06 ゴールデンドラゴンとの遭遇④
とりあえず、ストックの続く限り、21時に予約掲載する形にします。
ストックが切れそうになったら、またお知らせします。
人間の姿に変身したドラゴンは、金色の体に赤のお化粧をしていた。
口と右手が、べったりと赤くなっている。
ふ〜ん、口紅とマニキュアなんてこっちにあるんだ〜。
なんか、ポタポタと滴っているけど気にしない。
地面にペタペタと付いているけど気にしない。
何か鉄っぽい匂いがしてきたけど…。
いや、これ以上の現実逃避は無理だ、諦めよう。
絶対血だもん、アレ。
戦ってきたようだけど、大丈夫かな。ケガしてないかな。
心配になってドラゴンに近寄る。
羽に隠れた部分もしっかり確認。どうやら口と右手以外は無事のようだ。
強引に引っ張りお風呂に連れて行く。
何か困惑しているようだが、無理矢理右手の血を洗い落とす。
血が落ちると、出てきたのはキレイな手。
良かった、ケガは無いようだ。
そのままの勢いで、口元も拭う。
うん、キレイになった。
傷ひとつない、キレイな顔をしているよ。
エルフの話だと敵は12人いたそうだが、ケガひとつなく撃退したのだな。
どんな戦いだったんだろう?
というか、相手は一体何者だったのだろう?
人間だとしたら女神教の可能性が高いと思うけど。
いや、むしろ女神教を希望。
是非壊滅して欲しい。
思考に沈んでいた状態から復帰して、ふとドラゴンを見ると、私の事をまじまじと見ている。
なんだろう、私としては自然な行動のつもりだったけど、ドラゴンからすると不思議な行動だったのかな。
地球でも国によって常識は違うし、ましてや私達は異種族だ。
異文化交流、難しい?
悪気はないんだけど、私の行動を嫌がって嫌われたりしたらやだな、と思いつつドラゴンの目を見る。
ドラゴンもじっと見つめ返してくる。
そのまましばし見詰め合う。
あ、なんかドラゴンが思いついたみたいだ。雰囲気が変わったよ。
むふん、とドラゴンが鼻を鳴らす。
上機嫌っぽい。
私の右腕をつかむと、また食堂へと引っ張って行かれた。
食堂に戻ってくると、さっき放置してきたエルフ達の姿がなかった。
帰ったのかなと思ったら、足元にいた。エルフだけ。
「わっ」
つい驚きの声をもらす。危うく踏んでしまう所だった。
え、何でこのエルフ、地面に膝と手と頭を突くと言う、所謂土下座スタイルをしているの?
ドラゴンを崇めているのか。
ドラゴンの方は、いまいち土下座の意味が分からないのか、眉を寄せて困り顔。
「ぎゃぎゃ〜お」
多分、顔を上げろとか、言ってるんだと思う。
土下座を見て喜んでいる感じじゃないし。
一方エルフの方は、声を掛けられた事に気づいて恐縮。
ますます小さく丸まりつつ、地面へと密着していく。
あぁ、ドラゴンがますます困惑している。
この娘、地面が好きなの?それとも卵温めてるの?とか思っていそう。
じれったいなぁ、この二人。
どれぐらいの時間、一緒にいるのかは知らないけど、もう少し意思の疎通ができても良さそうなのに。
エルフの肩をつかんで、強引に座り姿勢にした。
エルフは目だけキョロキョロ動かし、体はガタガタ震えるというパニック状態に。
ドラゴンの方は、自分の意思が通じてうれしかったのか、口元をほんのわずかに綻ばせ、羽を微妙に動かし、尻尾をわさわさと動かしている。
あらこの娘、羽と尻尾は饒舌みたい。
再び上機嫌になったドラゴンは、食堂のテーブルの上座にどすんと座る。
ミシッと嫌な音がする。
大丈夫かあのイス。足にヒビが入っているような。
寿命を迎える日…近そう。
「ぐぎゃ〜」
という声と共にドラゴンに見つめられた。
えっと、口元に血が付いてたし、多分食事はしてるんだよね?
