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バトルログ  作者: 風呂敷
入学編
12/19

絶交

 福海学院の造りを人に伝えたい時、二つのペットボトルを指一本だけ感覚を開けて横に並べたら、ほとんどそれで説明がつく。左のペットボトルは職員棟、右は生徒棟と分かれているのだ。


 これにはある理由がある。一時期バトルログ、つまり仮想世界内の未成年者の戦闘行為が社会的な問題になった時期があった。その問題はニュース、新聞、様々なメディアに取り上げられ、遂には一部の国民がクーデターを起こし始めたのだ。もちろんそれに感化されるのは一般国民だけでなく、まだ純粋な高校生、福海学院の学生も含まれる。


 ここまで言えば何が起きたか分かるだろう。高い戦闘能力を持った兵士の反乱が怖いがために、福海学院は二つに分かれているのだ。ちょうど世界が二つになった時と同じように。とんだ皮肉である。


 だが完全に分断するとなると互いの連絡が取れなくなるため、それはそれで不安材料になる。その妥協案として二階部分、三階部分に橋のような廊下で繋げられている。鳴はちょうどそこを通っていた。


 鳴の足取りは少し重い。柳町とのやりとりがよほど疲れるものだったのか、それともまたやってしまった失敗を気にして引きずっているのか、それは冬鐘鳴のみぞ知る。


 生徒棟と職員棟を繋げる廊下、橋道を通る人は今鳴しかいない。そもそもここは人通りがあまり多くないのだろう。というか無いに等しいのだ。床をよく見れば人が通った形跡というものがあまりに少ない。


 よく考えてみれば、それは当たり前のことだった。誰も自分が信用されていない証の橋道を通るなど、好んでするはずもない。


 鳴が歩くその先に、誰かがいた。橋道の端、生徒棟の方にうっすらと三つ人影が見える。鳴はそれを確認しても歩調を変えることなく、ゆっくりと近づく。


 予想通り、その人影は友人達のものだった。凛子、成道、そして皐月がそこに立っている。どうやら紫はいないようだ。そういえばあの無口な女子は仮想世界では途中でどこかに隠れ過ごしていたらしい。紫こそ、大概鳴と同じぐらい冷静だ。今ここにいることが無益だと判断して、ついてこなかったのだろう。


「…………」


 無言のまま向かい合ったはいいものの、鳴は何を言い出すべきか迷っていた。誤るのか、とぼけるのか、それとも笑えばいいのか。


 正直言えば気まずい。特に皐月に対しては素直に悪いと思っている。自分が中途半端な行動を取ればあそこで死ぬことはなかったはずだ。


 だがそれを言うことは秘密を明かすことと同義。しかしだからといって何も言わずに誤ったのでは皐月も意味が分からないだろう。


 鳴の頭はすっかり行き詰っていた。


「よお鳴」


 いきなりかけられた声に思わず身構えてしまう。見れば成道がへらへらと笑いながらウインクしていた。


「初日で呼び出しなんて何したんだよ。だせぇな」


「うるさい」


「うへー」


 ぴしゃりと言い返すとお手上げとばかりに成道は両手を上げて降伏のポーズをとった。


「冬鐘さん」


 次は凛子だった。落ち着いた様子でしっかりと鳴を見据えてきた凛子は、さらに口を開く。


「何を隠しているんですか?」


 いきなり核心をつかれた鳴は、今度は落ち着き払っていた。薄々気づいていたのだ。三人の気配はただならぬものではなく、凛子は特に刺々しかった。


「何も隠してませんよ」


 鳴は素直に答えない。たとえ初めて出来た友達だとしても、それは依然として変わらない。


 元からこの敬語もそのためだった。敬語というのは、人と距離を取りたいときに使われる。鳴は凛子と皐月、成道以外と距離を取るために敬語も使っているのだ。


 成道は信用できる。それは数えきれないほど人首を落としてきたからこその、人の命の根本を奪ってきたからこそ悟ることのできる、いわば勘だった。


 だが凛子と皐月は信用できない。それが鳴の勘による判断だった。だから敬語を崩さない。だから秘密を預けない。


 じっと自分の目を見てくる凛子をまた、鳴も見返した。その視線に揺らぎなど生じるはずもない。


「……そうですか」


 凛子は諦めたように俯いた。鳴としてはそこで終わると思っていたのだが、意外にも続きがあった。

俯いたまま、凛子は言う。


「では、もう二度と私に関わらないでください」


 橋道の床にぽたりと、一雫がしたり落ちる。


「もう……冬鐘さんのことは嫌いです……っ」


 凛子は顔を上げることなく、そのまま肩を震わせていた。床にはどんどん雫が増えていく。照明を反射するそれは美しくも悲しい、不思議な液体だった。


「冬鐘、うちも同じだよ」


 皐月が凛子に続き、鳴へ絶交宣言する。


「うちは得体のしれないもんと付き合う趣味はないし、これから背中を預けることもできない。もちろん成道にもそれをさせるつもりはないから」


「うっへ……俺も?」


「当たり前でしょ。あんたも鳴とは話さないで」


「……へいへい」


 ため息を混じりに納得する成道。いまだ涙がやまない凛子。堂々と宣言する皐月。


 この三人は別に薄情なわけではない。鳴、成道、凛子、皐月。この四人だけは仮想世界での戦闘を実感した。戦友、といっても過言ではない。だからこそその縁を切ると言っているのだ。正体を隠し、力を隠し、ましてや隠していることすら隠すとなるとそれは潜む刺客も同然である。心配で戦うどころではないだろう。


 要は鳴の信用は地に落ちたということだ。


「あと冬鐘、ちょっと来い」


 ん?なんだ?疑問に思いつつも皐月の指示通りに鳴は皐月の目の前に立った。


 その瞬間、乾いた音が廊下に響いた。


 鳴は痛む頬をさすり、ビンタされたのだと気づいた。視界を掠めた肌色の残像は振り下ろされた皐月の平手だと、気づいた。


「なんで最初からあれ倒さなかったのよ!」


 押さえ込んでいたのか、皐月が感情を爆発して鳴に怒鳴り始める。


「あんたがあれ倒してればうちは死ぬことはなかったのよ!すごい痛かったんだよ!今でも手が震えるぐらい、すごい痛かった!凛子だって最初は両手動かせなかった!成道だってまともに歩けなかった!どれもこれも全部あんたのせいよ!」


 ありったけの罵詈雑言を吐き散らし、やっと落ち着いた。はぁはぁと荒い息をし、肩は激しく上下に動いている。


 凛子も成道も、それを止めなかった。


 俯いてそれを聞いていた鳴は、頬を擦っていた右手をだらりと下げた。


「そうか。分かった」


 驚くでも、悲しむでもなく、鳴はそれを当たり前のようにただ受け入れた。頷いてから、三人を避けるように横をすれ違う。


 たった一言、了解の意を伝えて鳴はその場を去った。



 こうして鳴はまた独りになった。








 どうも餃子です。


 いやぁー、最近朝の寒さが体にきます。夏より冬派なのですが寒さは苦手というとんでもない奴が僕です。


 ところで皆さんストーブは使っていますか?うちのストーブは上にやかんをのせて水を温めたり、干し芋をのせて軽く焼いたりとなかなか使える子です。本当に使い勝手がいいので是非オススメしますよ。ちなみに僕はみかんを軽く温めて食べるのが好きです。とっても優しい味なんですよ。

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