表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バトルログ  作者: 風呂敷
ログ・ロワイヤル
14/19

ログ・ロワイヤル

 月は四から五に移り、あの絶交宣言から一ヶ月が経とうとしていた五月一日。


 まだ梅雨の訪れは感じられない晴れ晴れとした陽気が窓から降り注ぐ中、根本は教壇に立ち黒板に文字を書いていた。一年一組の全員は静かに根本が話しだすのを待っている。


 授業中だと勘違いする者もいるかもしれないが、そうではない。まだ授業は始まっていない。ならなぜ座って待っているのかというと、今朝根本から五分前には着席するように言われたのだ。


 その根本が手を止め、振り向いて笑顔で口を開いた。


「皆さん、福海学院には二つのテストがあるのを知っていますね」


 全員が心の中で頷く。鳴はああそういうことかと、五分前に待たせた理由を察した。


「そのうちの一つ、仮想世界での戦闘訓練の成果を見るためのテストがもうすぐ行われます」


 六時限目のホームルーム開始のチャイムが、根本が言い終わると同時に鳴った。





 ログ・ロワイヤル。全ての学年全てのクラス、福海学院生徒全員が参加する負け抜き制のバトルロワイヤルだ。

 

 序列制という完璧実力主義制度がある以上、生徒の競争意識は最大にまで高まる。男だろうと女だろうと、頑張って訓練してそれで呆気無く負ける結末など是が非でも避けたいのだ。


 最高の競争意識の中最大限発揮された実力は生中継され猛威を示す。国民の福海学院への注目が高まり、放送された映像で海の向こうに猛威を示す。一石二鳥の訓練成果の確認と偽った模擬戦争訓練である。


 と、根本は随分とぶっちゃけて説明した。そのおかげで一年一組全員、鳴も含めて固まっている。


 いや確かに考えれば分かるけど……口に出さなくたって……


 四十名の意思は今、偶然同調していた。


 根本はふぅと一息つき、体を教壇に寄りかからせる。そして顔を上げ、さらにとんでもないことを言った。


「今回のログ・ロワイヤル。皆さんには是非優勝を目指してもらいたいと思っています」


「……は?」


 本音を隠せなかったようで、皐月は呟いたあと失言に気づき口を手で押さえる。根本は皐月の方を見たが、怒るどころか逆に頷いてみせた。


「大島さんの言うとおり。普通は不可能でしょう。しかし例年適正値の高い一組が有利なのは間違いありません。たとえ一年生であろうと優勝を目指すことは無謀ではないですよ」


 べらぺらと御託を並べ始めた根本に対して、鳴は内心鼻で笑いながら挙手した。鳴は根本に視線で促されてから、立ち上がって口を開く。


「先生、それはあまりにも無茶だと思います」


「それはなぜ?」


「数年の違いであろうと、経験の差は圧倒的です。相手が上級生で同じ条件の一組となると、勝つことは難しいのではないでしょうか」


「ああ、それは」


 違うんですよ、と根本は首を振った。


「実は上級生の一組でも最高適正値は90いかないんです。年を重ねるごとに生徒の適正値が上がっているので、神田さんの99超えは本校初なのですよ」


 鳴はそれを聞いてピクリと眉を動かす。それはあまりにも異常なことだ。人間の仮想世界への適正値というのはあくまで先天的なもので、そういう歳を重ねるごとに上がるとか、秩序あるものではない。


「……そうですか」


 鳴があっさり引き下がったことに根本は驚いたのか、少し目を見開いた。しかしすぐに元の根本に戻り、他の質問者がいないか教室を見渡し始める。


 一方、鳴はある疑惑について思案していた。一年ごとに、技術の進歩と共に上がっていく適正値。凛子の異常とも言える適正値の高さ。


 その事実は、ある一つの仮説を指差していた。


「確かに優勝は簡単なことではありません」


 根本は確認して、僅かな間の後そう切り出した。


「しかし、無理であることはないのです。あなた達一年一組は学年最高と才能を持っているのです!努力をすればきっと!きっと優勝できるのです!皆で頑張りましょう!」






 根本はそう言い残し、授業終了を言い渡して退室していった。もう帰っていいということなのだが、何故か立ち上がって教室のドアを開く者はいなかった。真剣な目つきで、考え込んでいる様子である。つまり、あの根本の熱弁に心動かされた者は少なくないということだろう。もちろん中には鳴のように冷えた眼差しで誰かが退席するのを待っている者もいる。


 馬鹿馬鹿しい


 鳴はここまで苦笑したい気分になるのは初めてだった。上級生に勝つ?そんな希望を抱く実力もない一組がそれについて真剣に考えるなど、それこそちゃんちゃらおかしいというのものだ。


 そもそも適正値以前の問題だとなぜ気づかないのか。入学式のあの地味ながらも美しいパフォーマンスを見てないわけではないだろう。たかが素人にうぶ毛が生えた程度の一年一組が上級生に勝利する。そんな奇跡の光景は鳴の頭には思い浮かばない。逆にボコボコにいたぶられトラウマを植え付けられるイメージしか浮かばない。


