19 森の生き物③
「何本起こせたかの〜?」
そんな言葉と共に、ぬっと現れたトレント。
上にエルフ達を乗せている。さっき、ぬし様に説教した個体だ。
「もう終わりましたよ」
答える私。
「何じゃと!?そのドラゴンは、そこまで力が強いのか」
予想外の展開に驚くトレント。
残念外れ。こういうのは力ではない、頭の使い方なのだよ。
ふふん、と調子に乗ってはみたが、冷静に考えると結局頭だけでもどうにもならなかったんだよね。
てこの原理を使っても力は必要。
という事でぬし様すごい。
よっ、怪力ぬし様。
褒めてみたら、何か照れくさそうに、そっぽを向かれてしまった。
じゃあ、私達はこれで帰ります。と言おうとしたところで、トレント達に囲まれてしまった。
7本の大木!何という威圧感。
そんな木々が次々に喋り出す。
「まあ待て待て」
「まだ礼をしてないからの」
「そうじゃそうじゃ、よくやってくれたのう」
「いったい何年、あの格好でいればよいかと途方にくれたぞ」
「しかし、ドラゴンにはどんなお礼をしてやろうかの」
「さて、想像もつかんの」
「なあに、本人の体に直接聞いてみればよかろう」
お礼参り!?
うわ、何ソレ怖い。
私達を囲んで、ぬし様を飛ばせないようにしながら、不穏な会話を繰り広げてるよ。
「お肉なんかどうですか?」
紫蘭!?トレントに何アドバイスしてるの?
ぬし様、お腹の装甲薄いみたいだから、そこを攻めろと言ってるの!?
「奴ら、何と言っておるのじゃ?」
ぬし様が、焦れたのか私に、聞いてくる。
え〜っと、これ翻訳したらどうなるんだろう。戦闘開始にならないよね?
言おうとした直前、ぬし様に説教したトレントが口を開いた。
「木々を薙ぎ倒したのは許そう。
その上で、仲間を助け起こしてくれた事に礼を言おう。
お主、甘いものは好きかの?」
と言ってきた。
あれ、純粋にお礼をしてくれるの?
何て心の広い種族なのだ。
私だったら、結構根に持ちそうな気がする。
あっ、もしかして?
トレント達根っこで歩いているから根深くないのか。いや、そういう問題ではないかな?
付いて来いというので、またぬし様の背中に乗せてもらい、のっしのっしと森を歩いて行った。
説教トレント以外は移動するつもりはないようで、後ろで手を振り「お達者で〜」等と口にしている。
うむ、これにて一件落着。
…あれ?悪代官とか成敗したっけ!?
「ここじゃ」
そう言ってトレントが足を止めた所には、赤い実をつけた木があった。
あれが甘いもの?
木・赤い実・甘い。
「りんご?」
と紫蘭達に聞いてみる。
「そうですね、林檎です」
と答える紫蘭。
え、そうなの?茄子とかもそうだったけど、林檎も地球と一緒なの!?
何だろうこの世界。地球との互換性が高い気がするよ?
これで牛とか、魚とかもいれば、食の方は心配しないで生きていけるかもしれない
寿司、鰻、焼肉…。夢は広がる。ゴクリ。
「何じゃあの赤い実は?うまいのか?」
林檎はまだ食べた事がないのだろう。ぬし様が聞いてくる。
「ぬし様の口に合うといいんですけどね。とりあえず、その姿だとひと飲みでしょうから、人型になりましょうか」
と、ぬし様に変身を促す。
変身したぬし様は、4枚の羽を羽ばたかせ、実をもいできてくれた。
私とぬし様、2人で同時に食べる。
しゃくり、と気持ちの良い音をたてる林檎。
味の方はというと、地球で食べたもの程ではないが、十分甘かった。
ふむふむ、確かに林檎だ。酸っぱい林檎じゃなくて良かった。
「ぬし様、林檎はどうですか?おいしいですか?」
あれ、返事がない。
ぬし様…?と思ってそちらをみて見ると、林檎を一口食べて固まっていた。
ぬし様、ぬし様しっかり。魂が抜けましたか!?
