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09 ゴールデンドラゴンとの遭遇⑦

何とか一週間続けて更新する事ができました。

この調子で二週目も頑張って行こうと思います。

「うわぁ〜」

 つい、感歎の声を上げてしまう。

 その理由は、私の瞳に映る光景にある。


 今、私はゴールデンドラゴン(龍型)の背中に乗せてもらい、遥か上空を飛んでいる。

 眼下に広がる大地。

 遠くに見える海。そして水平線。

 時折、私達の足元を通り過ぎる雲。

 絶景である。


「どうじゃ実音、これが妾達、翼ある者の世界じゃ。

 お主には本来、来る事のできない世界なんじゃぞ?

 妾に存分に感謝せよ」

「はい、ありがとう御座います、ぬし様。

 スゴイです、素晴らしいです。最高です!」

 ドラゴンが自慢気に言ってくるので、素直に感想を口にする。


 空から見下ろして分かったが、今まで私達がいた森は、大陸から生えた半島の一部だった。

 半島には他にも平地あり、大陸にまたがる険しい山あり、湖ありと、様々な環境を有している。

 ドラゴンこと、ぬし様は、この半島の領有権を主張し、私に直々に領地を見せてくれていた。


「ぬし様!あの平地を走っているのは何ですか?」

「あれか。下半身は4本の脚で、上半身はお主らみたいな体をした種族だな。

 脚の速さは中々のものじゃぞ」

 ぬし様は今まで他人と話した事がないので、固有名称については何も知らない。

 今の情報、それからかろうじて私が見る事のできる範囲(米粒サイズ)で推測してみると、ケンタウロスのような種族なのだと考えられる。

 某国産RPGをプレイしていたお陰で、ファンタジー世界の住人については、それなりに知っているのだ。

 ケンタウロス、人馬一体を体現したような存在だ。きっと猛者ぞろいなのだろうなぁ。


「ぬし様!あそこの山を飛んでいるのは何ですか?」

「ふむ。腕が羽になっており、脚に鋭い爪を持っている以外は、お主らみたいな体をした種族じゃ。

 それなりに器用に飛ぶ連中じゃぞ。速さはまだまだだがな!」

 そう言って、ぬし様はガッハッハと笑う。自分の翼に誇りを持ってるんだな、ぬし様。

 ふ〜む、手が羽と言う事はハーピー?

 鳥頭じゃない事を祈る。色んな意味で。


「ほれほれ、湖を見てみろ。妾のような肌をしているが、空を飛べない残念な者共がおるぞ」

「あ〜、あそこに大量に集まっているやつですか?」

「そうじゃそうじゃ。どれ、ちと脅かしてやるかの」

 そう言ってぬし様は急降下を始める。

 ちょっと!?こっちは背中にしがみついているだけなので無理な加速はやめて!


 位置エネルギーを運動エネルギーに変換し、猛スピードで湖にいたリザードマンのような種族に接近。

 その後は、運動エネルギーを位置エネルギーに変換しつつ、羽ばたきつつで再び高度を取る。

 「どうじゃ、見たか今の?奴ら驚きに目を見開いておったわ。ガ〜ハッハ」

 という声が遠くから(・・・・)聞こえてくるがそれどころではない。

 今、湖を水切りの石の如く跳ね回った私は、朦朧とした意識のまま、仰向けにぷかぷか湖に浮いていた。

 あ〜死ぬかと思った。初めてやったけど、水面に対しても受身ができて本当に良かった。

 とは言え、ケガがないか確認。腕の骨、大丈夫。脚の骨も無事。肋骨に頭も無事のようだ。なら内臓も大丈夫かな?

 この世界の医療に期待できない今、ケガなんてしたくない。


 私を落とした事に気づいてくれたらしく、上空でおろおろうろうろしていたぬし様は、ようやく私を見つけて下降してきた。

 接近してきたぬし様を前に、リザードマンの団体さんも慌てだす。

 リザードマンの中で、大きく色鮮やかな鳥の羽を飾りとして頭に付けた、他よりも偉そうな格好をした個体が声を出す。

「皆の者、慌てるでない。整列!」

 その声で我に返ったリザードマン達は、横に長い列になって整列する。

「礼!」

 そして号令に合わせ、陸にいる者も、水中に半ばまで浸かっている者も、地面に膝を突き、両手をあげ、その後上半身を折り曲げた。

 見事な土下座姿勢の完成である。

 水中に浸かっていた連中は、だるま浮きっぽくなっている。流れの速い川じゃなくて良かったね。

 スゴイな土下座。エルフだけではなく、リザードマンにも浸透しているとは。

 ちょっとしたイタズラが、何やらリザードマン達に大迷惑をかける結果となってしまい、ぬし様は気まずくなったようで、私にお願いをしてきた。

 何とかぬし様の背に戻った私は、大声でリザードマン達に語りかけた。

「ゴールデンドラゴン様から伝言です。

 迷惑をかけて悪かった。皆の者、姿勢を戻し、普段通りの生活に戻ってくれ。以上です」


 ドラゴンがゆっくり羽ばたいて上昇している間、リザードマン達を観察したが、土下座をやめて上を見上げたものは少数。

 ただしその少数の者は、皆が皆、口を半開きにしてぽかんとした顔をしていた。

 言葉が通じたと思って良いかな?


