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17 森の生き物①

「こんなにたくさん。ありがとう御座います」

「いえいえ、また来てください」

 そう言葉を交わし、エルフ村を後にする私達。


 私達、と言うのはぬし様と私。それから紫蘭、葵と、紫蘭と葵の父こと落ち武者の2号の計5人だった。


 紫蘭と葵は、ぬし様と私の護衛兼世話係としてつけてくれる事になった。

 本人の意志はどうなんだろう?と思って確認してみると、紫蘭はいつも通りですと言い、葵はエルフ族の存亡に関わる重大な仕事であり、誇りを持って任務につきますと胸を張っていた。


 2号は荷物持ちとして付いてきてくれた。

 というのも、駄目元でお願いした結果、エルフ達が着ている服、下着、これから寒くなるからと羽織、食材と色々もらえたので、荷物が多くなったためである。

 異世界転移した時に着ていた、セーラー服と下着しか持っていなかったので、正直大助かりだ。


 それから、ぬし様(人型)が基本全裸なのはいかがなものでしょう、という事でエルフ村の服飾部門の方にお願いして、ぬし様が着れそうな服の制作を依頼してきた。

 翼や尻尾の邪魔にならないものを、と色々アイディアを出しながらお願いしたので、良い仕事をしてくれる事を期待している。


「ぬし様の屋敷に行くには、こちらを通った方が近道です」

 という紫蘭の言葉に従って、私達は今、森の中を進んでいる。

 一歩一歩、確実に進んでいく。


 おっと木の根が邪魔だ。

 ここには窪みがある。

 この辺滑るな、気をつけないと。


 そうだ、一歩一歩確実にだ。


 しかし、ああしかし…。

 一歩一歩、不安が溜まっていくのはどういう事だ。


 うん、分かってる。私は今後悔している。

 何故紫蘭の言う事に従ってしまったのかと。

 今のところは、特に何も問題ない。

 だが、最後まで何もなく進めるだろうか?

 紫蘭と一緒にいれば嫌でも分かる。

 この()は裏を引くと。


 何だか心の不安ゲージが振り切れそうになってきたので、他の人の顔を見回してみた。


 先頭、紫蘭。普通だ。

 むしろ鼻歌を歌いつつの上機嫌。


 二番手、ぬし様。こちらも普通。

 まあね、何があろうとぬし様は怪我とかしないだろうしね。恐れる理由がないか。


 三番手、私。

 何か目つきが座っている気がする。ちょっと顔を揉み解しておこう。


 四番手、落ち武者の2号。

 あ、額から汗を流してる。

 荷物が重いって理由じゃないよね?私と同じで不安なんだよね?

 良かった、仲間がいた。


 そして最後尾、葵。

 すっごい辺りを警戒している。

 仲間と認定。

 うん、不安なのは私1人じゃなかったようだ。よし、決めた。


「ぬし様、飛んで帰りましょう」

「急にどうしたのじゃ?腹でもすいたか?」

 私からの突然の提案で、ぬし様を驚かせてしまったか。

 いやしかし、この地雷原を歩くかのような緊張感は正直勘弁して欲しい。

 紫蘭を傷つけないようにやんわり言うにはどうしたものか…。


「嫌な予感がします。一刻も早くこの場を離れましょう」

 割と正直な理由を告げる事にした。

 下手に誤魔化すより、こっちの方が良いよね。


「ぬぅ、そうか?

 妾は良いが、背中に実音(みお)、右手と左手で1人ずつ掴んだとして、1人余るぞ?」

「大丈夫です、この道は紫蘭がいつも使っている道ですから。

 置いて行っても、1人で帰ってこれます」

 そうだ、不思議な事に紫蘭は1人で行き来できる実績があるのだから大丈夫だ。

 そう思って紫蘭を見ると、あれ?何で涙目になってきょろきょろしてるんだ。

 まさかこいつ…

「道を間違えました〜」

 やっぱりか!本当に、何で紫蘭の言う事に従ってしまったんだ私。


「冗談じゃないです。こんな何が出てくるか分からない所にいられません、早く離脱しましょう!」

 葵が死亡フラグギリギリの台詞を吐いた。

 1人で逃げ出したら危ない所だったよ。


 ぬし様が釈然としない顔をしながら変身しようと私達から離れた直後、激しく木々を揺らして近づいてくるモノがあった。

 その生き物は、荒々しく茂みを突き破ると、私達の前に立ちふさがった。

 一体何だ!?と思いつつ、観察してみる。


 全身、黒い体毛に覆われている。

 がっしりとした筋肉質の体だ。

 丸太かと思わせる程の太い腕を地面に付き、歯をむき出しにして私達を威嚇してくる。


 そう、この生き物は、あれ?この生き物って…

「え、ゴリラ?」

 えぇ、どう見てもゴリラです。本当にありがとう御座いました。

 と、テレビでも見た事のあるその姿に胸を撫で下ろす、ワケにもいかない。

 たしかゴリラって凶暴だったような。その握力で人間なんか握りつぶせたような。

 ど、どうしよう?


