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63 他種族連合軍との戦闘開始から2週間

※今回は名も無き部隊長の視点です。


「どうしてこうなった…」

 誰かの呟きが聞こえる。

 どうしてこうなった?それは、今この場にいる全員が心の中で問い続けている疑問だろう。


 今日は月明かりもない夜。辺りは完全な闇と化していた。

 その中で焚火を囲み、沈みがちな気持ちを、火の暖かさと、ゆらめくその姿を見つめる事で、何とか持ちこたえさせている状況だ。

 ここ数日、ろくに食事もしていない。

 救援も来る気配がない。

 本当に、どうしてこうなってしまったのだろうか?



 今から1週間前…。

 我々人族は、強固な敵の防衛陣地を次々と突破し、敵の重要拠点を破壊した。

 女神を名乗る不届き者を、建物ごと焼き払ったのだ。

 これで、我らが信仰する女神を不当に貶める悪魔は滅んだ。

 正義の勝利だった。


 その後は皆で抱き合い、祝いの酒を飲み、後は凱旋するだけとなった。


 今思えば、あそこから全てがおかしくなった。

 そうだ、これは、あの悪魔の呪いなのだ。



 6日前…。

 我々が通ってきた渓谷が、巨大な岩壁で塞がれていた。

 蔦に覆われた大岩が詰みあがり、とてもではないが動かす事はできない。

 ツルハシを持った土木部隊は後方、この壁の向こうにいる。

 岩を砕いて通り抜ける事も不可能だった。


 どうしたものかと頭を悩ませていると、ここで副指令官のマサラ殿が名案を出された。

 岩をどうにもできないなら、周りにいくらでもある木を活用して、道を作ろうと言われたのだ。


 早速、元きこりと大工がいる中隊が動き、岩壁を越えるための足場を作り始めた。

 ちょっとしたアクシデントはあったが、我々人類の知恵の前には何と言う事もなかった。

 これは街に帰った後、笑い話にしてやろう、誰もがそう思っていたはずだ。


 ところがここで、想像外の事が起こる。

 天が裂け、木材や作業者達を襲い始めたのだ。

 辺りに轟く轟音、燃える木材。

 これにより、我々はすっかり怖気づいてしまい、岩壁を越えようとするものはいなくなった。



 5日前…。

 海だ、海に行こう。

 作戦では海からも大艦隊が攻め寄せる事になっていた。

 陸戦で圧倒的勝利を収めた我々が早く到着してしまっただけで、このあと艦隊が沖合いに来るに違いない。

 そう考え、海に移動し始めた。


 そして見える白い砂浜、青い海。

 船はまだ見えないが、ここで数日過ごすのも悪くない。

 どれ、魚でも獲って、その味を土産話として持って帰るか、そう考えて海に近づく者がいた。

 次の瞬間、魚の餌になっていた。

 人間よりも何回りも大きい、化け物のような魚だった。


 こんな化け物がいる海に、丸太を削って漕ぎ出す?

 自殺行為だ。

 早々に海から離れた。


 こうなればやはり山だ、山を踏破するしかない。

 とは言え、土木部隊に合流できれば、岩壁に穴を空けられるハズだ。


 山を警戒に踏破できるよう、4人1組に編成した部隊を20用意し、山の各所から登らせていった。

 山と言っても、切り立った岩壁である事には変わりない。

 かなりの困難が伴う作戦だった。

 だが、精鋭である彼らなら、必ずやこの山を踏破し、救援部隊と共に我々の前に再び姿を見せてくれるだろう、そう誰もが信じていた。


 総指令官のガラム殿が、兵士皆を鼓舞し、士気を上げる演説をしていたその時、事件は起きた。

 ハーピー族の奇襲だった。

 ここ数日、姿を見ていなかったから油断していた!

