05 ゴールデンドラゴンとの遭遇③
評価・ブックマーク、ありがとう御座います。ありがとう御座います(ジャンピング平伏)。
ドラゴンに連れられて入った部屋は、何とお風呂場だった。
我が家のお風呂の何倍も大きい。
家風呂サイズではなく、旅館や銭湯のお風呂サイズというか。
この家の持ち主は、随分とお金持ちのようだ。
ドラゴンの家じゃないよね?多分。
建築とかできそうにないし。
横を見ると、ドラゴンはどやぁ、とドヤ顔をしていた。
この娘ったら、もう。
言いたい事はよ〜く分かる。待たされていた時間、きっと水を運びお湯を沸かしていたに違いない。
だって、壁焦げてるもん。明らかに黒くなってるもん。
このまま突っ立ってるのも何なので、お湯に手を入れてみる。
ちょっと熱いぐらいかな。入れなくはない温度だ。
私を煮て食べるつもりかと、少し心配したが、これなら大丈夫だ。
ドラゴンにとっての適温はこれぐらいなのだろうか?
と思いつつ、手を引っ込めたところで、後ろから突き飛ばされた。
少し宙を浮いた後、顔面が水面を捉え、頭を軸にして180°回転する。
未だかつて無い程のアクロバティック体験だった。
続いてドラゴンがジャンプし、両足を広げてお尻から着水してくるが、それどころではない。
「痛たたたたたたたたたぁぁ!」
口から大量の痛みを訴える言葉を吐き出し、立ち上がる。
ドラゴンが驚いた顔でこちらを見てくるが、大丈夫、さっき押されたせいじゃない。
染みるのだ。
腕や脚に無数にできた引っかき傷。
さっきの追いかけっこの時、草や枝でひっかいてできた、まだ新しい傷に熱湯はダメなのだ。
「ダメ、これはダメ!」
痛みを紛わせるため、喚きながらお湯から出る。
痛たたた…。こんな所に傷薬なんてないよね。どうしよう。
ドラゴンの方を見ると、なんだかしょんぼりしている気がする。
一緒に入りたかったのだろうか?
視線で何かを訴えて来ている。
う、まあ、もう一度入ろうかな?濡れなければ痛くないものね?腕と脚を濡らさないように入れば良いんだからね。
となると、どんな姿勢が良いのやら…。
浴槽の縁に膝の裏をあて、両手で抱えるという、変則体育座り状態になった。
他の方法は思いつかなかった…。
すぐ横ではドラゴンも同じ格好をしているし。
尻尾があるから、あっちの方が安定性は良いし。
「ち、違います。これは別に、私の故郷の入浴の作法とかではありません!ケガをしているから已む無くこうしているんです!」
声に出して主張してみるが、首を傾げられてしまった。
通じていない!
英語の増田先生!いえ、マスター増田!これからはドラゴン語の授業をお願いします!
念じてみるが伝わるハズも無く…。
何故かあの自称女神が「ドラゴン語の習得、ファイナルアンサー?」的な顔でこっちを見ている気がする。
帰って下さい、お願いします。
二人(?)して妙な姿勢でほっこりしていると、表からばたばたと足音が聞こえてきた。
そのまま姿勢を変えるヒマもなく、お風呂場に突入されてしまった。
誰?男!?…ではない、どうやら女性のようだ。
肩の辺りで切りそろえられた銀色の髪、茶褐色の肌、そして特徴的な笹穂状の耳。
ひょっとしてこの方、エルフ?
推定エルフは、ドラゴンの方に近寄り身振り手振りで何かを伝え始めた。
剣と盾を持つようなポーズ、そのまま反復横飛びみたいに、ぴょんぴょんと左右に、そして後ろに下がりながら飛び、12人いる事を表現していた。
そして左手で方向を指差し、右手を肘から上下に振り、ドラゴンに来て欲しい事をアピールしている。
うん、何となく分かるけど、不便!
何と言うか、ものすごくじれったい。
さてドラゴンは、と横を見てみると、相変わらず変則体育座りの格好のまま、イヤそうな顔をしていた。
そのままの格好で私を見ると、ひとつ大きなため息を吐き、お湯から出て行く。
ドラゴンが部屋から出る時、推定エルフの肩を叩き、私の方を見て、「ぐぎゅう」と鳴いていった。
さて、私も湯船から出るかと脚に力を入れ、お湯からぬるりと脱出すると出口に向かった。
が、推定エルフに止められた。
何故?あ、濡れたままじゃダメなのかしら?
タオルを持ってきてくれるのかと期待して待ってみるが、推定エルフは両手を広げたまま、部屋の出口から動かない。
ん?と思い相手の目を見てみると、何か変な顔で睨み返された。悪いものでも食べたのかしら?