「すまんかった実音、つい調子に乗ってしまった。ケガはないかの!?」

「えぇ、大丈夫ですぬし様。でも次からは気をつけて下さい。急加速に急減速、それから急旋回は事故の元ですからね」

 "急"とつく動作はどれも危ないものなのだ。

「次からは気をつける。

 それよりな、実音。もう一度下を見るが良い」

 人の生死に関わる重大な案件なのに、扱いがぞんざいだ。

 まぁ、ここで拗ねても不毛な事にしかならないし、諦めて下を見てみる。

 目に映るのはさっきと同じ半島の全景、と思いきや。


「この形…。こんな事があるんだ!」

 驚いた。

 さっきとは異なる角度から半島を見下ろして見ると、そこには口を開けたドラゴンの頭が横たわっていた。


 半島の先端。枝分かれして湾になっている部分は口。

 湾の中にある島々は牙。

 海に広がる島々は顎を守るトゲのように見える。

 それから大陸に繋がる山なんて、もうドラゴンの角にしか見えない。

 あ、さっき私が落ちた湖、丁度目の位置にある。


「スゴイ、ドラゴンの顔に見えます。スッゴイ偶然ですね!」

 あまりの驚きに、もうスゴイとしか言えなくなる。

 良いんだ、こういう時は素直に驚きを表現した方が、ぬし様も喜ぶに違いない。

 ところが予想していたような、上機嫌な反応が返ってこない。

 あれ?と思ってぬし様の顔を覗き込むと、寂しげな目で半島を見つめていた。


「偶然…かの?」

 声まで寂しげ!何だ、私は地雷を踏み抜いてしまったのか!?


「実音よ、妾はな、この世界に産まれてから今まで、妾と同じドラゴンに会った事がないのじゃ」

 ぬし様がぽつり、ぽつりと語り出した。


「産まれてからひとり、本能の趣くままに獲物を狩り、何年もあちこち飛び続けたが仲間に会えず。

 そんな時な、この地形に気づいたのじゃ。

 何度か水面に写っていた、妾の顔に似ている。いや、似すぎていると。

 だから妾はこう思ったのじゃ、ここは妾の親か、あるいは親の親か、そのずっと前の親が羽を休めてできた大地なのじゃと。

 ならば、この地を支配するに相応しい者は、妾の他にはおらぬ!とな」

 なるほど、ぬし様はこの島に、家族に似た愛着を持っているのか。

 正直、この半島はぬし様の何千倍もの大きさをしているので、生物がそんな大きさになるワケないとは思うのだが、そんな事を正直に言うほど無粋でもなければ、空気が読めないワケでもない。

 だから素直な言葉を口にする。


「見つかって、良かったですね」

「うむ…」

 そうしてしばしの沈黙が訪れる。

 しかし、それは決して気まずい沈黙ではなかった。


 どれだけその景色を眺めていただろうか。

 西の空に太陽が沈み出し、東の空から夜が訪れ始めていた頃、ぬし様が口を開いた。

「さて、実音よ。そろそろ帰るぞ。この景色、しかとその目に焼き付けたか?」

 さっきまでの空気はどこへやら。声のハリは、いつもの自信満々なぬし様に戻っていた。

 だから私もこう返す。

「はい、しっかり焼きつけました!私、今日の事、絶対忘れません」


 そうして、満足げに頷いたぬし様は、屋敷に向かって降下していく。

「昨日の肉、あの焼き方は妾の好みじゃった。

 帰ったらアレが食べたい」

「ぬし様、火が噴けるんじゃないですか?獲物をこんがり焼けば良いじゃないですか」

 私は疑問に思った事を口にしてみる。

 ぬし様は眉を寄せるような顔をして答えてきた。

「アレはイカン。表面は炭状になってボロボロで苦い。

 中は大して火が通っておらん。焦げている分、生で食べるよりマズイかもしれん」

 なるほど、殺傷目的の火の噴き方だから、おいしくならないと。

 獲物に串を通して、ぐるぐる回しながら直火で焼けば、おいしく丸焼きになるかもしれない。教えたらやるかな?

 とは言え、ここはこう言うのが正解だろう。

「では、帰ったらたくさん焼きます!でも、私の分まで食べたらダメですよ」

「それなら妾が満足するまで焼けば良いだけの話じゃ。

 な〜に、肉が足りなくなったらすぐに取って来てやるわ!」

 ガ〜ッハッハ、と豪快な笑い声を上げながらランディング。

 久しぶりに、地面に足を付ける。


「ただいま、ぬし様!」

 今降りた、ぬし様の方を振り返り様に言う。

 そこには、早速人型に変身したぬし様がいて、何と返事したら良いのか戸惑っていた。

 あ、お腹が鳴ってる。かわいらしい音がした。


「ぬし様、ただいまと言ったら、こう返してくれれば良いんですよ」

 と言って、返事の仕方を教える。


 ぬし様はこくこくと頷き、ひとつ咳払い。

 そしてこう言ってくれた。


「おかえり、実音!遠慮などいらんぞ、ここはもう妾とお主の家なのじゃからな!」


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