さよなら△、また会う約束。
遅くなってすいませんでした!!
世の中、考えているほどうまくはいかない。そんな風な考えが僕の中で生まれたのはいつぐらいだっただろう。
――――
結局あの後、家に帰ると母さんがテーブルに突っ伏しながらおなかがへったという呪文を唱え続けていた。呪文を止めるために謝り倒してから、晩御飯を作っているときに思ったが一人暮らしするなら少しぐらい自分でやったらどうなんだと思った。
それを母さんに言うと、「樹の料理がおいしいから、食べおきしておく! 」のだそうだ。嬉しいやらなんとやらである。
母さんは急に出かけた理由を聞いては来なかった。てっきり、色々と追及してくるものだと思っていたけど。正直ありがたい。鉄橋でのことを説明するには僕の言語力が足りないから。
料理をしている最中に鉄橋でのことを、篠塚のことを考えた。自分でもショックだった。一人の少女が、自分のことをあそこまでに、泣くほどに思ってくれているなんて思ってもみなかった。せいぜい普通の友達よりも仲がいい友達ぐらいだと思っていた。それが親友とまで言ってくれるとは。そこまで言ってくれる友達というのが今までいなかったからなのか、深く、深く、考えてしまった。同時に、残りの1日どういう顔をして会おうかとも。普通だったら、時間をかけて少しずつでも元通りにしていけばいい、だけど1日しかない。悩ましい。
肉を焼いている途中に考え込んでしまったせいで肉が焦げてしまった。母さんはお怒りだ。
そのあと文句を言われたりしながらご飯を食べ、あらかたの荷物をカバンに詰めた。僕自身もっていくものは大したものはないからスーツケース1つで十分だ。
その間、母さんは珍しくお酒を飲んでいた。
「いつき~、ごめんね~」
「ちょ、どうした母さ――酒臭‼」
「ごめんね~」
だめだ、これは完全に酔っぱらっている。
「勝手に転校とか決めてごめんなさいぃ~、お母さんを嫌いにならないでぇ~」
「別に嫌いにならないから、ほらもう寝よう、ね?」
「うぅ~、ごめんねぇ~」
母さんはこういう人だってわかってるから、僕のことを考えてくれていてそのうえで心配してくれているってわかっているから責められないんだよなー、僕には。
母さんを介抱をしながら考える。篠塚のことを。
結局、荷作くりが終わったのは日をまたいだ後だった。
次の日、いつもの待ち合わせ場所に篠塚は来なかった。僕はまた学校に遅れた。
待ち合わせ場所に来なかったといっても学校に来ていないわけではない。僕のすぐ横の席にいるし。
篠塚からは何も話しかけてこない。それどころか一度も僕のほうを見ない。それどころか、話しかけようとすると顔を背けどこかへ行ってしまう。あとを追いかける、手をつかむ、なんてことをできる勇気なんて僕にはない。やろうとしても手がすくむ。出発までには何とか話したい。話せるといいな……。
いつもは普通にできていたことができないというのはなんて息苦しいんだろう。誰かの手によって世界が変わればいいなんて思っていたけど実際に変わると憎たらしい。でも、変わってしまったものはもう戻らない。しょうがない。鉄橋の上で篠塚が言った通り、しょうがないんだ。
篠塚に話しかけれないままそんなことを考える。
転校前、最後の1日はそんな感じで無駄に過ぎていった。
――――
現在9時00分。東京駅。平日にもかかわらず人が多い。いよいよ東京を離れる時だ。
母さんはもう飛行機で空の上だろう。こんな大事な日にいつもの通り寝坊したおかげで大急ぎで準備をして、「元気にしてろよー! 樹! 」という言葉と、おでこへのチッスとともに颯爽と家を出て行った。
なので、今は僕一人。見送りはいない。平日だし。
一応、篠塚に時間はメールした。したけど……来てくれないんだろうなー。学校あるし。
「はぁ。」
