52 お出かけ準備
さて、昼はハーピー偵察隊の訓練、夜はハーピー夜間偵察隊の訓練を続けてきたが、そろそろいいだろう。
人族の領域に偵察隊を送り出した。
ぬし様が人族から奪い取った、この半島から大陸に向けての偵察活動だ。
大陸から半島へと逃げてきたエルフ族、リザードマン族、ケンタウロス族、それにサイクロプスとミノタウロス族の記憶をすり合せ、おおよその地図はできている。
そのため、今回の偵察活動の目的は、湖や森などの位置を確認したり、村や街などの人族の拠点の捜索になる。
人族の部隊が移動している所をみつけたら、それも報告するよう命じてある。
こちらが活動している事を、できれば人族に気付かれたくないので、秋風を始めとした引率役のハーピーは高高度を、すずめにしか見えない子供ハーピーはやや低めの高度を飛ぶように指示した。
やるだけの事はやったので、後は信じて待つだけ。
果報は寝て待てというやつである。
と、いうわけで今日の私は、ぬし様と一緒に各種族の仕事を見に行った。
サイクロプス族とミノタウロス族の戦闘陣地構築、ケンタウロス族の突撃戦法の訓練、ゴブリン族とリザードマン族の隊列を組んでの戦闘訓練。
うん、みんな頑張っている。
久しぶりにエルフ族の村にも行って、昼食を食べた。
トレント族からは森の食料を、魚人族からは海の食料をもらった。
魚人族には、そろそろ海から人族の部隊が来るかもしれないので、警戒するようにお願いしておいた。
そうそう、マタンゴ族の様子も見に行った。エリンギっぽいキノコをもらった。
…これ、食べて大丈夫だろうか?
キノコ人間にされてしまったら洒落にならないので、リザードマン達にあげる事にした。
そんなこんなで半島内を駆け巡っていたら、夕焼けの時間になっていた。
太陽からの黄金の輝きで、空も海も、何もかもが金色に染まる時間だ。
そんな空を今、金色の翼を広げたぬし様と独占している。
最高の贅沢をしている気分だ。
こっちの世界に来てから、まだ1ヵ月という所だけど、随分色々あったものだ。
何度も死にそうな目にあった。
そんな世界で、今までずっと一緒にいたのが、このぬし様だ。
感謝の気持ちを込めて、背中の鱗をなでると、気持ち良さそうに目を細めている。
「ねえ、ぬし様」
そろそろ切り出そう。そう決めて、ぬし様に声をかけた。
実は、今日はひとつ、ぬし様に話さなければいけない事があったのだ。
「なんじゃ実音?今日はあちこち飛んだが、まだ行きたい所があるのか?」
「いいえ、もう満足です。
もう少し、この空を楽しんだら、家に帰りましょう」
「うむ、分かったのじゃ」
うん、なんかちょっと緊張する。
落ち着け〜、自然な形で伝えればいいんだ。ぃよし。
「それでですね、ぬし様」
「おう、なんじゃ?」
「私、しばらく外泊しようと思うのです」
「そうか、どこに行くのじゃ?もちろん妾も付いて行くぞよ!」
「いえ、今回はぬし様と一緒に行けません。
お留守番してもらいます」
ぴたりと、ぬし様の羽ばたきが止まった。
目も見開いてしまっている。
やはり、こうなってしまったか。
「嫌じゃ、認めん!どこに行くつもりなのじゃ!」
抜けかけていた魂が戻ったぬし様が、怒って問いかけてきた。
「人族の街です。偵察に出したハーピー達が見つけてくるはずなので、そこに潜入してきます」
そう、ハーピー達の航空偵察では、人族の数や配置は分かるが、それ以外の情報は分からない。
ゴールデンドラゴンのぬし様をどうやって倒すつもりなのか、最終的にどれだけの部隊が集結するつもりなのか、などだ。
とにかく情報を集めて、敵の隙を探らなければならない。
そして人族の領域に潜入できるのは、この勢力の中では私だけだった。
「う、あ、そうじゃ!前に皆で話し合って決めたじゃろう、実音は2番目に偉いと。
こそこそ敵の様子を探る役目を偉い者がする必要はないじゃろう。別の者にやらせるのじゃ」
ぬし様が反対の声をあげる。
いえ、偵察活動に行く者程、優秀じゃないといけないんですよ、ぬし様?