いや、緊張をした顔のような?額に汗がにじんできているし、視線がうろうろと落ち着き無いし。
分かった、ドラゴンに私について何か指示をされたけど、何を指示されたのかが分からず困っているんだ。
私と相手とでは種族が違うし、話もできないし、さてどうしたものか。
とりあえずボディーランゲージを試みる。
「大丈夫、怖くないよ〜」と優しげな声音で言いつつ、両手を広げて微笑む。
言葉が通じなくても、雰囲気で伝わるものもある。声も出すのも重要だと思う。
もう全裸で、どこも隠せてない状態だけど、変に疑われるよりかはマシだ!乙女の恥じらいは一旦お風呂に沈めておく。
相手の方は、私が敵意を持ってない事が分かって少し安心したようだ。
だが、その後顔を赤くして私を睨みつけて来る。あ、まさかコイツ!
とっさに左手で胸を隠し、右手を広げて相手に向ける。私にそのケは御座いません!
相手は今度こそ安心したようで、落ち着いたかと思えば、また視線をあっちこっちに彷徨わせ始めた。
分かった、私の立場が分からないから、もてなすべきか、このまま閉じ込めておくべきか迷ってるんだ。
今がチャンス!とばかりに再びボディーランゲージを試みる。
まず自分を指差し、今度は廊下を指差し、「私はあっちに行きたい」とアピール。
相手はまた困った顔に。
推定エルフとボディーランゲージしてる間に、ある程度お湯が落ちたので、そろそろ服を着たいんだけど。
相手に自信が無いようなので、私はさも当然といった顔で廊下に向かう。
推定エルフは止めようと一瞬動きかけるが、私が「何で邪魔するの?」と表情と言葉をセットでアピールすると動きが止まる。
そのまま、自然な形で廊下に出る。
ハッタリが効いて良かった。流石にちょっと鼓動が早くなってる。落ち着け〜落ち着け私。
食堂に入ると、脱いだ服はそのまま床にあった。良かった。
ポケットからハンカチを取り出し、身体に付いている水気を取る。
手早く服を着て、ハンカチを椅子にかけると、廊下から推定エルフがこっちを見ていた。
言葉が通じないし、とりあえず放置する事にする。
さて、服を着て落ち着いたし、風呂上りで火照った身体を冷ますかな、と椅子に座り、右手で自分をぱたぱたと扇ぐ。
他にやる事もないし、お風呂に入って眠くなってきたので、目を閉じてぼ〜っとしてると、声がした。
推定エルフが話しかけてきたのだろうかと目を半分開けると、扇風機で送られたような風を感じた。
不思議に思い目を全開にすると、推定エルフの横に、蝶の羽を生やした手のひらサイズの女の子が飛んでいた。
察するに、この推定妖精さんが風を送ってくれているのだろう。
というか、推定エルフだの、妖精だの、そろそろめんどくさくなってきた。
どうせほぼ間違いないのだし、これからはエルフ、妖精と呼ぶ事にする。
ただし自称女神、ヤツは許さない。自称が今後外れる事はないと思え。
「ありがとう」と言って微笑むと、妖精も微笑んで両手を胸の前でひらひらさせる。
風の吹き方も変化したので、間違いない、あの妖精の力だと確信する。
火照りもおさまり、ついでに髪も乾いたので、「もういいよ」と妖精に向かって手を広げた。
どうやら妖精さんは察しが良いらしく、すぐに風を止めてくれる。
髪の毛をいつもの通り、ポニーテールにまとめる。
またもやる事がなくなってしまい、ぼ〜っとする。
妖精さんは私に興味を持ったのか、私の顔の前をホバリングしてうろうろする。
エルフは何か言おうか、言うまいか迷っているようだ。
ドラゴン、帰ってこないかな〜と思いつつ、ふと閃くものがあった。
そうだ、鼻歌を歌ったら帰ってくるかも?と根拠も何もない、本当にその場限りの思いつきだったが、何もやらないよりはマシだろう。
いや、何もやらない方がマシという結果になったら凄くイヤだな。
う〜ん。よし、やろう。
ふんふふ〜ん。
ふふふふ〜ん
と、さっきの即興鼻歌を再開する。
適当にふんふん言って二周目に入った所で妖精さんも入ってきた。
ふんふふ〜ん。
はにょはにょはにょ〜。
音程とか発音とか、細かい事はどうでもいい。一緒に何かしているのが大事なのだ。
ほら、そこのエルフさんも。と思いつつ視線を向けると、エルフさんは私と妖精さんを交互に見ておろおろしていた。
心の声を予想すると「え、何?一緒に歌う雰囲気なの?歌わなきゃいけないの!?」といった所。
はい、今はそういう空気です。
エルフさんも恥ずかしがらずに入っていらっしゃい。
おずおずと、四週目にはエルフも入ってきた。
顔が赤いが恥ずかしがる事はないよ。むしろこの場においては恥らったら負けだと思う。
ふんふふ〜ん。
はにょはにょはにょ〜。
フフフフ〜ン。
3人そろって一緒に歌う。
歌って偉大だなぁ。世界が変わってもこうして通じあえた気になれるんだから。
そして十週目になると、
ふんふふ〜ん。
はにょはにょはにょは〜。
フフフフ〜ン。
ぎゃぎゃぎゃぐぐぐぎゃぎゃ〜ん。
いよいよドラゴン様御登場となるのであった。