 ……。そういうことか


 鳴は一人、根本の意図に気がついた。






「あ?どういうことだそれ」


 根本の熱弁から約三時間後、鳴はコーヒーをカップに注ぎながら電話の相手に問い返された。


 夜七時頃、既に鳴は寮へ帰り夕食も済ませている。適当な本でも読んでのんびりしようかと思っていたのだが、なぜか成道と電話をすることになった。


 元から絶交する気などなかった成道は、こういった凛子や皐月にバレない方法で今でも鳴と連絡を取っている。それはそれでバレた時にお前殺されるんじゃないか?と鳴が冗談交じりに聞いた時には笑っていたが、はたして大丈夫なのだろうか。そんな心配すら消え去るほどの頻度でこういう電話をかけてくるので、鳴も今では気にならなくなっている。


 そして今夜の話題は、あの根本の熱弁についてであった。成道が何を言っているかよく聞いてなかったというので、鳴が成道に教えているのである。


「だーかーらー」


 鳴は若干苛立ちながらも話を繰り返す。


「近いうちにバトルログの戦闘訓練のテストみたいなのがあって、それで一年一組全員頑張って上級生に勝つんだってよ」


「へぇー、そんなの出来るのか?」


「無理に決まってるだろバー……ていうかお前さっきからジャアジャアうるせぇんだけど何やってんの」

 そう、電話を始めたころから何かフライパンで焼いているような音がしているのだ。それがうるさくて成道は話を聞いていないのではないか。


「え?夕飯作ってる」


「終わってからかけ直してこい!」


 鳴はこめかみに青筋をたてて、電話を切ってから携帯をベッドへ投げ捨てた。



 それから十分ほど経った頃、鳴の携帯が着信を知らせる。座って目をつぶっていた鳴は目を開いて、ベッドの上で乱暴に投げ捨てられた携帯を拾った。


「作り終わったか?」


「おー、今食ってる」


 そんなの音でわかる。耳元でくちゃくちゃ言われれば誰だって気づく、そんな愚痴を喉元までで抑えて、鳴は話の続きを始めた。


「で、続きだけど」


「おう」


「もうすぐバトルログのテストがあるから、一年一組皆頑張って優勝するんだってよ」


「ほーん」


「ほーん、ってお前……」


 せっかくどんな馬鹿でもわかる様にこれ以上ないぐらいの簡潔な説明をしてやったのに


 鳴は携帯を耳に押し当てながら椅子に向い、深く座り込んだ。


「で、そこで問題なんだけど。成道は一年一組が上級生に勝てると思うか?」


「いや、無理だろ」


 即答する成道。確かにそのとおり、無理で無茶で無謀で無駄で、何も得るものがない挑戦である。


「ああ無理だ。前のバトルロワイヤルについて調べてみたけど、一年生なんて参加したのが珍しいぐらいに皆棄権してる」


 鳴は帰ってきてすぐにパソコンを開き、福海学院のホームページを覗いて過去のログ・ロワイヤルの戦歴を漁っていた。さすがに映像まではなかったが、勝敗ぐらいは残してあった。目を通せば一年生はほとんど棄権。成道に言った通り、参加することはごく稀であった。


「はぁ……じゃあなんで根本はか勝とうなんて言うんだ?」


 成道の疑問に、鳴は少し黙ってしまう。はたしてこの推測を成道に言ってもいいものだろうか。これを聞いたら間違いなく成道は怒るか、何らかの行動を起こすだろう。その予想が容易なほど、鳴の推測は残酷であった。


「多分根本は一組を潰すつもりだ」


「……は?」


 鳴の突然の言葉に、成道でさえ絶句する。


 当たり前である。教師が生徒を潰そうなどと、ましてやあの温厚そうな根本が人に害を成そうなだと誰が考えるだろうか。しかし、鳴はこの推測に少なくない確信を持っていた。


「勝てないものを無理して勝たせようとしても、結局ボコボコにされるのは見えてる。根本がまともな神経でそれをやらせるなんてどう考えてもおかしい。少なからず、根本が一組が上級生にボコボコにされることを望んでいることは確かだ」


「ボコボコって、なんでだよ」


 成道が思いの外静かな声で鳴に問う。


「……分からない。理由は分からないけど、間違いなくこのままログロワイヤルに参加すれば一組はトラウマもんの惨敗をする」


「惨敗、かぁ……」


「大体年季が違うんだから勝てるはずがないんだよ。むしろ勝てると思い始めてる連中がおかしいんだ。すっかり根本の嘘にはまっちゃってる」


「…………」


 成道は答えなかった。ずっと黙りこんだまま、なにか考え込んでいる様子だ。鳴は一言残し、電話を切った。


 根本の狙いが分からない。そんな嘘をついた自分に、鳴はほとほと愛想を尽かす。なにが分からないだ。あんなすぐにバレる嘘つかないほうがいいに決まっているのに、何故か勝手に口から出てしまった。


 一年一組が潰れて根本が得るものとはなんだろうか。自分の担任する生徒がトラウマを抱えて、教師は何を学ぶのだろうか。貴重な才能を網目の細かすぎる篩にかけて、一体何が残るのだろうか。


 そのことに気づかないはずのない鳴は、一体どんな行動を起こすのだろうか。



どうも餃子です。


今週は片方が短すぎるので二話投稿とさせていただきました。なぜ短いのかというと一章の終わりの、おまけみたいなものだからです。


そう、ついにバトルログは二章へ突入いたしました!名づけてログ・ロワイヤル編!一章はほんと冒頭みたいなもので、自分的には書いてて楽しそうな章になるかと思われます。


それではみなさんまた来週。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