ため息が出る。まだかたずいていないことがあるのにこのまま行くのはいやだ。でももう新幹線の時間になってしまう。
考えながら、改札を通り、ホームへ。
ホームを軽く見渡す。人はそれなりに多い。篠塚はいない。転がしているスーツケースが重い。
止まっている新幹線の乗車口へと歩く。前の人に続き新幹線に乗り込む。
その時、
「いっちゃん!!! 」
僕の後ろから聞きなれた少女の声が聞こえた。
僕は急いで振り返る。篠塚だ。
「篠塚!? なんで! 、て、メールはしたけど学校のはずじゃ!? 」
今は授業中のはずだ。
「抜け出してきた!」
篠塚は息荒くそう言った。息をするたびに体が上下し、彼女の頭のサイドテールも一緒に揺れ、彼女の白い額を汗が光りながら流れ落ちた。
「抜け出してきたって、それじゃあ後で篠塚が「名前! 」え? 」
僕の言葉を遮って放たれた言葉に戸惑う。
「私の名前。苗字じゃなくて下の名前で、由美って呼んで!! 」
篠塚がすごい剣幕で言う。
「いや、いきなり、というかいまさ「呼んで! 」 は、はい! 」
またもや僕の言葉を遮り篠塚いや、由美が叫ぶ。
「ゆ、由美? 」
うわあああ! なにこれ恥ずかしい! 今まで苗字で呼んでた友達を下の名前で呼ぶってすごく恥ずかしい!
「うん。なに? いっちゃん? 」
由美がほほ笑みながら聞く。流れ落ちる汗が太陽の光に反射し、きらきらと光りる笑顔が作り物のようにすごく、きれいだった。
僕は、また硬直してしまった。どうにも、僕は不測の事態という奴には弱いらしいということが分かった。
少しの間、無言で微笑み見つめあう。そして、由美が先に口を開く。
「あのあとさ、色々と考えたんだ。」
「うん。」
「でもさ、やっぱり納得できなかった。でも、納得できなかったけど! いっちゃんの友達は、親友は、私一人だから! だから、頑張れって言うって決めたの! 転校しても頑張れって! 」
由美が大声で言う。
その言葉が。すごくすごくうれしかった。嬉しすぎて、少し涙が出てきた。
「私も頑張る! だからいっちゃんも頑張れ! いいね!? 」
「うん! がんばるよ! 由美! 」
僕は少し涙を流しながら言う。
「よしっ! それでよしっ! 」
由美がほほ笑むみ、ハンカチで僕の涙をぬぐう。
ハンカチに見覚えがある。
「あ、そのハンカチ。」
鉄橋の上で僕が由美に貸したハンカチだ。
「うん。このハンカチ、もらっていいかな? 記念ていうか、なんて言うか。」
「ああ、いいよ。あげるよ。 」
「ありがとう。」
駅員のまもなく出発するというコールが入る。
その声にお互いにハッとする。
「休みになったら私長野行くから! 絶対行くから! 」由美が言う。
「うん、待ってるよ。」
「そ、それとさ。もう一つ、言いたいことあるの。いいかな? 」
由美が急に下を向きモゴモゴという。
どうしたんだ?
「あ、あのさ、実は、私、いっちゃんのことが! ――」
プシュー
由美がないかを言おうとしたタイミングで扉が閉まる。
お互いに視線はガラス越しに合わせたまま固まっている。
最後まで締まらない。
そしてゆっくりと新幹線は出発する。
「何が言いたかったんだ? 」
気になり視線は由美に向けたまま。
すると由美がこちらに走り出し何かを叫んだ。
「好きだあぁぁ! バカ野郎ぉぉおーーーー!!!! 」
あいにくと由美の言葉は新幹線の中までは聞こえない。
でも、何か重大なすごく大切なことを聞き逃した気がするのは気のせいか。
「なんだかなー」
そんなことをつぶやきながら、自分の座席に向かう。
いつの間にか、肩と荷物が軽くなっているような気がした。
新天地はもうすぐだ。
いかがでしたでしょうか?
やっと、東京編おわりです。
ここからは新天地、長野ですよ。長野って言ってもそんなにパッとしないとおもいますが是非これからも読んでください。
よろしくお願いします!
最後の抜けていたところを修正しました/3月18日