08 ゴールデンドラゴンとの遭遇⑥
「妾はこの世界最強、そして最後のドラゴン、ゴールデンドラゴンじゃ!」
と、ドラゴン(人型)は腰に両手をあて、胸をふんぞり返して言った。
そんなに胸は立派ではないようだ。
まあ、身長も小さいし、バランスは取れていると思う。
「おい、妾の言葉を聞いてたか?驚かないのか?」
「いや、その、最後のドラゴンって所以外は聞かなくても分かるので…」
大して情報がなかったので、話の続きを期待していたとも言う。
しかし、私の自動翻訳能力はどうなっているのだろう。一人称が妾とか、語尾がじゃとか。
偉そうな話し方、という所でイメージに沿った翻訳がされているのだろうか。
一応、女神からもらった能力だという事はドラゴンにも説明しておいた。
「うむ、実に良い選択をした!」
と褒められてしまった。この能力にして良かった!
それはさておき、ドラゴンとの会話を続ける。
「名前はないんですか?」
と尋ねると、
「名前とは何じゃ」
と返ってきた。なるほど、今まで誰ともコミュニケーションを取ったことがないから、名前と言う概念がないのか。
「私の名前は、龍宮 実音と言います。
龍宮は、名字と言って、代々家族で受け継いで来た名前です。
そして実音が私個人の名前。
実音って言葉にあやかって、父が付けてくれた名前です。
楽器、えっと色々な音を奏でる道具があるんですが、それぞれの楽器で"ド" "レ" "ミ"と付けた音を鳴らしても、実際の音程が違います。
実音はどの楽器でも同じ音程、同じ基準の音を指しているんです。
だから、人の基準、お手本となれる人になれって家族から良く言われます」
と自己紹介しておいた。ドレミなんて即座に伝えようがないので、精一杯音程を変えて発音しておいた。
ドラゴンは何とか分かったような、分からないような顔をしている。
うぅ…、何も知らない人に説明するのって難しい。
「それなら、妾の名前は何なのじゃ?」
「えっと、ご本人が知らないようであれば、名前はないという事だと思います」
そう告げると、ドラゴンはショックを受けた顔をしていた。
そんなに落ち込まなくてもいいのに。
「妾はドラゴンである。名前はまだない」
ぐらい気楽に言っても良いと思うのだけれど。
そう思ってると、ドラゴンが顔を勢いよく上げた。
「そうじゃ、あの、いつも妾に付きまとってくる白髪のやつ!
あやつ、いつも同じ音で妾に話しかけて来る。
アレが名前ではないのか!?」
おぉぅ、賢い。
言葉という概念を持ってないのに、エルフの言っている事を理解しようとしていたのか。
凄まじい知性。これがドラゴンか。
残念エルフの方は、もっと努力した方が良いと思います。
そういえば、私も聞いたような。
何だっけ?確か…
「ぬし様?」
と口にすると、翻訳により音が変わってしまったのだろう。
ドラゴンはしっくりいかないという顔をしていた。
「何か、聞いた音と違う気がするが、それはどういう意味なのじゃ?」
ものすごくワクワクした様子で聞かれる。牙、牙が見えてます。もしも気に食わない意味だった場合、この牙で噛み砕くとか、そういう脅しではないですよね?
「ぬし、という事は地域とか集団の支配者を意味しています。
様は敬意を表す言葉ですから、支配者として崇めている呼び名なのでしょう」
とりあえず、そのまま直訳を伝える。
失礼な呼び名ではないし、変に修正を加える必要もない。
「ほぅ、そうかそうか。なるほどのぅ。
そうじゃ、妾は偉いのじゃ!お主も敬うが良いぞ!」
と、喜んでいるようだ。
だがしかし、調子に乗ってしまったようでもある。
う〜ん、どうしたものだか。
とりあえず、土下座でもすべきなのだろうか?
尊い方のご尊顔を、下々の者が拝するなど無礼な行いなのだろう。多分。
大河ドラマ、時代劇、日本史の教科書を総動員して、敬い方を捻出する。
西洋式の敬い方?人体の構造上、姿勢と言う面においてはそんなに差はないから気にしない事とします。
精々、片膝を地面に付くか、両手両膝を地面に付くか、五体投地になるかの違いだ。
よし、間を取って土下座を慣行します。さっきエルフもやってたし。
何、このドラゴンに対しひれ伏すのであればむしろ納得。心の傷にはならない。
いざ!
