07 ゴールデンドラゴンとの遭遇⑤
問:異世界に拉致されました。
周囲には、魔物と獣がうろつく森があります。
食料を安定して入手する方法を答えなさい。
道具は自作、またはドラゴン・エルフと交渉して入手するものとする。
回答:
う〜ん、どう答えたものか。
私はひとり、食堂で頭を抱えていた。
食料が入手できないと、いずれ餓え死にしてしまう。
生活が安定するまで女神教に世話になって、その後脱走させてもらうという手もあるが、女神教から来た連中はドラゴンに撃退されたようだし、この線はないか。
ドラゴンにお持ち帰りされてこの屋敷に来たけど、ドラゴンの目的が分からない。
私の事、食料としか思っていないかもしれないし、ひょっとして好意で保護してくれたのかもしれないし。
さらにエルフはもっと分からない。ドラゴンに仕えているように見えるが、恐ろしい程意思の疎通が下手だ。
ドラゴンが何故私を連れてきたか分からなくて、扱いに困っているようだ。
ドラゴンの好意に期待して、食料を恵んでもらおうか…。
あ、でもさっきの感じからすると、このドラゴンはお肉しか食べなさそうだ。
そしてエルフの方は、お肉が嫌いそう。さっき私が食べている時、眉を寄せて嫌そうにしてたよ。
そうすると、私が健康に生きるには両方に交渉して肉と野菜を分けてもらうしかないのか。
いや、野菜だけでも生きる事は可能か。
エルフの方が難易度高そうだけど。
あ〜、どうしたものか。
歌で心が通じた気にはなれたけど、歌だけで問題解決できるのはインド映画ぐらいなものだし。
詰んだ?詰んだのかなコレ?
かくなる上は一か八か、森に突入して獲物を狩るか?
厨房で見つけた包丁片手に、自給自足の可能性について考えてみる。
でもな〜、血が出た時点で周囲から匂いを嗅ぎつけた獣がやってくるだろうし。
キノコを採ろうにも、どれに毒があるか分からないし。
うん、自給自足しようとしても遠からぬ内に死んでしまう。ダメだこれは。
途方にくれて、頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
よし、万策尽きた以上は奥の手を使うのみ、と腹をくくる事にした。
今こそ自称女神の祝福を使う時。
第一希望、実家に帰れる能力を希望!
…反応なし。よし次!
第二希望、自称女神と女神教が木っ端微塵に吹き飛ぶ能力を希望!
…反応なし。よし次!
第三希望、ドラゴン・エルフどころか、全種族との意思疎通が可能になる能力を希望!
…反応あり。よし次!
第四希望、毘沙門天も目を見張る程の戦闘能力を、ってちょっと待った〜!
「あ、あわわわわ、私の体が光ってる!?
どれに?どれに反応したの!?」
勢いって怖い…。
とりあえず片っ端から願い事を言うつもりだったけど、こんな所で自暴自棄な感じで使ってしまうだなんて。
しかし、どれに反応したのだろう。
ひとつひとつ確認してみるか。
えっと、実家に帰る能力は…と、辺りを見回す。
さっきと同じ、屋敷の食堂だ。この能力ではない。
女神木っ端微塵…、確認方法ないので保留。
さて本命、全種族との意思疎通…。ドラゴンとエルフはどこに行ったかな?
迂闊に出歩いて、事情を知らない第三者に遭遇しても厄介だし、どうにか呼び出す方法はないだろうか?
さっきまでの反応からすると、鼻歌で呼べそうな気がするけど、3回目は流石に飽きられる気もする。
何か他に良い方法はないかと思って辺りを見回す。
ほぅ、骨が落ちてますね。腕の骨かな?それとも脚の骨?長い骨を2本手に取る。
それからさっきの料理につかった鍋を持ってきて、ひっくり返した状態でテーブルに置く。
え〜っと確か、こんなリズムだったかな?
