物語の始まり始まり
明るい日差しの中、少女の幼い頃の思い出は、自分を見つめる温かい眼差しと優しい言葉に溢れている。
フワフワの髪をたくさんの手が撫でていった。
毎日が楽しくて、何をしても嬉しくて、歌って踊っていた。
「なんて愛くるしい」
「妖精に愛されていると言うのは、この子のような子のことだね」
「貴方がいるだけで幸せだわ」
あれは誰が言った言葉だろうか。
寝る時にはいつも誰かが絵本を読んでくれた。
「昔々、あるところに可愛らしい女の子がいました………」
その言葉で始まる話は、いつも女の子が王子様と結婚してハッピーエンドとなっていた。
「貴方は本の中の女の子みたいね」
毎日の様に言われ続けていれば、すっかり自分はヒロインと思い込むものである。
理想のヒロイン像が少女の頭の中に生まれた。
元々能力があったのだろう。
彼女はいつもニコニコとして、誰にでも親切にした。
彼女は色々な事に興味をもって、勉強をした。
彼女は下級とはいえ貴族であったが、身分で人を差別しなかった。
「王都から離れた町に、大層可愛らしく有能な令嬢がいる」
そんな噂が国の一角でながれるようになったのは、当たり前のことであった。
少女はヒロインへと一歩一歩近づいていった。
賢く美しく、理想へ近づくための努力を辛いとも思わず、ひたむきな彼女に誰もが魅了されていった。