「皆、木の上に退避して!」

 と言って、風の精霊の力を借りて、木の枝に登る紫蘭と2号。

 素早く木を駆け上がる葵。

 え、お〜い、私まだそんなに器用に精霊魔法使えないんだけど〜!

 木登り経験もないんだけど〜!!

 なに護衛対象見捨てて退避してるのよ〜。


 最悪だ、ひどく興奮したゴリラと一対一で対峙する事になるなんて…。

 一か八か、平和的に解決できないか会話を試みる。

「降参、戦う気はありません。だから乱暴しないで」

 両手を上げての降伏ポーズ。


「ここは、俺様、剛力の二郎様の縄張りだ、出てけ!出てけぇ!」

 興奮しながら叫び散らすゴリラ。

 バシバシ胸を叩いている。

 これがドラミングか。

 ゴリラ顔の体育教師、郷田先生がたまにやってたけど、やはり本物の迫力は大違いだ。

「あ、はい出て行きます。すぐに出て行きます。だから落ち着いてください」

 会話が成立した事にほっとしつつ、背中を見せないようにじりじり後ずさる私。

 というか、二郎って…。

 私の言語自動翻訳能力、どうなってるの?紫蘭や葵もそうだけど、固有名詞もバシバシ変換してくれるお陰で、何か多種族と交流している感が薄れる。

 英語の成績が壊滅的なせいか、紫蘭みたいな言葉も漢字になるし…。

 あれでしょ、英語ならパープルなんちゃらって感じの言葉なんでしょ?

 まあ、あのゴリラが次男坊って事は分かるんだけどさ〜。


「待て!」

 じりじり下がっている私に、ゴリラが話しかけてきた。


「お前、雌か。俺様の縄張り入って、タダで出れる思ったか?」

 鼻息荒く、先程までとは違う方向で大興奮している。

「果物で良ければ、食料を分けますよ?」

 とりあえず、無難な形で交渉してみる。

 あぁ〜でも、あんまり会話したくないな〜。

 これ、紫蘭達にしてみれば「ウホホ、ウホホホ、ウッホウッホ」みたいに聞こえるんでしょう?

 馬鹿みたいに見られそう。

 そう心配していたが、

「違うぅぅぅ!!」

 と、ゴリラに一蹴された。

 交渉が一瞬で打ち切られた事に喜ぶべきか、一触即発の空気に悲しむべきか。


「雌が雄に詫びる、もちろん交尾!

 やらせる、交尾ぃぃ!!」

 最っ低な性交渉である。

 そりゃ、私ももう高校生ですし、いずれ彼氏もできて、そういう事をする日が来るとか考えた事もありますよ?

 でも、それはもっとムードのある状況で、初めては彼氏の部屋で…とかそういう想像なのだ。

 決して、森の中で興奮したゴリラ顔の男、もといゴリラそのものに交尾させろとか迫られるものではなかった。


 もちろんお断りだ。

 時と場合と種族さえ違えば、可能性はあったかもねと思いつつ、ぬし様の行った方向に全力で走り出す。


「ぬし様助けて!!」

 と、今回は肉声で叫びつつ走る。


 後ろから荒々しい音が追って来る。

 音の感覚から、もうすぐ掴みかかられるという距離まで迫って来てるのが分かる。

 ぬし様が助けてくれると信じてヘッドダイビングを行う。


 背中に何かがかする感触。

 そして強い風を感じる。

 危ない!ギリギリで避けられた。


 と今度は前から風を感じ、

「妾の宝に汚い手で触れるでない!」

 と後ろから声が聞こえ、

 続いて遥か後ろの方で、轟音と木がへし折れる音がした。


 何とか前回り受身を取った私は、ぬし様(人型)が私の上をすれ違い、飛び蹴りをゴリラにお見舞いしてくれたのだと察した。

 ありがとう御座います、ぬし様。

 もうエルフ達は放っておいて、私達2人で帰りましょうか?


ちなみに紫蘭を英語にするとbletilla striataだそうで。

わ、分らんですわ…。

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