これからする事を頭に思い浮かべ、行動に移す。
「はっ」
気合一声、鍋を骨で叩き出す。
とんとことことん、とんとことことん
同じリズムを繰り返す。
そう、昔お正月に神社で見た、猿まわしのリズムだ。
ついでに鼻歌も投入。
ふんふふふふふん、とんとことことん。
そこそこ音量が出ているし、ドラゴンもエルフも耳が良さそうだったし、気づいてくれないかな〜と思いつつ続ける。
適当に叩いているだけなので、ちょっとやそっと間違えても気にしない。
ふんふふふふふん、とんとことことん。
数分間続けたところ、ついに獲物がかかったようだった。
ぎゃんぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃん、ぎゃおぎゃおぎゃぎゃぎゃん。
上機嫌な歌声が廊下から聞こえる。
だんだん近づいてきているな。
あ〜でもぎゃおぎゃお言っているままだ。てっきり日本語に翻訳されるかと思っていたのだけれど。
いや、コレは歌だから、意味のある言葉じゃないから翻訳されないんだ、と予想。
そして食堂の入り口までやってきたドラゴンは、
「何を楽しそうな事をやっておるんじゃ?」
と言って顔を出して来た。
分かる、言葉が分かる。
「あの、ドラゴンさん。私の言っている言葉、分かります?」
ドキドキしながら、問いかける。
お願い、通じて。
私だけ分かってもダメなのだ。私の想いが通じないと…。
心臓の音が耳まで響いてくる。
どうだろう、分かってくれただろうか?
ドラゴンとエルフ、二人共来ていたようだが、ドラゴンは目を見開いて固まっている。
エルフの方は、なんか普通というか、分かってない感というか。本当、意思の疎通がしにくい子だ。
「今、なんと言った?
もう一度言ってくれぬか?」
ドラゴンが左胸を押さえ、震える声で語りかけてくる。
驚いたのだろうか。だとすると、私の言葉が通じたという事なのだろう。
ただ、私の言葉が正確に伝わっているかはまだ分からない。
私も、左胸を押さえ、逸る心臓を静まらせながら、言葉を発する。
「ドラゴンさん、私の言っている言葉が、分かりますか?」
「!?」
声にならない声を発して、ドラゴンが顔を伏せる。
体を震わせ、沈黙してしまった。
エルフがおろおろし出して、私の事をきっ、と睨んでくる。
いや、あなたは静かにしていて下さい。
その時、地面に雨が滴った。
雨の発生源は、大きく見開かれたドラゴンの瞳からだった。
「分かる、分かるぞ」
良かった、通じたんだ。
緊張が解けて、膝を突いてしまう。
すると、そこへエルフが駆け寄って来て私を乱暴に壁に叩きつける。
「あなた!ぬし様に何をしたの!?
事と次第によっては、死をもって償ってもらうわよ!」
等と恐ろしいことを言ってくる。
ぬし様?
えっと、私がドラゴンに言ったのはどう聞き間違えても、物騒な展開にはならないものだし…。
これはエルフには言葉が通じなかったのだろうか?
「私の言っている言葉、分かりますか?と言っただけです」
と、エルフに向けても言ってみる。
「何ですって!?」
エルフは目を見開き驚きをあらわにした。
「お主、邪魔じゃ」
そこに無慈悲な一撃。
ドラゴンがエルフの服のえりを掴むと、窓の外に放り投げてしまった。
「ぅひぃいええええええええ!?」
面白い声を上げて飛んでいくエルフ。
木にでもぶつかったのかすごい音をたてるエルフ。
こ、怖くてどうなったのか見に行けない。
ここ一階だけど、あの速度で投げられたら危ないんじゃ…。
「のぅ、お主」
ドラゴンが声を掛けてくる。
「今まで生きてきて、初めて他の者の声を理解できた。
もっとだ、もっと話をしてくりゃれ」
その顔からは、喜びが溢れていた。