じゃあ食事の要求ではなさそうなので、近くのイスに座る。
ふんす、と鼻から息を吐き、満足そうにふんぞり返る。
お〜、偉いっぽい。
金色、という見た目もあるが、態度がもう王者って感じだ。
そんなドラゴンを見ながら、私はこの後どうされちゃうんでしょう?とのんきに考える。
お風呂に入れられた後は、調味料を体に塗って、ドラゴンにぱっくりといかれるのかと心配していたが、この空気から食べられる方向にはいかないだろう。
だったら、もうなるようになれだ。
そんな諦めの境地とでも言うような状態になっていたら、緊張で機能停止していた胃が動き出したようで、く〜っと音をたてる。
まあ、仕方がない事だよね?
昨日の夜から、昼時を少し過ぎた今に至るまで、ご飯食べてないんだから。
ちらっとドラゴンの方を見る。
ドラゴンは察してくれたようでエルフを見る。
エルフは首を傾げる。
察しが悪い!
このお腹の声が聞こえなかったのか?
空腹を訴える女子高生の切ない訴えが聞こえなかったというのか。
その長い耳は何のためにあるんだろう。
このエルフさん、正直このドラゴンの側仕えとして向いてないと思います。
お腹をさすりながら切ない目線をエルフに送り続けると、ようやく気づいてくれたのか、隣の部屋に入っていく。
よし、良いぞ。厨房っぽいから、料理を期待できる。
しばし待って出てきたのは様々な食材。
生肉、カエル、椎茸みたいなキノコ。ふむぅ。
私が何を食べるか分からないから色々持ってきてくれたんだ。
じゃあ、と生肉ときのこを指差してみる。
エルフは分かってくれたのか、それらをずいっと渡してきた。
え?生で食べろというの?
やだ、この人達の食生活、ワイルドすぎる!
このままでは埒が明かないので、エルフを連れて厨房に入る。
なんだか荒れ放題。手入れされていない感じが漂っているが、まぁ何とか使えそうだ。
かまどらしきもの発見。
フライパン…なし。変わりにお鍋を発見。
まな板、包丁、それにフォークっぽいものもあるし、これで何とかなるか。
塩はないかな?まあ、今回は諦めるか。
火のおこし方が分からなかったので、エルフに尋ねる。
今度は察してくれたみたいで部屋の隅にあった薪と、藁っぽいものをかまどに設置し、木の枝を一本持ってドラゴンの方へと歩いていった。
え、もしかして?と思っていると、ドラゴンの声がして、火のついた枝を持ったエルフが帰ってきた。
う〜ん、これは不敬には当らないのだろうか?エルフの感覚、よく分からない。
かまどに火が入ったので、鍋を使って食べやすいサイズに切った肉とキノコを炒める。
毒キノコじゃないよね、信じるからね、という目線でエルフを見る。
あ、ぼ〜っとしてたなこの人。
毒見…させちゃおうかな?
出来上がった料理を適当な皿に盛り、食堂に戻る。
早速手を合わせ「いただきます」と言ったあと、食べ始める。
う、おいしくない。塩が欲しい、が仕方ない。
空腹は最高のスパイス、と思い食する。
あれ、ドラゴンが興味深そうにこちらを見てる?
エルフも何か変な顔でこっちを見てるし。
これはドラゴンにも食べさせた方が良いのだろうか?一人分しかないけれど。
私まだまだ空腹なんだけど…。
仕方ない、諦めてドラゴンに皿を差し出す。
ドラゴンは手づかみで肉を一切れ食べ、目を見開いたかと思うと、そのままひょいひょい食べていく。
あぁ〜、私のごはんが…。
炒めた肉、初めてだったんだろうなぁ。
ずいっ、と皿が帰ってきた。
肉は全滅してしまったが、まだキノコが残っている。
私、これからしばらくキノコを主燃料として頑張ります。
しかしこれはまいった。
このままでは食文化の違いを前に餓死しかねないし、当分おいしいご飯が食べられない事になる。
ジェスチャーで何とかなるものでもないし、どうしよう。どうしたら良いのだろうか。