ちりとり
結果的には引き分けとなった鳴と凛子の組手の後も、訓練は厳しい様子を見せていた。一年一組がそれに耐えることができたのは高い適正値をもっているのもあるが、それ以上に精神的に追い込まれることがなかったからだ。
「お、冬鐘だ」
「アイツまだ学校にいたのかよ」
「クズはさっさと消えろ!」
三人の男子グループが鳴に通りかかると同時に罵声を浴びせ、鳴の頭に向かって丸めた紙屑を投げた。そのまま大人しく受ける筋合いはなかったので、鳴は三人に視線を向けないまま軽く首を捻って避けた。その代わりに大きな舌打ちを受けた。
鳴はそのままとことこと教室を横切り、自分の机へ向かう。分かっていたことだが、椅子を引くとちょうど真ん中に画鋲が針が刺さるように置かれていた。鳴がそれを見つけることを分かっていたようなタイミングで教室中にすくす笑いが起こる。少し視線を動かすだけで、鳴は先程の三人がやったのだと分かった。
ここ一週間、ずっとこんな感じだ。巷ではいじめ、とでも言うのだろうが、生憎鳴はそのように認識していない。このような行為は鳴にとって面倒ではあるが、今の一年一組には必要なことなのだ。それに鳴はこの程度で傷つくほど可愛い人間ではない。
鳴は教室の隅で笑い転げる三人の主犯達に最後まで視線を置くことなく、画鋲を胸ポケットに入れておいた画鋲ケースにしまってから座った。
■
訓練でほどよく解れた体を風呂で温めていると、脱衣場に置いておいた携帯電話がいきなり自己主張を始めた。電話の主は分かっていたので、鳴はゆっくり風呂から上がりタオルを巻きつけてから電話に出た。
「よ、風呂中だったか」
タオルで髪を拭く音を聞きつけたのか、成道は開口一番にそんなことを訊いてきた。
「ああ」
「あー、なんかごめん」
「別にいいぞ」
鳴は応答しながら体を拭き終え、寝間着に着替え始める。それを待っているように電話口も向こうは黙っていた。
軽いジャージを着終えた鳴は冷蔵庫を開け、冷やしておいたコーヒーを取り出しラップを外してゴミ箱へ投げ捨てた。
「それでな、鳴」
「ん?」
「お前に言われたから黙ってたけど、そろそろ無理っぽいんだけど」
「……ああ」
一口コーヒーを口に入れると、程よいの苦味が風呂上りの体を引き締めてくるようだった。そのせいで鳴は成道の言っていることがよく理解できなかった。
「だからお前がいじめられてることだよ」
「あんなんいじめに入らないって」
「いじめられているやつはいつもそう言うと相場が決まってるんだよ。それにあれは立派ないじめだね。俺から見りゃあいじめどストライクだ」
どストライクとは、なかなかおもしろい表現をする。コーヒーを吹き出すのを堪える鳴を窘めるとように、成道が真面目な声をだした。
「ほんとにいいのか?」
鳴とて分かっている。今一年一組が鳴にしていることは立派ないじめだ。根本は黙認している、というより鳴がどういう反応をするのか待っている節がある。肝心の教師が何も手を出す気がないのだから、あとは本人が解決するしかない。その本人ですら無関心を貫いて状況を享受している。これでは友人に心配されても仕方がないというものだ。
「いいんだよ」
しかしこればかりは鳴も譲れない。気にならないといえば嘘になるが、あれは一年一組に必要なものだ。今なくなったら鳴も困る。
「……そうか。じゃあ、おやすみ」
「ああ」
電話を切ってから、鳴は湿った髪をそのままにベットに横になった。
また明日もあれだと思うと、非常に悔しいが気が重くなる。毎日続くとなると、いじめられて学校に行かなくなる不登校の生徒の気持ちが少し分かる。もっとも鳴の場合少し事情が違うため、単純に行きたくないではすまないのだ。これは鳴だけの問題ではなく、一年一組全体の、将来日本を守る兵士候補筆頭全員の問題だ。
現在の一年一組は、非常に危うい。そもそもたった一か月前までは一般人だった人間が戦闘訓練を繰り返すなど、自殺行為にもほどがある。せめてもう少し訓練の頻度が下がればいいのだが、そうもいかないようなのだ。
福海学院は基本的に退学を許さない。生徒たちはどんなに音を上げようと過酷な訓練から逃れることはできないのだ。
となると、当然積もり積もってくるものもある。学校への不満、いや憎悪、イライラ、その他もろもろ。数え上げればきりがない。そんなうっぷんをため込めばいつかは爆発が起こる。ぶつける場所が必要なのだ
。そこで鳴が選ばれた。
そういう意味では鳴はうってつけの物件だった。まずいじめごときで精神的なダメージを受けない。これはとても大切な条件だ。いじめを受けている側が爆発してしまっては元も子もない。
次に実力がある。それによっていじめが劇的に悪化することがなくなる。
最後にーーーーーーーー
「なんでこんなめんどくさいことやらなくちゃ・・・・」
その理由は鳴にもよく理解できない。考えれば考えるほど、頭が固くなっていく気がする。
鳴は諦めて、ベットへ身を投げ出した。
どうも餃子です。
遂に学年末テストの時期がやってきましたね。僕は今まで勉強をサボってきたツケを払っているところです。テスト期間が来るたびに何度も「授業ちゃんと聞いときゃよかった……」と後悔するのですが、どうにも改善される様子はないようです。毎日コツコツやっていける人は本当にすごいと思いますね。