と思って勢い良く地面に手を付こうとしたら、正面から腰に抱きつかれて止められた。
痛っ!ちょっと角が刺さりかけてる。
ドラゴンは首を離してふるふると横に振ると、
「それは、見ていて気持ちの良いものではないから嫌いじゃ」
と言ってきた。
ご、ゴメンナサイ!私が間違っていました!
「良いか実音、お主は妾の言葉が分かる唯一の存在じゃ。
今日から妾の次に偉い者という事にしてやる!喜ぶが良い」
と、突然の人事発表。
「え、そんないきなり大丈夫なのですか?皆が不満に思ったりするんじゃ?」
「不満に思うようなら、妾がこの手で叩いてやるわ。
な〜に、どうせ皆、妾の強さを頼りに勝手に集まってきた奴らなんじゃ。気にする必要はないわ」
なんという無責任発言。
そうか、要は人材管理していないという事ですね?大丈夫か、どころじゃない。根本から組織として成り立っていないのだな。
え、じゃああのエルフってどういう位置付けなんだろう?気になる。
「知らん。いつ頃だったか、集団でこの森にやってきて、それ以来妾の傍に付きまとっておるわ」
ドラゴンさんからの回答は以上でした。
どうですか、スタジオのエルフさん?エルフさ〜ん。
あれ、泣いてます?
みたいな事にならないかな。大丈夫かな?
伝えるのは様子をよく確かめてからにしよう。
「それより、実音。お主の事をもっと聞かせてくりゃれ。
見た目は人間のお主が、どうしてこんな所におるのじゃ?
今まで、どういう暮らしをしておったのじゃ?」
ドラゴンに話をせびられた。まあ、そうですよね。不思議ですよね。
見た目どころか中身も人間なんですけど、まあ異世界人ですから?この世界の人間とは何か差があるのかもしれませんし?その点は置いておく事にしますけどね。
とりあえず、今まであった事を全て包み隠さず話した。
特に、自称女神と女神教については念入りに話した。
是非壊滅させてやって欲しいと恨みと憎しみを込めて語りつくした。
それに対しドラゴンは「まかせるのじゃ!」と力強く応えてくれ、もし地球に帰れないのであれば、一生この方に付いて行っても良い、と思わせてくれた。
でも、もし帰れるのであれば帰りたいので、帰還手段を見つけるのも手伝って欲しいとお願いしてみた。
「…それは嫌じゃ」
頬を膨らませて、ぷいっと横を向かれた。
う、う〜ん。喜ぶべきか、悲しむべきか悩む。
「ふん、家に帰れぬのであれば、無理に帰ろうとする必要などない。そこに住み着いてしまえば良いのじゃ。
な〜に、妾に任せるが良い。
帰りたいなどとは思えぬようにしてくれるわ!」
そしてガ〜ハッハと豪快に笑うドラゴン。
「要は実音にとって、妾の傍で暮らすのが一番と思えるようにすれば良いのであろう?
家族と会えなくても、妾がおれば寂しくないと思えるようにしてくれよう。
腹が減れば、妾が獲物を狩ってこよう。
敵が来れば、妾が蹴散らそう。
風雨の心配のない住処も、妾が用意しよう。
これ以上、何を心配する必要があるというのじゃ?」
押しに押してくる、ドラゴン。
スゴイ、引く気が全くない。やはりドラゴン攻めに強いのか?
「ごめんなさい、それでも私、まだ元の世界の事は諦めきれません」
正直な思いを口にする。
その返事がショックだったのか、目を見開くドラゴン。
あ、目の端に涙が滲んできてるような。
「でも、この世界にいる間は、貴方の傍にいる事にします」
急いで次の言葉を口にする。
ドラゴンの瞳からは涙が零れてしまったが、今は悲しい涙ではないだろう。多分。
というか、このやり取り、大丈夫だろうか?
ドラゴンにとってのプロポーズ…とかではないよね?と思ってドラゴンを見る。
…分からない。直接聞いてみても「プロポーズとは何か」という話になって藪をつついて蛇を出す結果になりかねない。
まあ、大丈夫だろう。私達は二人共女の子。
今のやり取りはもちろん、結婚みたいな話ではないのだ。
…ドラゴンに社会性とか、結婚の概念とかないようなので、正直これからどうなるか分からないのが不安ではあるが…。
残念エルフの良い言い方⇒銀髪エルフ
悪い言い方⇒白髪エルフ
これ以降、悪い言い方を使っていきます。