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30 海で魚と戯れる②

「ごめんなさい。私達が水面を叩いたせいで、皆さんを気絶させてしまいました」

 正直に告白し、頭を下げる私。

 ぬし様は下げなくていいです。指示した私が悪いのです。


 しかし、残念な事に私の謝罪は、被害を被った魚人族の怒りを抑える事はできなかった。

 いや、むしろ火に油だった。


「何だと!全く許せねえ話だ。なあ、そうだろう海老彦よ?」

 そう言って、隣を見る魚顔の半漁人。

 …いや、ほぼ魚人。


「応ともさ!ぶん殴ってやろうぜハマっつぁん!」

 そう言って腕を振り上げる、海老顔の魚人。

 いや、腕?ハサミだよあれ。

 というか魚人?魚人って何だ。魚に手足が付いたら魚人なの?

 じゃあコイツは海老人間だ!


 海老彦につられて、腕を振り上げるその他の海鮮系亜人達。

 蛸やら烏賊やら…よく共存できるねアナタ達。


 と、そのまま雄叫びを上げてこちらに走ってきた。

 怖い、怖すぎる!

 これは絶対夢に出る。


 というか、海老の凶悪なハサミやら、蛸の触手や烏賊の触腕で殴られたら無事ではすまない。

「たすけてぬし様!」

 叫びながらぬし様の後ろに走る私。


「この有象無象らめが!妾の宝に何をする気じゃ!」

 そう吼えて、口から炎を吐き出し、右から左へと掃射するぬし様。

 うわ、凶悪!

 吐き出した炎が、砂浜に残って燃えている。

 見た感じ、何か燃える液体と同時に炎を吐き出した?


 炎を浴びた魚人達は、砂浜を転がっても火が消える気配がなく、そのまま焼け死んでいく。

 泡を吹き、灰色の身体を赤く染めて燃えていく海老彦。

 ぱくぱく動かしていた口も、もう動かなくなり、死んだ魚の目のような目になったハマっつぁん。ていうかハマチ。

 熱により脚が丸まった蛸。

 全身真っ白になった烏賊。

 そして漂う、美味しそうな匂い。


「うぷっ」

 吐き気が込み上げ、えずいてしまう私。

 脳が混乱している。

 視覚には人型(に近いもの)の死体。

 嗅覚には食欲をそそる刺激。

 結果として胃が暴走して、胃酸が逆流する形になってしまった。


 そして、ぬし様は、若干焦げる程度に焼けた海鮮系亜人に近づき口を開く。

 バリボリゴキュリと、大きな口で噛み砕く音が響く。

 あぁ、ぬし様、そんな豪快に食べなくても…。


 地獄…。

 今、私の目の前には地獄の風景が広がっている。

 あぁ、神様、私はどこで間違ってしまったのですか。

 こんな結果を迎えるつもりなんて、微塵もなかったのに。

 もしも時を戻れるなら、もっと違う未来に辿り付けるように頑張れるのに…。


 そう悔やむ私に対し、何と神が答えをくれた。

「それは素直に謝ったからです!」




「今、何と叫んだのじゃ実音?」

 どうやら、ぬし様に通じない言語で独り言を叫んでしまったようだ。日本語かな?


 砂浜に打ち上げられた魚人族を前に、現実逃避を兼ねた脳内未来予想をしていたのだけど、ついつい熱くなりすぎてしまった。

 しかし、予想してみて良かった。

 素直に謝っていた場合、全面戦争の可能性がある。


 ぬし様がいるから、陸に上がった魚人族に負ける可能性など皆無だけど、毎日魚料理ってのもな〜。

 ぬし様も毎日魚は飽きてしまうだろうし…。

 できれば戦いたくない。

 女神にも、皆が共存できる世界を作ると約束したし、いきなり修復不可能な関係を魚人族と築くワケにはいかない。


 どうしよう、何とか人族に罪を擦り付ける手はないだろうか…。

 罪の押付けとか、外道以外の何者でもないけど、これも世界平和のため。

 女神様、目をつぶっていて頂きたい。


 あちこちに視線を巡らせていると、砂浜に木箱が打ち上げられているのを見つけた。

 あ、これさっきの箱だ!


 箱を海底にひきずり込もうとした魚人が気絶したから、流れてきたのだな。

 とりあえず中身を確認してみる。

 え、網!?

