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招待に応じましょう

「カナル、明日は孤児院に差し入れに行くわよ。そのつもりで馬車の準備しておいてね。もらった野菜は台所に持って来て」

「あぁ」


 馬車を降りて直ぐさまリリアンヌは台所へと向かった。ソニアに明日持って行く差し入れの焼き菓子の相談をするためだ。

 焼き菓子には、今日視察してまわった畑で領民からもらった野菜を使うのだ。もちろん野菜のままでも持って行く。しかし甘いニンジンをすり下ろして焼き菓子に混ぜ込めば、野菜が苦手な幼児でも喜んで食べるようになるのだ。

 リリアンヌも母であるフロイライン夫人も、台所でソニアを手伝うことはある。領内で採れる野菜や肉、魚などの名はそうやって覚えていったのだった。



 ――ドタドタドタドタ

 ――バンッ


「リ、リリアンヌ。た、たいへんだ!」


 フロイライン子爵が何かを掴んだ右手を掲げながら、転がるようにして扉を開けて屋敷の中へ入ってきた。リリアンヌと同じようにフワフワとした前髪が汗に濡れて額に貼り付いている。

 肩で息をしつつ、右手にはしっかりと白い封筒が握られていた。


「お父様、そんな大声を出すなんて、何事ですか?」


 リリアンヌはマナーの勉強で学んだとおり、焦りを見せることもなく、ゆったり落ち着いて父の前に現れた。いつも駆け回っているわけではないのである。

 二人はそっくりなパッチリとした碧い瞳で互いに見つめ合った。


「お、お茶会の招待状が届いた。リリアンヌご指名だ。王宮でヴィルベルト王子との顔合わせになる。……あー、喜ぶべきなんだが……うぅ……かわいくて賢いリリアンヌが呼ばれることは想定できなくもないのだが……しかし何で子爵の我が家が……」


 フロイラン子爵はブツブツと呟きながら、ヨロヨロと執務室へと消えていった。


 スファロニウス王国第1王子のヴィルベルトはリリアンヌの2歳上であった。

 13歳になるとこの王国の全ての貴族と一握りの優秀な平民は王立学院に入り、学問を修め、人間関係を深めることになっている。しかし、一部の貴族には学院への入学前に王子の側近候補・妃候補として王子との面会の場が設けられていた。

 本来、貴族としては身分の高くないフロイライン子爵家はどんな候補ともなり得ないはずである。しかし、良くも悪くも領内を駆け回り、誰構わずに癒やしと施しをもたらすリリアンヌの評判が平民の間に広まり、噂に敏感な王家が面会を望んだのだった。


「えっ? えぇーーーっ!」


 父の姿が消えて、一呼吸置いた頃、リリアンヌは父の言葉の意味を理解したのだった。


 リリアンヌは王宮などもちろん行ったことは無い。社交界へデビューもしていない今、遠くから王宮の外観を見たことがあるだけである。近くて遠い、何となく憧れの場所というのがリリアンヌにとっての王宮であった。


 子女のみのお茶会とはいえ、それなりの装いというものが必要となる。フロイライン子爵と夫人は愛するリリアンヌのために上質なドレスの手配をした。

 夫妻は思案した。お茶会には大人は同席出来ない。知り合いも誰もいない場所にリリアンヌ一人では不安であろうと。

 カナルなら妖精使いとしてリリアンヌと共に王立学院に通うことになるし、従者とはいえ子供である。何とか側仕えを許可されるであろうと考えた。


「俺も一緒にですか?」

「そうだ。お茶会を欠席するわけにはいかない。リリアンヌはあの行動力だ。緊張してどんな粗相(そそう)を王子相手にするかもしれぬ。心配なのだよ。許可は取った。私の代わりに従者として付き添ってくれないか?」


 カナルはコクコクと頷いた。リリアンヌは緊張なんかしないだろうと思うし、問題ありとは思うが口には出さない。皆の前で、従者として主人を(おとし)めるようなことを言わない(すべ)は心得ていた。


 それからフロイライン子爵はカナルに王宮でリリアンヌから決して目を離さないよう、何度も言い聞かせたのだった。リリアンヌも余計な事は絶対しないように言い聞かされた。

 お茶会用の二人分の装いの準備が整い、参加する二人の頭がマナーをビッチリ仕込まれて破裂しそうになった頃、いよいよお茶会へ参加する日がやって来た。


「さあ、みんな、出発しましょう」


 初めて王宮へ行くことでリリアンヌの声は弾んでいた。既製品だが新調したドレスでいやでも気分は上がるというものである。

 フロイライン家に一台だけある馬車には4人が乗り込んだ。王都の道を知る家令のバードが御者台に座り、フロイライン子爵とリリアンヌとカナルが車両に乗る。いつもよりも上等な服を身につけたカナルはドレス姿のリリアンヌの隣りだ。

 朝靄のかかる早朝に馬車はダーチェの街を出て王都へ向かったのだった。










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