72 地球への帰還 とんでもないお土産付き
「実音さん、忘れ物はありませんか?」
今日はいよいよ、地球に帰る日。
教会に書かれた転送陣とやらに立ち、地球に帰る瞬間を待っている状態だ。
荷物の方は、葵が準備に付き合ってくれたので、問題はないはずだ。
とは言え、大事な物は、そう多くない。
こちらに来る時、身に付けていた物であるセーラー服。
それからお土産として、ぬし様の金に輝く鱗と、エルフ服と、エルフ弓を持って帰る事にした。
これで荷物は全てだ。
間違っても剣等の武器は持って帰るワケにはいかない。
銃刀法違反で捕まってしまう。
弓?私、弓道部だし、何とか誤魔化せると思う。
とにかく、異世界に誘拐されていた事を証明しないといけないのだ。
下手すると、家出娘として処理されているかもしれないし。
さて、どうやら準備は問題無いようだ。
「女神様、転送してもらえる?」
「分かったわ。じゃあ、1週間後に自動で戻ってくるようにしておくわね」
「実音!お土産を忘れるでないぞ!」
「実音さん、私もお土産欲しいです」
「あの、私も欲しいです」
ぬし様、紫蘭、葵に声をかけられる。寝食を共にした、こちらの世界での家族と言ってもいい存在。
喜んでもらえるよう、皆が好きそうなお土産を手に入れてこよう。お小遣、足りるかなぁ?
その他にも、各種族の代表が見送りに来てくれた。
リザードマン、ゴブリン、ケンタウロス、サイクロプスにミノタウロス、それからハーピー。
トレントは流石に教会に入れなかったので、窓の向こうからのお見送りだ。多分、アレかな?いまいち他の木と区別がつかない。
それにしても、こうして改めて見ると、凄い光景だなぁ。
地球では全く想像できない。
つくづくとんでもない世界に来てしまったものだと思う。
人族から、魔境とでも呼ばれているんだろうなぁ。
そんな人族と言えば、レオナも見送りに来てくれていた。
「あの、実音さん、ひょっとして兄弟がいないですか?
もし居たら、帰って来る時に連れてきてもらえないでしょうか?」
「いや、ウチは私と妹の2人姉妹だから、兄弟はいないよ?」
不思議な質問をされたけど、ご期待には添えなそうだ。何故かレオナはがっくりと地面に手と膝を突いていた。
あの、ウチの家族に何か御用があったの?
「さ、それじゃ転送するわよ。皆、離れて離れて」
「皆、1週間後に帰って来るわね。それまでケンカしないで仲良くしててね!」
女神様が何かを操作すると、私の足元の地面が消え、そこにぽっかり空いた空間へと吸い込まれた。
そして謎空間を浮遊している感じになる。
あ〜、そうだったそうだった。
こっちに来た時もこんな感じだった。
とすると、しばらく待てば地球に着くのだろう。
折角なので、浮遊ヨガなどを開発しつつ到着を待っていると、お尻が地面に着いた。
顔を上げてみると、学校の下駄箱だ。
膝に何か当った。え、カバン!?
と言う事は、私があちらに連れ去られてから、それほど時間が経っていないと言う事なのでは!?
やるじゃん、女神様。
こちらの世界で事件にならないように気を遣ってくれたのだろう。
とりあえず、携帯電話で時間と日付を確認しようとカバンを開ける。
おぉ、日付は変わらず。時刻は19時20分。
確か、向こうの世界に転移したのが夕方頃だったから、1時間程度しか経っていないという事では?
よ〜し、じゃあ家族に対して、どう報告しようかな?と思ったが、おかしい。
何故か浮遊感を感じる。
景色も下駄箱じゃない。謎空間だ。どうなってるの?
女神様、何か失敗したな?仕方ない、顔を合わせたら文句を言ってやろう、そう考えながら着地の衝撃に備えた。
見えた、ここだ!
異世界に出現する瞬間を見抜き、足からの完璧な着地を決める。
3回目なのだ。流石に見切れる…ハズだった。
着地地点にぬし様さえいなければ。
「ぬわっ!?」
「ぐへっ!?」
ぬし様と私、どちらも可愛くない声をあげてよろける。
「すいません、ぬし様。思わぬ早さで帰ってきてしまいました」
「実音、やっと帰って来おったの!
妾は、ずっと待っておったのじゃぞ!」
何故か感極まったぬし様に飛びつかれ、抱きしめられた。
「痛い!?」
ぐはっ、ぬし様の角が、わき腹に刺さった!
血、出ている確実に。滴っている、間違いない。
「ぬし様、待って下さい、このままでは私、死にます。
とにかく、紫蘭か女神様の所に連れて行って下さい」
「す、すまんのじゃ実音!」
慌てるぬし様。
あ、そういえばここ、教会だった。
『女神様、重傷者1名発生。直ちに治療をお願いします』
『実音ちゃん?どれどれ、帰還早々どうしたの?』
私の呼びかけに応え、女神様がやってきてくれた。
魔法で私のケガを癒してくれたので、当初怒鳴るつもりだったのを予定変更し、穏やかに文句を言う事にした。
「女神様?私、向こうに着いて一瞬で送り返されてしまったのですけど、どうなっているんですか?」
「え、そうなの!?こちらでは1週間丁度なんだけれど。
う〜ん、分かったわ。この世界と、実音ちゃんの世界とでは、進む時間が異なるのね。
じゃあ、実音ちゃんの世界で1週間経過したら送り返されるように設定しなおすわね。これでよしっと」
「しっかりしてよね〜」
「何!実音、また向こうに行くと言うのか!?
今度こそ許さぬ、妾を置いていくのは許さぬぞ〜」
背中からぬし様が圧し掛かってきた。
これなら角が刺さらないから安心…じゃない。
また足元の空間がなくなったんだけど、どうなるのコレ!?
答え。ぬし様も一緒に転送された。
下駄箱で頭を抱えて悩む私。
どうしよう、どうしたらいいんだろうコレ。
警察に見咎められたりしたら、説明のしようが無い…。
とりあえず、このまま学校に居続けるワケにもいかないか。
先生が見回りに来てしまうだろう。
「ぬし様、とりあえず私の家に行きましょう。
でも、その前にいくつか守ってもらう事があります。よ〜く聞いてくださいね」
「ぎゃお!」
え、ぬし様、何をふざけているんですか?
返事は、はい、じゃないですか。
ある可能性が思いつき、冷や汗が頬を伝う。
「ぬし様、右手を上げて下さい」
「ぎゃ〜お」
右手を上げてくれるぬし様。あれ?通じてる?
「あの、私の言っている言葉が分かったら、頷いてもらえます?」
「ぎゃおぅ」
頷くぬし様。
良かった、通じてる。どういうワケか分からないけど、通じている。
…じゃあ何で私には分からないんだろう。
いけない、今、私はぬし様への愛を試されているのかもしれない。家族愛という意味だけど。
「私の家に移動します。
この世界では、絶対飛行禁止、変身も禁止です。
とにかく、人に見つからないように、隠れて移動しますよ。私の手を離さないでくださいね」
「ぎゃお〜ん」
機嫌良く返事してくれたぬし様と手をつなぎ、夜の街を移動開始した。
目的地は私の家。ダレにも見つからない事を祈るのみだ。
こうして、私、龍宮 実音にとって大変な1週間が始まるのだった。
はぁ〜、まずは両親と祖父母への説明からか〜。
これにて第一部完!で御座います。
でもって、しばらく更新をお休みします。
活動報告の方にも、後ほど、その辺の話を書いておこうかと。




