続、屁理屈婚約者とバカなケンカ
やっぱりあの子は生まれてくるべきじゃなかった。
彼の言っていた通り、息子は先天的な統合失調症の感情障害だった。
気持ちが高ぶると、暴れたり、ものを壊したり、暴言を吐いた。
その時私は疲れきっていた。いっそのこと、と考えて行動に移そうと何度もした。
寝込みを襲うのは趣味じゃないが、もうあの子は私の力じゃコントロール出来ない。
私の後ろですっと襖の開く音がした。
むんずと胸ぐらを掴んで、彼は私を隣に連れ出した。
横に一線、彼の平手打ちが私の顔にビシッと当たった。
「女に手を上げるなんて最低…」
彼はぐいっと私を、自分の顔の前に持っていった。
「今度なんかしたら、許さないからな」
冷静だけど怒っていた。
しかし私にはそんな余裕はない。
「どっちなの…?」
「僕はあの子の味方だよ」
そこでぷつんと理性の糸が切れた。
「私はどうなってもいいのかよ!?
あんな子のせいで…私たちの関係までおかしくなったら、私、私…」
「そんなことにはならない。君のことは守るし、僕はあの子の味方だ」
「あなたの言ってた通りだわ。あんな子」
彼は少し悲しい顔をして続けた。
「僕は自分の子どもなんか欲しくないと思っていたよ。それは確かだ。けど、生まれてきたあの子を見た時はたまらなかった。理屈とか理由をすっ飛ばして、あの子のことを可愛いと思ったんだ」
そこまで言うと、彼は私を抱きしめた。
「君が教えてくれたんだ」
放心した顔をしていたと思う。でも、頬を流れる涙に気がつかないくらい、あの時私はあの子を欲していた。
匙を投げようとしていたのは、私だった。
「…頑張れるかな?」
「君はもう十分頑張ってるよ。辛いなら助けてって言えば良かったんだ」
うめき声とも、ドアのきしむ音ともとれない声が、喉の奥からもれてきた。
「私、疲れちゃったよ…。
お願い、○○君、助けて…」
彼は「分かった」と言って、襖の奥に入っていった。
「ねぇ、起きて」
「なんじゃい!!」
「今度僕の女に手を上げたら許さないからね」
「うっせぇなぁ!!」
「分かったら寝なさい。さっきからおきてたんでしょ?」
「……」
○○君はいたって優しく、彼に語りかけていた。そして襖の外に静かに出ると、「おやすみ」 そう言って静かに閉めた。
そして私に向き直ると「今度手を上げたら言いなさい」それだけ言って、私を抱えるように持ち上げた。
とにかく何か言わないと、と思って出てきた言葉はこの上なく陳腐でありきたりだったけれど、とてもストレートだった。
「ありがとう」