 空中からの投石で護衛の兵士が倒れ、その後に急降下してきたハーピーの凶爪に、ガラム殿が喉を切り裂かれてしまった。

 それだけに飽き足らず、ガラム殿の身体を持ち去ってしまったのだ。


 不意を衝かれたとは言え、一瞬で総指令官を失ってしまった。

 我々が味わった絶望は、計り知れないものだった。


 副指令官のマサラ殿が全軍の指揮を執る事になったが、全軍の士気の落ち込み具合は深刻だ。

 全軍が守りを固めて、この日は早く休みを取る事にした。



 4日前…。

 マサラ殿がいない。

 早朝から、周辺の偵察に行ったのかと思ったが、誰も聞いていないとの事だった。

 イヤな予感がする。


 昼になっても姿が見えない。

 全軍が不安でざわついていた。


 司令官からの指示が無いため、各部隊はそれぞれの部隊長の判断で行動していた。

 とにかく食料が不足し出していたのだ。

 各部隊、森に入り食料を捜しにいった。

 動物を狩る際、間違っても仲間を誤射しないようにと皆で注意しあった。


 我が部隊は鹿を獲る事ができた。

 早速森を出て、解体した鹿を部隊内で分けて食べる事にした。

 火を囲む面々を見回すと、1人足りない。

 あいつはどうしたのだろう?トイレだろうか?

 仕方がない奴だ、このままでは美味しい部位を逃す事になるだろうに。



 3日前…。

 1日経ったが、とうとうマサラ殿が姿を現さなかった。

 このような状況だ。7万近くの兵士を束ねる者が必要だ。

 代理の司令官を立てる事とし、他の追随を許さない戦闘能力で有名なカイエン殿が司令官になった。

 このような状況だ。あの豪快な笑い声が皆を鼓舞してくれるだろう。

 今度こそ失踪しない事を祈る。


 この日も狩りに行った。

 しかし残念な事に、獲物を見つける事が出来なかった。

 まさか昨日、狩りつくしてしまったのだろうか?

 仕方ないので諦めて陣地に戻り、昨日の鹿の残りを食べた。


 隣の部隊が毒キノコを喰らって全滅してしまった。

 キノコ類には手を出さないよう、各部隊に厳命が下った。



 2日前…。

 カイエン殿がいない!?

 護衛の証言では、夜にテントから出てはいないという事だが、それなら何故!?

 マサラ殿の事もあり、厳重な警戒をしていたというのに。


 今日も獲物が取れなかった…。

 野草と、僅かに残った鹿肉でスープを作ったが足りない。

 このままでは持たない。

 何か希望が欲しい。



 1日前…。

 泣きっ面に何とやら、大雨だった。

 部隊を森に移動し、雨を凌ぐ。

 獲物も探してみるが、見つけられない。

 それから、部隊員がまた1人減っていた。


 迷子かと考え、3人1組の4部隊になり捜索した。

 しばらくして集合場所に戻ったが、他の部隊が帰ってこない。

 さてはあいつら、何か美味い食材を見つけたな、と部下が冗談を言ってくれたが笑えない。

 異常だ、異常すぎる。

 この森は危険だ。今更そんな事に気付き、急いで森から離れたのだった。



 そして今日。

 カイエン殿の次に指揮官となったペッパー殿は、指揮官として名乗りを上げた瞬間にハーピーに連れ去られてしまった。

 これで悟った。

 マサラ殿も、カイエン殿も、既に生きてはいまい、と。


 もう、誰も指揮官として名乗り出る者はいなかった。

 7万の大軍も、気付けば5万になっていた。


 餓えた兵士が、騎馬隊の馬に手を出そうとし、斬り合いに発展してしまった。

 オークを料理する者まで現れた。

 最早、全軍崩壊しかかっている。


「誰か、この状況から救ってくれ」

 そう絶叫する兵士がいたが、それは今、この場にいる誰もが思っている事。


 女神様に祈る事しかできないのだろうか?

 だが、どう祈るべきか。


 救いの手を差し伸べて下さい、だろうか?

 それとも、怒りを静め、どうか許して下さい、だろうか?


 1日中考えたが、未だに答えは見つかっていない。


夜はミミズクハーピーが音も無く指揮官を連れ去る。

森に入ればゴブリンが、絶対に他の敵に気付かれないようにして一人一人殺害。

敵の正体が分からず、人族が恐怖にかられるでござるの巻でした。

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