のぞ
ママもパパも弟も寝静まった夜に一人寝れなかった男が一人。それが俺、越谷夏目。
この原因はたぶん興奮しすぎなのかな?なんだか下も上も真ん中も熱いし……
あ~もう!いらいらするばかりだ!
寝ていたベッドの側の窓を叩いた。
澄み切った「ドン!」の音と共に抜けた感情は
「痛い……(泣)」
ますます寝られなくなった俺は窓を滑らせて、地球と言う惑星から見える別世界を見た。
「星空か。汚れていやがる。」
そこで、興味が湧いた。外に出ようと。
部屋から廊下に出てみると、何か声がする。その声は非常に気持ち悪く、静かだった。
こっそりとドアを開けると、弟の臀部が見えた。見えたのだが、気持ちの悪い事にそれが何をしているのか分かってしまったので、さっさとその場を去ることにした。明日には何事も無かった様に寝ているんだろう
。
寝ているパパとママの寝息を後にして、俺は茶色い木でできたドアをゆっくりと閉じた。見慣れるのは当たり前でむしろ事件が起こる事からこのドアは役目が始まる。でもドアは何も答えない。それでいい。所詮ドアに出来るのはそれだけ何だから。
また改めて、空を眺めると実にシンプルだ。都会で見える星はせいぜい数十個だ。またそれも良い。なぜならそれもこの街に生まれた運命なのだから。
くすくす……と歩いてた俺に誰かが気づいた。
「あ、夏目ちゃんじゃないか。奇遇だねぇ。君も眠れなかったかい。」
俺を「ちゃん」と呼ぶこの男は高梨壱図、男。
「何度も言うが、ちゃん付けはやめろ。同じ大学三年生だろ。」
「何?夏目ちゃん、怒ってる?」
ニタニタと薄ら気持ち悪い笑いをする。いつもこの男はそうだ。俺が何度も辞めろと言ったのに「ちゃん」
付けをする。反吐が出る。まったく
「怒ってない。」と吐き捨てて、俺は閉塞感のある住宅街を歩いた。気が付くと、冷たい風が吹く。
「もう零時か。寒くなってきたね。」
「ああ。もうそんな時間か。確かに寒いな。あ、あそこに自販機がある。何か買うか。お前も何か買う?」
「じゃあ暖かいもの。」
「OK。」
俺は自販機で缶コーヒーと清涼飲料水を買った。冷たさと暖かさが混じり、俺の頭が混乱してしまう。
「サンキュー。」
缶コーヒーを渡すと熱くないのか、一気に飲んだ。
一つ言っておきたいのだが、今は夏だ。と言ってもまだ梅雨だが。そんな時期に缶コーヒーを飲むなんてなんて変わってるのだろう。とりあえず清涼飲料水を一口口に含んでまた歩き出した。
そして、また運命の夜空の下を二人で歩いていると、
ある家の光が目に入った。
俺達はその光に釣られていくように向かった。
「この音、風呂に入ってる。……覗いてみようか?」
突然なんだ。と俺は思った。だが、その時俺の頭では何かが告げていた。
「おい……このままじゃお前はpecadorだぜ。逃げろよ。そんな友達放っといてさ。」
くっ……これは悪魔だ。だが、俺は覗きたい。この窓から何かを!
「逃げたらダメ。いっそ覗いちゃいなさい。そして、あなたは幸せになる。それでいいじゃない。」
ああ…天使だ。そうだっ。いっそ……いっそ!
「辞めろ!辞めてくれ!それをしたら……」
悪魔は消した。というか消えた。同時に天使も消えた。俺は決意する。
覗く、と。
しかし、邪魔なのはこの塀だ。この塀が滑らかでは無ければ!くぅ……
隣で壱図は笑ってる。何が可笑しいのだろう。が、その時しゃがんだ壱図は跳んだ!
何やってやがる!そんな事しても塀は……届いた!?
じゃあ俺も跳べるかもしれない。俺はしゃがんで跳んだ。塀の一番上に手を掛け、一気に登る。さあ美人か?ブサイクか?光の中、風呂を刮目した。
「綺麗な背中だ……ちょっと筋肉がある様な気がするが。ん?」
「ちょっと待てよ。あの背中の上にある首、太すぎないか?」
まさか……と俺は壱図と顔を合わせた。そう、風呂に入ってた人物は
「男だったなんてそりゃ無いよ~」
壱図は力が抜けていったのか塀から真っ逆さまに落ちだ。痛くないのか。と俺は思ったが、それより絶望感が勝ってしまったようだ。
呆れた俺が塀に座っていると、「誰だ!」と声がして、窓が空いた。俺は一目散に逃げた。
家に辿り着くまでに五回ほど転んでしまった。
「はぁはぁ…….くそっ!弟以外の裸を見たのは初めてだぜ。」
ドアを開け、みんなが起きないようにこっそり部屋に戻った。弟は隙間から見た限りだとどうやら寝たようだ。
その時、頭の中で「ドンマイ」 と聞こえた。
時刻は草木も眠る丑三つ時。俺はすぐに寝た。
すいませんでした……