 何と箱には漁業に使われる、大きな網が折り畳まれて入っていた。


 …あれ、迷い込んだ釣り船だったのかな?

 それとも女神教の工作員が、現地で釣り船を接収したのかな?

 まあいい、これは好都合だ。早速利用する事にする。


「ぬし様、この箱を持って飛んで下さい!」

 私は、急いでぬし様の背に飛び乗りお願いした。

 そうして海上に飛び上がったぬし様に、網を広げて投げ捨てるようにお願いする。

 要望通り、実行してくれるぬし様。

 よしよし、うまい具合に浜に打ち上げられた連中に絡み付いてくれた。


「ぬし様、この箱を内側から爆破して下さい!」

 次のお願いをする。

「?」

 よく分からないけど、とりあえず爆破してくれるぬし様。

 破片がばらばらと海に落ち、会場に浮かんだものが浜へと流されていく。

 よ〜し、よしよし。

 良い潮の流れだ。

 海、ありがとう!


 さてさて、再度浜へと降り立った私は、最初に遭遇した魚人に駆け寄った。

「大丈夫!?しっかりして!」

 網をほどくフリして、こっそり網を絡みつけておく。

 よし、準備は万全。

 早く目を覚ましなさい。


 何度か身体を揺すり、呼びかけたところで、魚人の目が薄っすら開いた。

「う、ここは、砂浜か?

 どうしてこんな所に…」

 呻き声を上げる魚人。

「動かないで!網が身体に絡みつくわ。

 じっとしててね、今ほどくから」

 そこですかさず声をかける私。

 よし、これで好意的に救助活動をしている人族という立ち位置を得る事ができた!


「私達、上空から一部始終を見てたの。

 貴方、木箱を水中に引き込んだでしょ?」

「あ、あぁ。そうか思い出したぞ、あの時空にいたドラゴンに乗っていたのか」

「そうよ。あの箱が爆発したの。

 その後、網が飛び出て、貴方達皆を巻き込んで砂浜まで流れ着いたのよ。

 ほら見て、あそこに木箱の破片が漂ってるわ」

「そうか、あの箱が…」

 よ〜し、よしよし。事件をでっち上げる事にも成功したわ。


「船に乗っていた人間が仕込んでいた、卑劣な罠よ。

 犯人は女神教という、人族の危険な組織の者ね。

 昨日私も襲われたの。

 あ、ちなみに私は人間だけど、このドラゴン様の味方だから、人族とは敵対関係にいるのよ」

「なんだって!?畜生、人族め許せねぇ。

 しかし、アンタのその鎧、船に乗っていた人間の装備にそっくりだが、本当に敵対関係なのか?」

「もちろんよ。

 これは、昨日襲われたときに返り討ちにして奪ったものなのよ!」

 適度に真実を織り交ぜつつ、犯人のでっち上げにも成功する。

 ふぅ、難しい作戦だったけど、成功して良かった。

 これで私達はお友達。人族は敵という事だ。


『ねえ、実音ちゃん?

 今の貴方の行為、昔人族がハーピーとリザードマンに対して取った戦法にと〜っても良く似てるわね。

 そんな事で、本当に世界が平和になるのかしら?」

 怒られた!

 しまった、一部始終を見られていたのか!?

 女神が念話で話しかけてくるとは…。

『違うの、嘘も方便っていうでしょ。

 どのみち、戦わずに世界平和を掴むのは無理よ。

 一度は人族と戦う必要があるの。

 だから女神教と戦う仲間として結束するのは必要な事だし、結果として問題ないでしょ?』

 魚人に対して、何とか対応できたが、今度は女神が相手とは…。

 とりあえず、即興で組み立てた言い訳を披露してみるが、さてどうなるだろうか。


『…もしも、味方と思っている相手を騙すようなマネをしたら、許さないからね?』

 ウフフフフ…という笑い声と共に、念話が途切れる感覚がした。

 ふぅ、危ない所だった。

 壁に耳あり、障子に目あり。

 今度からは天井に女神ありと思っておこう。


「危ない所を助けてくれてありがとう、何か礼をさせてくれ」

 おっと、そういえばまだ魚人と話中だった。

 礼…、礼か。

「そうね、とりあえず船に乗っていた人間と積荷を確認させてくれるかしら?」

 まずは当初の目的を果たす事にした。


ちなみに、脳内シュミレーション中にぬし様が吐いた炎は、ナパーム的なやつです。

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