見知らぬ道へ
『下準備パート』を
「あん?おまいら全員これから躾け治してやるからなっ」
わしは、変なサブカルチャーキャラの描かれたはっぴを着たゴミを踏みつけながら、残りのゴミどもを睨付けた。
場面を少しだけ巻き戻す。
「のどかだねー。」
塒周辺ではそんなに見慣れていない田畑が広がる風景に言葉が漏れた。
いまわしはバイクにまたがって公道を移動しているだけに過ぎない。
ソロだからムチャはしないんだと、自分にいい訳をする。
オフロード向きで特に前輪の輪っかが大きくて姿勢も背を伸ばした状態で乗り、見晴らしもいい。
塒は自宅の意味で、とりあえず県庁所在の市内であり近くの川沿いまで出ると挟んで県庁と遠目に市役所も見える。しかし各都道府県の魅力度ランキングでは低く、これと言った特徴のない環境だ。夏祭りのトキぐらいにしか県外ナンバーの車も見かけないほどで、観光協会も赤字続きで今年の開催がどうなるのか、なんて知ったコトじゃない。
春先で田に張られた水面がキラキラと陽光を映えさせる。
眩しいのとちっちゃな羽虫の特攻さえなければだが。ゴーグルとフェイスガードがなきゃ不快きわまりない。
ハンドルの中央に取り付けた時計は昼前を示している。
(そろそろ水分補給しておくか。)
目的地もなく、目についた気になる道を進んでいると集落から離れ、さっきの集落を見下ろす高さにまで達した。
高く見晴らしもよく、道が広くなった山よりの端に止め丁度いいなと見つけておいた石を椅子代わりにして、どっかとしゃがむ。
コーグルを外しメットを脱ぐと空気が気持ちいい。
後部座席に伸縮ネットとゴム紐で縛り付けていた鞄から取り出した、堅い大豆がウリの携帯食を噛り水で流し込む。
過疎の集落と集落を結ぶ別立ての遠回りの道なせいか人気もなくて、邪魔にならないようにと道の端に寄った行為がばからしくなって、自虐の笑いが漏れてしまった。
坂下を見ようとひよっこひょっこと軽くジャンプするように反対側へ横断した。オフロード用のブーツなので足首部分が曲げにくく、普通に歩こうとしても独特のよったよったとした歩きになる。
進行方向の集落入口あたりに給油所を見つけた。
まだ燃料は十分だけど・・・・少なくても6割ぐらいってとこか。まっとにかく、ここで給油しておけば余裕で帰れるしな。
目的は、予定していない道を走ること。そして帰宅して、ハンディGPSの軌跡ログとカメラの位置情報で今日一日の『なんちゃって迷子』をPCで確認しながらニヤニヤすることだ。
そう帰ってから『くそー、あっちの道路を選んでたら名所に行けてたのにー』とか悔しがるとかね。まー、ソレを理由に次回に走る予定を考えるんだ。考えるだけで、あえて違う方面を走ったりしてね。
さあ遠慮無く『ヘンジン』と言ってくれ。子供のトキからの変人願望なんだ。
荷台に留め具でがっちり取り付けたGPSの残バッテリー確認と辺りの風景写真を撮り終えて、メットとコーグルを身につける。
セルでなくキックでエンジンを回しスタンドを蹴って走り出すと、おそらくこれがそうだろうという下り道と山を越えていく感じの少し急な上り坂の分岐、減速してカードレールに足を置きブレーキをかけたままポケットからカメラを出して撮しておく。でも丁度立木が囲み空が狭い。GPSの精度は望めないだろうな。あとで手作業で修正してみるか。
山越えの道へ進みたい心を抑えカメラを仕舞い走り出す。
両側を背の高い樹がくねる前方の見通しを悪くする。下り坂の道中はエンジンを切って下るのも魅力的な考えだったが"もし対向車"があった場合に充分に余裕ですれ違えるとは限らない化膿性もあり、動作のためにエンジンをかけ直すステップがメンドイ。もちろん坂道の加速を利用しての"なんちゃって押し掛け"だと意外と距離が必要になる。エンジンブレーキで行くことにした。
まっ結論から言えば、取り越し苦労だった、と。
集落内を巡る道路と接続してハンドルを見定めていた給油所の方向へきる。
スピードは出せるが、人気は少ないが民家の近くを通過するのにエンジンバリバリはない。DOHCの重厚なエキゾーストを響かせながら進が、ホントに人気がねーな。
給油所に着いたが、セルフじゃないのに人気がない。いやセルフでも詰め所に誰かは見える位置に居るよな。
「すんませーん、どなたか居ませんかー。給油してほしいんすけど」
メットとグローブを外して詰め所に入る。
徐々に大きめの声で、事務所兼詰め所の奥へ向かって呼びかけること何度目かにやっとゴトっと音がして、のそーっとジジイが出てきた。
寝てたな。
「う・ぉ・・・・・」
なんか言ったみたいだが聞き取れない。
「すんません。バイクにガソリンお願いしますか」
「は・・・・」
「ハイオクじゃなくてレギュラーでお願いします」
停車させているのは、レギュラーんとこで誤解しようもないはずだがな。返事の「ハイ」だったのか「ハイオク?」だったのか分からないから聞き返さなくて言いように先手を打つ。
のそりのそりとじいやは機械をいじってからノズルを手に取り作業を進める。
ノズルを外して、機械の一部を見て確認しているようだ。
ぼそりと、何か発したが、金額以外に言うこともあるまいと、正確な金額が分からないので、少々太目になるお札を出して見せる。
「すんません。大きいのしかなくて」
ぼそぼそと、文句を言っているじいやは引ったくるように詰め所に戻っていってごそごそとレジやら金庫やら自分の財布やら引き出しやらをかき回しながらしばらく、やっと出てきたがレシートはくれなかった。
レジ打たなかったな。それとぼられてると実感したが二度とこないからイイ勉強になりましたよと文句も言わず受け取るとすぐにじいやは奥に引き込んでいった。
田舎のGSでは単価が割り高なのはどこでもいっしょだし。言いたかった言葉をぐっとこらえる。
ゆっくりメットとゴーグル、そしてグローブを付けてこれからどう道を選んでいこうかと思案する。
引き返して、気になっている山越えの道へ行くのは、どこか"引き返さない"と決めたわけではないが自分にとって忌避する行為なのでこの先に休めそうな所がないか進んでみてからにしようと決めた。
エンジンをかけ、ソレは起こった。
すんませんが多いのは仕様です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。