことを挙げるなら、長らく使っていた腕時計ではなく、昨日購入したばかりの腕時計をつけ走りに出かけたことだろう。
40分後、ランニングを終え帰宅。シャワーを浴び、自室で3分間のストレッチをしていた。入念に、丁寧に。
赤い光に包まれたのはそんなストレッチの最中であった。
莵動勇仁郎の【日常】が終わりを迎えた。