おのれ、毒を盛ったかトレント。
と睨みつけようとした所で、ぬし様が口を開いた。
「何じゃこれは、何じゃこれは!?」
大変驚いておられる。
尻尾がピ〜ンと立っている。なるほど、驚くとこうなるのですね。
ひょっとしてぬし様…
「甘いものは初めてでしたか?」
「これが甘いという味なのか!気に入った。全部持っていこう!」
大興奮して次の実をもぎ取りに行こうとするぬし様。
待って、待て待て、お待ちなさい。
「ダメですよぬし様。
一度にいっぱい食べたら、すぐ無くなってしまいます。程ほどにしましょう」
とりあえず制止の声をあげる。
ぬし様の食事量で、欲望のおもむくままに食べ続けたら、この森はいずれ喰らい尽くされてしまう。
我慢を覚えてもらわねば。
「う〜、う〜、まだ食べたいのじゃ〜」
1個目の林檎をあっという間に食べてしまったぬし様が、私に涙目で訴えてくる。
私の制止の言葉を受け入れてくれた事に嬉しさを感じつつ、1個だけというのも流石に我慢のしすぎだと思った私は、林檎は一日3個まで、という約束事を作ったのだった。
今度、焼き林檎でも作ってみようか?喜んでくれそうだ。
「気に入ったようじゃの」
笑顔で林檎を齧るぬし様を見て、トレントが言った。
「おいしそうですね〜」
同じくぬし様を見て、紫蘭が言った。
言葉には出さないが、目が雄弁に語っている。自分も林檎を食べたいと。
およしなさい。今ここで林檎に手を出せば、ぬし様の怒りを買うこと間違いなしだよ。
林檎1つに命をかけるのは、割に合わないと思う。
「今回のお礼に、この木はお主らにやろう。大事にするのじゃぞ」
というトレント。
え、気前良すぎでは?
「良いか、森の中には、これ以外にも美味な実をつける木があるのじゃ。
むやみに火を付けたり、へし折ったりすると、そういう木を失う事になるぞ。
これからは気をつけるのじゃ」
なるほど、ある意味人質みたいなものかな。
ぬし様に翻訳すると、口一杯に林檎を詰め、こくこくと首を縦に振っていた。
大丈夫そうだ。
「うむ、分かってくれればそれで良い」
トレントはゆったりと微笑んだ、と思う。気配的に。
未だに目とか口がどこにあるのか分からないんだよね、この木。
そういえば随分年寄りっぽいけど、樹齢何年なんだろう。
聞いてみた所、何世紀も生きている、古木との事だった。
人間がこの半島に来る前から住んでいた。
人間が来てからも、森の中でひっそりと住んでいた。
そしてとうとう人間が逃げ去るその日まで、人間に見つかった事はなかったそうだ。
このまま、エルフ以外のものと接触する気は無かったそうだが、ぬし様が凄まじく暴れん坊だったから、物申さざるを得なかったそうだ。
暴れん坊ドラゴン…。流行る?
このまま話を続けさせると、延々止まることなく千年以上の歴史を語られそうだったので、また今度と言う事にしてもらう。
そろそろ帰らないと、夕食が遅くなってしまう。
「私、龍宮 実音。貴方は何て名前なの?」
「わしの名か?見ての通り、樫のような体をしておるじゃろう。
最も長生きをしている樫、という意味を込め、樫王と呼ばれておる」
トレント改め、樫王と名乗り合い、今日はこれで御暇させてもらう事とした。
「また林檎を食べに来るからな!」
ぬし様が嬉しそうに宣言する。よっぽど気に入ったんですね。
「さあ、もうさっさと帰るよ!
皆、四の五の言わず、ぬし様に連れていってもらうからね!」
と宣言し、エルフ達をぬし様に運んでもらう。
右手に葵、左手に落ち武者の2号。
そして背中に乗せてもらう私。
紫蘭が「私は?」という顔でこちらを見上げて来た。
「安心して。紫蘭は特等席だよ」
というと、目を輝かせて背中に乗ろうとしてくる紫蘭。
ん、違うよ?そっちじゃない。
もっと前に行きなさい。
あなたの特等席はぬし様の顔の前方にあります。
えぇ、そうです。それ即ち…
「ぬし様の口に甘噛み状態で咥えてもらいます!」
「嫌あぁあぁああ!」
森に響き渡る紫蘭の悲鳴。
聞こえない聞こえない。苦情や拒否の言葉は一切聞こえません。
諦めて、全身だらりとさせた方が良いんじゃないかな?
粗相なんてしようものなら、その辺に紫蘭ごと吐き出してもらうからね。