その情報で、味方の命運が決まる事もあるのですから。
「私以外の者が街に行ったら、すぐに斬捨てられてしまいます。
言葉も通じないでしょうし」
「そ、それなら!あの白髪エルフならいけるじゃろう。
な〜に、妾がちょいと耳を齧ってやれば、人族と見分けが付かなくなるじゃろうて」
いやいやいや、何ですかぬし様、その怖い発想は。
ちょっと紫蘭が可哀想に思えてしまうじゃないですか。
却下です、却下。
「残念ながら、エルフの顔は人族からしたら美形すぎます。
だから顔だけでもバレますよ」
「そうか、顔ごと齧らなければならんか…」
死にますって!
これはいけないと、紫蘭に念話を飛ばして隠れるように指示しておいた。
葵と蘇鉄も一緒に退避させる。
家に帰るまでに説得できないかもしれないので、念のためである。
「やっぱりダメじゃ!
人族共に実音が何をされるか分かったものではない!妾も一緒に行く、これが絶対条件じゃ!」
う〜ん、そうは言うけど、どうしたら良いんだろう。
ぬし様を人族の街に連れて行くには問題が多すぎる。
ぬし様は人型に変身できるが、それでも一部はドラゴンのままなのだ。
まず、頭の角。それに背中の2対4枚の翼。最後に尻尾だ。
これを見て、人族だと思う盆暗ばかりが人族だとは思えない。
ここで悩んでも解決不能な問題なので、家に帰って相談してみる事にした。
食堂、いや、今は教会となった部屋に行き女神に良い方法がないか聞いてみる。
立場上、そこまで私達の勢力に肩入れできないとは言っていたけど、これぐらいならいいでしょ。
「あら、そんなに難しい事じゃないわよ?
実音ちゃんったら、頭が固いのね」
女神に言われてしまった。
何だろうこの敗北感。く、屈辱…。
「ドラちゃん、部屋に積んでいる人族の装備、全部ここにもってきなさい。
それから紫蘭ちゃん達も呼び戻しておいて」
女神の指示に従って、バタバタと動く私達。
食堂に兜やら、鎧やらが積みあがっていく。金属製だから重い。
しかも、やけにキラキラしているものばかり。
これを着ていたヤツは何を考えていたのやら。金なんて付けたら鎧が無駄に重くなるのに。
本気で戦う気はあったのだろうか?
「じゃあ、ドラちゃん、そこに立って両手を水平に伸ばして。
動いちゃダメよ」
女神はそう言って、鎧や兜をぬし様に重ねていく。
「色合い的にはこれかしら。
でもちょっと大きすぎるわね。
よし、これとこれを組み合わせましょう」
どうやら装備が決まったようだ。
胸当てと手甲、脛から足までを覆う靴。何れも金色だ。
裸身の上からそれらを見に付けたのでよく分かるけど、肩とか腕とか腰とか、色々装備が足りていないようだけど?
「ドラちゃん、ちょっと羽を動かして。
そうそう、そうやって羽は肩と腰を保護している防具と思わせるのよ」
おぉ、確かにそれっぽい。
あ〜、でもなぁ。
「角と尻尾はどうするの?」
「実音ちゃん、少しは頭を働かせなさい。
尻尾はスカートを穿いて隠しましょう。戦闘服なんだから、集めの生地にするでしょう?
それから、角の方だけど…」
そう言って女神が兜を拾い上げた。
その兜に対し、女神が加工を加えぬし様に被せた。
ふむ、なるほど。
「確かに、角が兜の一部に見えるわ」
「そうでしょう?これだけ立派な角だもの。兜に付けていても不思議じゃないわ。
自分の強さを表すシンボルね。
人族の装備にはこういうものが多いのよ」
兜は、目元を隠せるように、一部が稼動するようになっており、それも丁度良いと言えた。
人前では顔を隠してもらえばより気付かれ難いだろうしね。
最後に、大剣を背中に背負って羽の付け根を隠せば完成。
これで立派な…立派な…何だろう?
「早く服を作ってあげなさいね」
そう、全裸で鎧を装備しているので、頭隠して何とやらみたいな状態になってしまったのだ。
ぬし様、とりあえず前に作った服持ってきますので、その上から鎧を付け直しましょう?




