04 ゴールデンドラゴンとの遭遇②
前略、お父様、お母様。
私は異世界の森で、ドラゴンに食べられて死んでしまうものかと思っていましたが、かろうじてまだ生きています。
あと数秒で食べられるかもしれませんし、もうしばらくは無事かもしれません。
とりあえず、今現在、私は元気です。
何でか知りませんが、すんすん、すんすんとドラゴンに匂いを嗅がれ続けているだけですので。
と、現実逃避して脳内お手紙をしたため始めていたが、この状況…いつまで続くのだろうか?
そう思っていると、ぺろっと頬を舐められた。
そうかそうか、これがドラゴンの食事作法なのか。
人間がワインを飲む前に、香りを楽しむのと一緒なんだね。最後に勉強になったよ。
激しい運動と、恐怖によりくたくたとなった身体を動かす気にはなれず、脳内での独り言が激しくなってきた頃。
ついにドラゴンが口を開けた。
これで終わりか、とぼんやり思いつつ、迫ってくる巨大な牙を見つめる。
上顎、そして下顎が私を挟み込む。
だめだ、今度こそ間違いなく最期だ。
恐怖で身体が震える。
涙が止まらない。
せめて一思いに、苦しまないようにして、と願いつつ目を閉じた。
はむっ、と。
噛み砕いたり、咀嚼したりするのとは明らかに違う感触がした。
それからしばらく、思っていたような激痛はやってこず、おかしいなとおもいつつ目を開けてみると、ドラゴンの横顔がすぐ間近。
どうやら甘噛み状態で持ち上げられたようだ。
「あ、へえぇ?」
困惑状態の私の口から、へんな音が出る。
花も恥らう乙女な私としては、記憶から消去してしまいたい黒歴史が、今日だけでてんこ盛りになっている。
そのままドラゴンは羽を広げ飛び出した。
「ど、どこに行く気〜!?」
つい質問してしまったが、返事はない。
どうやら、言語が違うようだ。
まあ、分かりますよ。
この流れで行くとしたら巣ですよ。
きっと卵から孵ったばかりのベビーゴールデンドラゴンが何匹もいて、そこに私を放り込むんですよね?
狩りの練習だ、とかいう理由で、ベビー達に引き千切られるんですよね、私?
何故か心の声が敬語になる。
体がまた震え出してしまう。
いや、実際の所、高空を高速で飛んでいる寒さのせいで震えているのかもしれない。
さっきから顔に当たる風とかで、髪の毛がバサバサ暴れている。
後ろでまとめて、ポニーテールにしていて良かった。
まとめてなかったら何本か引き千切れているよ。
それから、あっと言う間に高度が下がり始めてきた。
早い!?それとも近かった?
降りる先は、また森の中の、やや拓けた場所だった。
そっと、草むらに降ろされて、ゴールデンドラゴンを見上げる姿勢になった。
何か言いたげな目をしている。
勝手な想像だけど、寂しげな視線だと思った。
そのまま見つめあっていると、ついにはドラゴンが視線を逸らした。
見続けるのも悪いかなと思い、ドラゴンとは反対の方向を見る。
石造りの、立派な建物があった。
やや離れた所にも何件が建物があるが、その中で最も立派な建物だ。
そうか!私は勘違いしていたのか!
と、突然頭に閃くものがあった。
緑の魔物集団が来たから、てっきり敵かと勘違いしてしまったが、このドラゴンは味方だったんだ。
きっと女神教の関係者なのだ。
じっと、一晩中私を見ていたのも、私を見守るため。
森で追いかけっこしたのも、私が逃げたから。ただ離れないようにしただけ。
匂いを嗅いできたのも、多分何かの確認だったんだ。異世界転移者特有の匂いがあるんだな。
私の家、線香臭かったりするし。
周りの家から人の気配がしないのはおかしい気がするが、きっと私を歓迎するために、この正面の家に集まっているのだろう。
ぱっ、と顔の筋肉を喜びに綻ばせ、ドラゴンの方を振り返る。
そこには気品と誇りを兼ね備えた、金に輝くドラゴンがいて、私を見つめ返してくる、のではなく。
背中まで伸びる金の髪、頭に大きな角を生やし、2対4枚の翼と長い尻尾を生やした女の娘がこっちをみていた。
身長は私より低い。角を除くと158cmの私より小さいから、145cmぐらいか?
あ、違うなコレ。
一目見た瞬間、私には理解できた。
絶対この娘、女神教の関係者ではない。
同じ金にしても、あの自称女神とこの娘とでは、気品が違いすぎる。
この娘はあの自称女神の下に付くような器ではない。
「ぐぎゃあ」と鳴いて、手を引かれる。
そのまま、さっきの建物の中へと進んでいった。
私、どうなっちゃうんだろう?
それから、食堂らしき部屋でしばらく待たされた。
言葉は通じないが、視線と身振り手振りで何となく言いたい事は分かる。
どう考えてもあの娘、ドラゴンが人間に変身したものなのだろうが、知性はあるようだ。
最初は立って待っていたが、随分待たされるので椅子に座る事にした。
5分ぐらい、背もたれに体重を預けぼ〜っとする。
ドラゴンはまだ来ない。
机に肘を突き、両手で顎を支える。
ドラゴンはまだ来ない。
何となく適当に鼻歌などを歌ってみる。
最初は適当にやる気もない感じだったが、しばらく歌っていると何だか気分がよくなってきた。
ついつい音も大きくなり、肩もゆすり、目を閉じて、この際だ、ヤケになってノリッノリになってみる。
ふんふふ〜ん。
ふふふふ〜ん。
ふふぐぐぐぎゃ〜。
ぎゃぎゃぎゃぐぐぐやふ〜ん。
「ぅぎゃ〜!?」
驚いた!いつの間にか横で一緒に鼻歌デュエットしてたよこのドラゴン!
ドラゴンは目をきょとん、とさせていたが、一息つくと、私の服に手をかけてきた。
え、食べられる?性的な意味で?
「え、ちょっ、何で?何で脱がすの?」
セーラー服を脱がそうとまくり上げてくるが、それでは脱げない。
ファスナーを、前のファスナーを下ろさせて〜!
その後、じたばたと悪戦苦闘を繰り広げ、結局全部脱がされた。髪を縛っていたリボンも外される。
羞恥で顔が熱い。きっと真っ赤になっているのだろう。
何?何なの?
このドラゴンも全裸だから、これで対等な状態になったと言いたいの?
でも、ドラゴンの方は、白い肌の上に所々に金の鱗があったり、4枚の羽を折り曲げて腰とか肩を覆ってる。
私の方が圧倒的に防御力が低いじゃないか!視線という攻撃に対し無防備じゃないか私!
抗議の意思を視線に乗せ、届けこの想いとばかりにドラゴンを見る。
「ぐぎゃぁ」
と嬉しそうに喉を鳴らすと、私の手をひっぱり廊下に出た。
ウソ!このままどこに行こうというの!?
ちょっ、ダメ、外はダメ。
せめて中、このまま中にして〜。
そんな願いが通じたのかどうか、そのまま近くの部屋に連れ込まれたのだった。